メキシコで活躍する「元助っ人」たち【メキシカンリーグプレーオフ】
前回、すっかりスリムになって「イケメン化」した元楽天・アマダーの記事を公開したが、彼がプレーしている中南米唯一のサマーリーグ(今年からベネズエラでも夏のプロ野球がスタートしたと言う話も聞くが)であるメキシカンリーグは、北米マイナーリーグの3Aと2Aの中間レベルだと言われている。つまり「4A」とも例えられる日本のトップリーグ・NPB一軍よりワンランク以上格下のリーグということだ。その一方で、選手の報酬は、メキシコ国内のトップリーグ(レベル的にはウィンターリーグの最高峰、メキシカンパシフィックリーグの方が上位だと言えるが、全国リーグという点で「トップリーグ」と言っていいだろう)と言うこともあって、報酬的には、北米のマイナーよりいいとされる。また、文化的な類似から、中南米の野球強国からの選手を引き寄せる環境にある。
そのようなシチュエーションから、NPBで力を出しきれなかった、とくに中南米出身の「元助っ人」が数多くプレーしている。
メキシコシティでのプレーオフ取材時に、ビジターチームであるベラクルス・エルアギラの選手が親しげに声をかけてきた。日本でプレーしていたというそのアメリカ人は、ミッチ・ライブリーと名乗った。日本ハムで2015年にプレーしていた投手だ。このシーズン途中に急遽補強されたこともあり、安定した成績を残すことができず、この年限りで退団となった。翌2016年からは、一時期台湾でプレーしたものの、メキシカンリーグに主戦場を移している。今シーズンはレオン・ブラボーズで開幕を迎えたものの、シーズン途中で強豪、メキシコシティ・ディアブロスロッホスに引き抜かれ、シーズン最後は、ベラクルスの一員として、数ヶ月前まで在籍していたディアブロスと対戦することになった。プレーオフでは第3戦の先発マウンドに立ったが、立ち上がりにつかまり、敗戦投手になってしまった。
ライブリーは、「このリーグの選手の半分くらいは日本でプレーしているよ」と言っていた。さすがにこれは言い過ぎだろうが、各球団探せばいくらでもNPB経験者が見つかる。
北地区の第1ラウンドと各チームの元NPB組
メキシカンリーグは現在プレーオフ真っ只中だ。
北地区を首位で通過し、第1ステージも同6位のアグアスカリエンテス・リエレロスを4連勝で順当に退けた昨年のチャンピオン、ティファナ・トロスには、2015年に楽天でプレーしたアグスティン・ムリーリョと2018-19年に阪神でプレーしたエフレン・ナバーロが在籍している。ナバーロは、2019年のプレミア12の準決勝対アメリカ戦でサヨナラタイムリーを放ち、チームの五輪出場に貢献し、続く東京五輪でも来日した。一方のアグアスカリエンテスの4番は、2017年にヤクルトに在籍していた内野手、カルロス・リベロだった。ナバーロとリベロは、2020年のカリビアンシリーズでもそれぞれメキシコ、ベネズエラの代表として相まみえている。
そしてティファナの4番を任されているのは、2016年に楽天でプレーしたフェリックス・ペレスだ。楽天では5本塁打に終わったが、今シーズンは38本でホームラン王に輝いている。
同じく北地区2位のドスラレドス・テコロテスも5位のユニオンラグナ・アルゴドネロスを順当に4勝1敗で退けた。両チームの3番は、ともに2019年に日本でプレーしている。ドスラレドスがロッテでプレーしたプエルトリコ人のケニス・バルガス、ユニオンラグナの方は、阪神でナバーロとともにプレーしたベネズエラ人のヤンハービス・ソラーテだった。
第1ステージで一番白熱するのは3位と4位の対戦だ。プレーオフの組み合わせの中で一番実力が拮抗しており、それゆえ「下剋上」も起こりやすい。この対戦では案の定というか、メキシカンリーグ史上歴代3位の10回の優勝を誇るモンテレイ・スルタネスが、優勝1回のモンクローバ・アセレロスを圧倒し4勝1敗で下したが、この名門球団も多くの「元NPB組」を擁していた。
4番を任されているドミニカ人のソイロ・アルモンテ(元中日、2018-20年)は、トレードマークのひげがファンからも愛された打者だった。来日初年度にはレギュラーとして3割をマークしたシュアなバッティングに加えて、メキシコではホームランも量産し、今シーズンは、打率.322、ホームラン27本をマークした。
彼に加えてスルタネスには、メキシコ代表チーム常連のベテラン内野手、元広島(2017年)のラミロ・ペーニャも在籍している。開幕時には、昨年ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツからソフトバンク入りしたキューバ人、ダリエル・アルバレスも在籍していたが、彼はシーズン途中に乙坂智がシーズンを終えたサルティージョ・サラペロスに移籍した。
サラペロスの4番には当初、シーズン本塁打のNPB記録をうちたてたウラディミール・バレンティン(2011-19年ヤクルト、2020-21年ソフトバンク)が座っていたが、わずか18試合の出場で退団している。その穴埋めをしたのが、先述の元楽天・ペレスとホームラン王を分け合った元広島(2014-15年)のライネル・ロサリオだ。彼はメキシコでのシーズン後、台湾球界入りしている。
スルタネス相手に悔しい思いをしたアセレロスだが、アルゴドネロスと同じく1勝を挙げたため、シーズン順位が上位ということでワイルドカード枠で第2ステージに残ることになった。このチームにもNPB経験者は多い。
ここでクローザーを務めるのは2007年から2011年にかけて巨人、日本ハムでプレーしたウィルフィン・オビスポだ。レギュラーシーズンで17セーブを挙げた彼は、第1ステージ唯一の勝利にも貢献している。彼に加え、このチームには、2014年に広島に在籍、2019年の侍ジャパンシリーズでも代表チームの一員として来日したザック・フィリップス、それにフィリップスと同じく2014年に広島に入団、翌年までプレーし、通算6勝11セーブを挙げた後、メキシカンリーグ入りし、2018年に再度来日してBCリーグから西武入りして2シーズンで6勝15セーブを挙げたデュアンテ・ヒースも在籍している。ヒースは西武退団後もBCリーグの古巣・富山GRNサンダーバーズで引き続きプレーしたが、今シーズンはメキシコに戻った。
そういう「元NPB組」の投手陣を指導する投手コーチも日本でのプレー経験をもっている。台湾球界では「風神」と呼ばれ、レジェンドのひとりとして数えられるジョナサン・ハーストは2001年シーズンをヤクルトで送っている。
また、アセレロスのバッティングラインナップにも「元助っ人」がいる。ドミニカ人外野手、フランシスコ・ペゲーロは2018年ロッテで50試合に出場している。
最後までもつれた南地区にも「元助っ人」
南地区に話を戻すと、やはりこちらもレギュラーシーズン1位通過の名門、メキシコシティ・ディアブロスロッホスがベラクルスをスイープしている。このシリーズでは、元楽天(2016-18年)のジャフェット・アマダーが3ホーマーを放ちベラクルスに引導を渡している。
2位のタバスコ・オルメカスと5位のキンタナロー・ティグレスの対戦では、大波乱があった。ティグレスが4勝1敗でこのシリーズ一番の「下剋上」を果たしたのだ。
3、4位の対戦はやはり大一番となった。第6戦までもつれたプエブラ・ペリーコスとユカタン・レオーネスによるこのシリーズは、最後は両軍ともに21安打を放つ壮絶な打撃戦となり、20対17といういかにもメキシカンリーグらしいスコアで4位のユカタンがこれを制している。
この両チームの中軸打者も「元NPB組」だ。
プエブラで今シーズン打率.338、22本塁打、71打点を挙げたアレハンドロ・メヒアは、母国ドミニカのカープアカデミーから2015年に広島入りし、7年在籍したが、外国人枠の関係でなかなかチャンスをつかめなかった。しかし、2018年に二軍のウエスタンリーグで三冠王を獲得した打力をメキシコで開花させている。
一方、「下剋上」を果たしたユカタンをリードオフマンとして引っ張ったのが元日本ハムのヤディル・ドレイクだ。キューバ出身のドレイクは2011年に亡命後、メキシコ国籍を取得。2015年の第1回プレミア12ではメキシコ代表のメンバーに名を連ねた。アメリカではマイナー暮らしに終わり、2017年にメキシカンリーグのドゥランゴに活躍の場を移したが、ここで打率.385、14本塁打の成績を残すと、シーズン途中に日本ハムが獲得した。しかし、日本では.232と低迷。翌年からは再びメキシカンリーグでプレーし、昨シーズンからレオーネスの主力打者として活躍している。
ユカタンにはまた、2017年に中日でプレーしたメジャー経験のあるベネズエラ人投手、ホルヘ・ロンドンも在籍し、プレーオフでは抑え役を任されている。今シリーズ最終戦でも3セーブ目を挙げ、試合を締めている。
彼らメキシカンリーグでプレーする「元助っ人」たちは日本では決して成功を収められなかった者たちである。しかし、地球の裏側で今なおプレーを続ける彼らは間違いなく、日本とメキシコを結ぶ架け橋となっている。野球がグローバルスポーツに成長していくためには欠かせない存在の彼らにエールを送りたい。
メキシカンリーグプレーオフ第2ステージ、「セリエ・デ・ソナ」 は、北地区が現地時間19日からドスラレドス対モンテレイ、ティファナ対モンクローバ、南地区が同20日からメキシコシティ対プエブラ、ユカタン対キンタナローの対戦で開幕する。
(注釈のない写真は筆者撮影)