親、兄弟、親せきで話し合いたい相続~円満に進めるための4つの知識
お正月に久しぶりに親や兄弟姉妹と会うのを楽しみにしている方が大勢いらっしゃると思います。
きっと、にぎやかで楽しい雰囲気に包まれていると思います。
ただ、仲の良い家族が相続をきっかけに険悪になってしまう“争族”になってしまうこともめずらしくありません。
そこで、円満に相続を乗り切るための「知っておきたい民法の知識」を4つお伝えします。
その1~法定相続分は「一応の割合」にしか過ぎない
人が亡くなると相続が発生します。
遺言がない場合、相続が発生すると、被相続人(亡くなった人)の財産が「一定の範囲の人」に「一定の割合」で移転します。この「一定の範囲の人」を「相続人」、「一定の割合」を「法定相続分」と言います。
たとえば、妻と2人の子どもがいる男性が死亡すると、妻が2分の1(4分の2)、残りを子ども2人がそれぞれ4分の1の割合で引き継ぎます。
親の遺産分けの相談をよく受けるのですが、「相続分相当の財産をもらうのが当然」と思っている人よくいます。しかし、この考えは誤りです。
法定相続分は被相続人の財産を「誰のものでもない期間を無くすため」に法律が定めた「一応の割合」でしか過ぎません。
たとえば、親が所有していた土地や建物が親の死後だれのものでもない(つまり、所有者がいない)期間が生じてしまったら困るはずです。また、被相続人にお金を貸していた銀行は、だれに請求をしたらよいのかわからなくなってしまいます。このような状況になってしまったら社会や経済は大混乱に陥ってしまいます。
そこで、民法は相続が発生したら被相続人の財産をとりあえず相続人に法定相続分の割合で移転させることにしたのです。その結果、相続財産は相続人の間で各々の相続分の割合での「共有関係」となります。
しかし、共有関係はいろいろと不都合が起きます。たとえば、遺産の不動産を売却する場合は、共有者全員(相続人全員)の合意が必要になります。また、銀行等の金融機関は、遺産である預金等の解約・支払に原則応じません。
そこで、共有関係にある相続財産を各相続人の単独所有にする必要性が生じます。そのためには、相続人全員による話し合いで決めることになります。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
その2~遺産は自由に分け合うことができる(遺産分割自由の原則)
遺産は、相続人の話し合い(協議)でどのようにも分けることができます。たとえ、被相続人が遺言を残していたとしても、相続人全員が「遺言があるけれど話し合いで決めましょう」と合意すれば、協議で決めることができます(「死者の意思は生者の意思を拘束し得ない」ということです)。このことを「遺産分割自由の原則」といいます。したがって、相続人全員が合意すれば相続人の一人が全ての遺産を取得することも可能です。
その3~全員参加・全員合意の鉄則
遺産分割協議は多数決で決めることができません。一人でも反対の意見が出ると成立しないのです。つまり、協議を成立させるには、相続人全員が遺産分割協議に参加して、参加者全員が「この内容で分けることに異議なし!」といった具合に合意する必要があります。なお、残念ながら協議が整わないときは、家庭裁判所の調停および審判で行われることになります(民法907条)。
その4~最後は思いやり(遺産分割の基準)
では、円満に協議を成立させるには、相続人はどのような心得で話し合いに臨めばよいでしょうか。実は、民法は「遺産分割の基準」として次のように心得を提示しています。
民法906条(遺産分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
この条文は、「遺産分割は、相続人の中に年少者、農業・自営業の継続など遺産を引き継がないと仕事に支障が出る者、心身に障害を持つ者、生活困窮者、住居確保が必要な者などがいるときは、それぞれの実情に応じたきめの細かい配慮をして、各相続人にふさわしい財産が配分されるように分割すべである」として、遺産分けの心得を明示しています。
つまり、「相続人同士、お互いを思いやりながら決めましょう」ということです。当たり前のことですが、その当たり前のことが忘れられてしまうのが相続の恐ろしさとも言えます。民法の起草者は、そのことを危惧してこの「当たり前」のことをあえて条文に明記したのではないでしょうか。
もし、親の相続など遺産分けの当事者になったら、以上4つを思い出してみてください。特に4つ目の「遺産分割の基準」は重要です。
思いやりの精神で遺産分けに臨めば、“争族”を回避して、きっと今まで以上に家族の絆が強まるでしょう。そして、毎年楽しいお正月を家族・親戚で迎えることができるはずです。