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1人で行ったら7割が制度利用にいたらず?

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
もやい生活相談データ分析報告書

1人で行ったら7割が制度利用にいたらず?

僕が所属する認定NPO法人もやいでは、生活にお困りの人からのSOSを年間で約3000件受けつけ、面談や電話などで必要なアドバイスや公的支援につながるためのお手伝いをしています。

生活に困窮する事情や背景は人それぞれ。貧困におちいる要因はどこにあるのか、相談者が抱えている課題や状況はどこにあるのか、そして、どのような施策が必要なのか。

私たちは、2004年~2011年に生活相談に訪れた方、約2000件のデータを分析し、9月7日に報告会を開催しました。(当日の模様は別途ご報告します)

また、データ分析の簡易版をHPにて公開しました。ここでは、いくつか抜粋して紹介します。

もやい生活相談データ分析報告書 簡易版(前編)

もやい生活相談データ分析報告書 簡易版(後編)

■多様な貧困層からの相談

もやいに相談に来られる方の平均年齢は46.0歳と比較的若く、また、女性からの相談も全体の約13%を占めており、性別・年齢ともに、多調査と比べて多様な層からの相談が多いという特徴がみられます。

平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査によれば、「ホームレス」の平均年齢は59.3才、女性の割合は4.3%。

また、住まいの状況も、安定した住まい(アパート・実家など)が29.9%、不安定な住まい(居候・施設など)が20.3%、住まいがない(ネットカフェ・野宿など)が51.4%でした。

しかし、この「住まいがない」グループでは、いわゆる「野宿」は37.2%であり、「脱法ハウス」などを代表とする不安定な居住の拡がりと、ネットカフェやサウナ、ファストフード店などの多様な住居喪失の形態があることを物語っています。

時代や社会状況の変化により、貧困状態が多様化していること、より細分化され、実態が見えづらくなっていると考えることができるかもしれません。

■貧困の背景 不安定な住まい/就労

高齢の方は、野宿生活が長い方も多く、空き缶拾いや古紙回収などの都市雑業と呼ばれる仕事をしている人が多くみられました。

一方、若年層では、ネットカフェなどで寝泊まりしながら派遣社員として働いていたり、実家に住んでいるがアルバイトなどで経済的な自立ができず、家族との折り合いが悪く追い出されてしまった、などの相談が多くありました。

年齢ごとの特徴を見てみると、違いが顕著にみてとれます。特に若年層に不安定な住居と不安定な雇用が拡がり、それが、これまでとは違う「新しい生活困窮」「新しいホームレス」を生みだしている一因となっていると言えるでしょう。

■貧困の長期化 健康状態の悪化

また、大きな特徴として心身の不調を訴える人が非常に多いというものがあり、全体の78.5%にものぼりました。

身体的な不調を訴える人が50.2%、精神的な不調を訴える人は19.0%、両方を訴える人は9.3%でした。

身体的な不調としては、肉体労働を長らく続けてきて腰痛がひどいなどの痛みを訴える人、野宿生活で栄養状態が偏って高血圧などの症状がみられる人が多く、精神的な不調としては、眠れない、気持ちが落ち込む、人混みが不安、などの訴えが多くみられました。

いずれも、必ずしも病院等を受診できているわけではなく、あくまで、本人の訴えによるものですが、生活困窮状態にあって、心身ともに健康状態を悪化させてしまう人が多いことを示しています。

また、若年層に精神的な不調を訴える人が多く、ここでも若年層に拡がる不安定雇用の問題と、正社員でも「ブラック企業」などの過酷な労働環境によって追いつめられてしまっている実態が浮かび上がります。

同じく、女性は男性と比べて精神的な不調を訴える人の割合が倍以上(男性20。5、女性52.2%)に高いなど、貧困の背景にあるDV(ドメスティックバイオレンス)や虐待の問題を軽視することはできません。

健康状態が悪化して、長期にわたって生活困窮状態におちいってしまう。そうなると、自立に向けたステップをあがっていくことにも、大きな障壁となってしまうでしょう。

■公的支援につながっていない/つながってもうまくいかない

もやいの相談の特徴として最も大きなものは、公的機関がとることができない当事者ベースの聞き取りができている、ということです。

相談者で過去に生活保護などの公的支援を利用していたことがあるが、相談時に継続していなかった人は34.2%でした。

また、それらの支援が継続しなかった理由で最も多かったのは「失踪・辞退」でしたが、これらは、公的な機関の調査や分析では、残念ながら、「勝手にいなくなった」「自分の判断で出ていった」とみなされてしまいがちなものです。

しかし、その理由を見てみると、「シェルターの環境が悪くて逃げた」「施設のなかでいじめられてつらかった」「仕事がみつからず自暴自棄になった」などの、必ずしも本人に責任がある身勝手な「失踪・辞退」とは言えないようなものが大半でした。

また、何度も公的機関を利用しては継続しない人のなかには、軽度な知的障害や精神疾患、依存症の人なども見られ、支援のメニューが足りないことを度外視して語ることはできません。

近年、支援につながらない/つながってもうまくいかない人たちの背景にある「困難さ」が、徐々にですが明らかになりつつあります。

■1人で行ったら7割が制度利用にいたらず?

「もやいに相談に来る前に福祉事務所を訪れた際の対応」を見ると、生活保護などの制度利用にいたった人が10.2%、本人の意思で帰った人が4.4%、制度要件を満たさなかった人が11.7%、そして、相談したものの制度利用にいたらなかった(水際作戦・誤誘導・貸付斡旋など)人が73.7%を占めることが明らかになりました。

生活困窮して、やっとの思いで福祉事務所(公的制度の窓口)を訪れても、誤った説明をされたり、うまく自分の状況を伝えられなかったり。

結果として7割以上の人が、本来は公的制度を利用できる状況にあるにも関わらず、利用にいたらず、もやいに相談におとずれていました。

こうした結果が明らかになったのは、公的機関とは一線を画すNPOだからこそ可能になったことかもしれません。

■貧困の実態を明らかにするために

今回のもやいのデータ分析プロジェクトは、もやいと立命館大学丸山里美准教授の共同プロジェクトとしておこなわれました。民間の科研費を使って貴重なデータを入力・分析し、私たちの視点から見た「貧困の実態」の一部を可視化することに成功しました。

しかし、私たちでできる調査・分析には限界があります。国や自治体が責任をもって、時代とともに、社会環境の変化とともに移りゆく「貧困の実態」を、常に明らかにしていくことが求められるでしょう。

私たちは、今後も自分たちなりに貧困の可視化を試みつつも、国や自治体に対しても取り組みを求めていきます。

以上

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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