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AV出演強要対策にも逆行? 民法成人年齢引き下げは、若者を食い物にする被害を増やさないか

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
AV出演強要被害防止の啓発ビデオより

■  成人年齢の引き下げ、そこで心配されることとは

  

 成人年齢引き下げ問題が浮上している。選挙は18歳から投票できることになったが、では、民法上の様々な契約をする場合も、18歳から大人としてみなして自由に契約していいのか、という問題である。

 今の民法では、以下のように規定されている。

第四条  年齢二十歳をもって、成年とする。

第五条  未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

2  前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

  この4条を18歳にしてしまおうということである。  

  18、19歳でもしっかりしていて、親の干渉を受けずに自由に契約したい、という人も当然いるだろう。

  しかし、今の未成年者を狙った悪質な詐欺、消費者被害等はとても多い。勝手に長期ローンを組んでしまい、どうしたらいいのか、という被害、私がよくご相談に乗る、AV出演強要被害や怪しい業者とのタレント契約等の被害も多い。

  そのような場合、親権者の同意がないからと取り消せるのは、若年層が食い物にされないために、とても心強い。

  18歳から成人となると、悪質な集団に若者が食い物にされるのではないか、という深刻な懸念がある。

■  消費者契約とセットで、秋にも決まる?

とても大切な問題であり、国民的議論が必要な問題であるにもかかわらず、この問題に関する議論は一般的に低調だ。

 しかも、来年の通常国会で審議、と報道されてきたが、ここへきて、臨時国会で議論されるのではないか、という報道が出ている。

恋愛感情を利用した「デート商法」や、就職に不安を抱く学生を狙ったセミナー受講などの契約は取り消せます――。成人年齢の18歳への引き下げによる若者の消費者被害の拡大を防ごうと、政府がまとめた消費者契約法改正案の概要が分かった。今月下旬に召集予定の臨時国会に提出し、成立をめざす。

 同法では、事業者が消費者の自宅から立ち去らないといった行為をして契約を結ばせた場合、契約を取り消せると定めている。改正案では、若者を中心に起きる事例を念頭に「取り消し権」を認める範囲を拡大する。

 消費者との親密な関係を利用した「デート商法」などによる契約締結は取り消せるようにする。また、就職活動中の学生に対し、「あなたは一生成功しない」などと根拠なく不安をあおり、有料セミナーの受講を契約させた場合なども取り消せる。取り消し権の範囲拡大は、若者に限らず、被害に遭った全ての消費者に適用される。

政府は、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案と消費者契約法改正案をセットとして取り扱い、臨時国会での成立をめざす。

出典:朝日新聞デジタル 9月10日

 で、消費者契約法は、とみてみると、確かに、法改正に向けた提案がされ、パブリックコメントを受け付けている。締め切りはなんと、今日9月15日である。

 

■  AV出演強要被害が増大する危険?

 政府は、2017年5月にAV出演強要被害に関する対策をまとめ、対策が実施に移されているが、いまだに被害は繰り返されている。

 若年層が犠牲になって、高額バイトに応募してみたら、「モデルになりませんか? 」と言われ、タレントになれると期待してみたら、実はAV、しつこく勧誘され、「断れない」「怖い」「違約金」「親にばらす」等と追い込まれ、AV出演を強要されるのだ。

 特に若年層、18~19歳くらいの場合、あまりにも社会的に経験が少なく、「AV」とはなにかもしらず、口約束に容易に騙され、暴行や脅迫などがなくても、その場で断れない、怖くてどうすることもできない、ということで、

 赤子の手をひねるように意に反するAV出演を強要されるケースが多い。

 証拠を自分で保全するような知識もなく、あとで支援団体等に泣きながら訴えてきても、強要を示す物的な証拠がほとんどない、という事例も少なくないのだ。(→ただし、判断力のある大人であっても、密室で行われる強要という事態に、きちんと抵抗できたり、証拠を残せる人は少ない。)

 一時的な性犯罪よりも深刻なのは、その後に、「販売・配信」が待っていることだ。それによって周囲に知られてしまい、周囲が怖くて、就職もできず、外にも一歩も出ることができない、恋愛も結婚もできない、という被害に苦しむことになる。自分のビデオが売られていることを苦にして自殺した人もいる。

 なんとかビデオを差し止めたい、販売を停止してほしい、ネットから私の性行為の情報を全部消してほしい、切実な願いである。

こうしたとき、弁護士や支援団体に依頼して、「こうした経過で意に反して出演しました」と主張し、販売・配信の停止を求めることになる。

 ただ、ハードルはいくつもある。まず、本人レベルで以下のようなことがある。

・撮影にあたっての契約書、出演同意書には、サインさせられるだけで、被害者は契約書等を渡してもらえないため、どのメーカーと契約したのかが、わからない。

   ・自分の性行為が販売されている作品のパッケージを見ても、メーカーの住所も氏名も書かれていない。

   ・悪徳プロダクションは良くつぶれたり、経営者が姿をくらまして、らちが明かない。

 弁護士や支援団体に依頼した後はどうか。

 ・本人の話を丹念に聞き取って出演の経緯を説明しても、メーカーは以下のように回答する。

出演強要はあってはならないことですが、、本件では関係者に聞いた限りでは出演強要は認められません。出演強要があるというなら物的証拠を提出してください。そうすれば、販売・配信停止をいつでも検討します。

 こうした態度は今も最大手のメーカーでは一ミリも変わっていない。中には、「強要はないけれど、ご本人の心情を察して、販売・配信を停止します」等と回答する業者もあるが、強要を認めたわけでもない。あくまでケースバイケースの判断である。

 近年、出演強要が問題になっているため、販売・配信を停止する業者も増えてきたが、2015年ころまでは本当に難しく、販売を停止するために数百万単位の分割返済の約束をし、親族の家を抵当に入れた、というケースもあった。

 ここで、明暗をわけるのは、被害者が18~19歳か、20歳以上か、ということである。

 18~19歳なら、冒頭の民法5条で出演同意、出演契約を取り消せば、確実に販売・配信をストップさせられる、ところが20歳を超えると難航し、途方に暮れる事例をいくつも見てきた。

 私としては、AV強要や性被害に限っては、取り消しができる年齢を25歳くらいに引き上げてほしいと考えていた。

 ところが、今回、18~19歳に引き下げられ、AV出演強要には何らの手立ても講じられないとすれば、むしろ被害者は格段に増えてしまうのではないか。せっかく政府が決定した出演強要防止対策もまだ十分に進んでいない中、成人年齢を引き下げることになれば、政府が決めたAV出演強要対策に逆行し、むしろ被害を増やすことになることは明らかだと思う。

  早急な対応が必要であり、性的搾取に関わる事例について、契約の取り消し権を整備しない限り、今回の法改正に賛成することは到底できない。

 性的搾取に関わる契約類型については18歳を超えても、そして20歳を超えても取り消すことができる、若年取り消し権を整備するべきである。

 国会・政府には、AV出演強要対策を決定した際と同じまたはそれ以上の熱意をもってこの問題に取り組んでいただきたい。

■  消費者契約法改正に関するパブコメ

 冒頭の報道記事で示した、消費者契約法改正に関するパブコメであるが、締め切りは本日である。

 消費者庁は、

   

アダルトビデオ出演契約が消費者契約に該当する場合は、消費者契約法に基づき、密室での長時間の勧誘で締結した契約は取消しが可能であることなどを業界関係者に周知すること

出典:岡村長官 5月24日会見

 を対策として決定している。しかし、民法の成人年齢引き下げに伴い、若年層を保護しようとする今回の消費者契約法改正には、AV出演強要をずばり想定したとみられる改正内容は見受けられなかった。

 私は、取り急ぎ以下の意見を書いて送る予定である。

1 消費者契約法第3条第1項(事業者の努力義務)に

 「消費者に契約書を必ず交付し、契約の相手方である事業主の名称、所在地を明記し、将来消費者事故が発生した場合の請求の相手方を明記しなければならない。」との規定を置くこと、

2  消費者契約法第4条(取り消し)に、

(1) 以下の場合は契約が取り消せると明記すること

   ・消費者に契約書が交付されない場合

   ・自らの権利および義務が契約書上、明らかでない場合

   ・契約の相手方である事業主の名称、所在地が告知されない場合

 さらに、

(2) 消費者の個人情報の流出、消費者の親族・職場・通学先への情報提供、違約金の請求その他の害悪を告知または示唆して、消費者を困惑させ契約を締結させた場合を取消条項に含めること

(3) 「消費者契約の締結を強引に求める」として新設を予定されている改正条文について、AV出演強要事例を想定して、現在の定義より幅広い定義を採用すること(詳細略)

 消費者庁のAV出演強要被害に対する取り組みはまだ十分とは言い難いと認識している。今後、議論が深まることを期待したい。

 そして、成人年齢の引き下げを巡って安易な立法的解決により、社会的弱者がより苦境に陥れられることのないよう、慎重な議論がなされることを関係者に強く求めたい。(了)

※  AV出演強要被害をなくすプロモーションビデオ「あなたが嫌なら断ることができます」  被害を知り、考え、防止するために、ぜひ見ていただきたいと思います。

  

  

     

   

   

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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