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消えた200万ヘクタールの森。統計の陰にカラクリあり

田中淳夫森林ジャーナリスト
100haの伐採跡地。いえ、木のない森林です、統計上は……(著者撮影)

日本の森林面積について、ちょっと引っかかるものがあった。

なぜなら毎年見ても日本の森林面積はほぼ変わらないからだ。山間部を訪れると、やたら皆伐地が目立つから、森林面積が減ったんじゃないかと思うのだが、統計に現れていない。

 

一般に言われる日本の森林面積は、2512万ヘクタール。FAO(国連食糧農業機関)のデータでは、日本の森林率は68.2%とされていた。

ところがこの森林面積を日本の国土面積3779万ヘクタールで割ると、66.5%程度で数字がズレてくる。ものによっては67%という数字がよく登場する。

このズレが気になったのだが、調べるとわかってきた。FAOは、面積の算出基準が日本国内と違って、国土面積に湖沼面積を加えないらしい。だから陸地にある森林の割合が少し増えるのであった。

これで解決か、と思いかけたのだが、FAOの森林の内訳を見ると、約1300万ヘクタールが天然林、約1000万ヘクタールが人工林となっている。……両者を足しても2300万ヘクタールしかないではないか。消えた約200万ヘクタールはどこに行ったのだ?

これも基準を確認するとわかった。竹林と無立木地が別扱いなのだ。竹は植物学的には樹木ではないからわかるとして無立木とは。森林と名付けながら木が生えていない土地が200万ヘクタールもあるというのは……。

そこで竹林面積を調べる。5年前の統計で約16万ヘクタールであった。(ちなみに竹が25~75%侵入している森林は約27万ヘクタール。つまり約43万ヘクタールは森林といっても竹の世界に近い。)

ということは、無立木地は残り180万ヘクタールぐらいと想定していいだろうか。

それにしても無立木地、木が生えていないのに森林とはこれいかに。

普通の人なら不思議に思うだろう。いや、私も不思議でしょうがないのだが、統計的には森林扱いするのである。

具体的な無立木地の定義は、立木及び竹の樹冠の占有面積歩合の合計が0.3未満の林分だとされている。さらに「伐採跡地」と「未立木地」に区分されるとある。未立木地は、山崩れや洪水などの被害跡地と、現に採草、放牧等に供されている土地……だそうだ。

しかし、木が生えられない、生やさない土地を森林に区分するのはおかしくないか。

 

もう一つの伐採跡地は曲者だ。山の木を全部伐ってしまったら、そこは森でなくなると思いきや、これを「将来的にまた森林にもどる土地」と定義付けている。なぜなら再造林するのが前提だからだ。たとえば80年生の木を全部伐って1年生の苗を植えたら、高木林から低木の疎林に変わっただけであり、森は森、という理屈なのだ。

なんか、すごい言い訳だと感じる。これだと、いくら伐採地が増えても日本の森林面積が減らないことになる。

伐採跡地(若齢林?)は、無立木地のうちどれぐらいを占めるのかわからなかった。しかし、バカにならない面積だろうと想像する。

現在、ものすごい勢いで、皆伐が進んでいるからだ。1か所20ヘクタールぐらいは当たり前で、ときに100ヘクタール200ヘクタールの皆伐地が各地に広がっている。「日本の森は伐り時」と林野庁が音頭を取って、伐採を推進しているのだ。また木材価格が安くなり、少々木を伐っても利益が出ないから、量で稼げとばかり、伐採面積を増やす業者が全国に多数いる。いわば薄利多売だ。

しかし、利益はわずかだ。仮に50年間育てた森を10ヘクタール皆伐しても数百万円程度か。育林に費やした経費を考えればまったく赤字だ。それでも補助金目当てで伐採する。伐るだけで金がもらえるのだから。なお跡地に苗を植えた後に枯れても森扱いのまま。再造林せずに放置することも多いが、統計上は「いつか森林にもどる土地」。

これなら統計上の森林面積は減らない。日本は森林大国だ、と言い張れる。日本の統計って、なんと便利なんだろう。。。

しかし、無立木地も含めて2500万ヘクタールの森林が日本にある……というのは、やはり誤解を招く。世間には「森林面積は2300万ヘクタール、森林率約61%」とする方が正しい国土の姿を示せるのではないだろうか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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