【F1】ホンダ、最後の挑戦へ!ついに王者メルセデスを倒す日が来るかもしれない
「がっかりした」「辞めないって言ってたくせに!」
ファンからの怒りの声がYahoo!ニュースのコメント欄に溢れた「F1活動終了宣言」から半年、今やファンはその現実を受け入れ、落胆はむしろ最後の最後で大きな期待へと変わりつつある。
ホンダは今季2021年シーズンをもって「F1世界選手権」での活動を終了するが、開幕を前にしたプレシーズンテストでは好調なタイムをマークした。
6年前のテスト結果とは大違い
ホンダがパワーユニット規定のF1に参戦したのはメルセデス、フェラーリ、ルノーの1年遅れとなる2015年のことだった。英国の名門「マクラーレン」と組み、往年のマクラーレン・ホンダ復活とあって大きな期待を背負って船出をしたが、そのシーズン開幕前のテストは悲惨なものだった。
タイム順で最下位に沈んだのはもちろん、「サイズゼロ」と呼ばれたコンパクトなパワーユニットはトラブルが多発し、まともに走行できず、当時12日間あったテスト期間に「マクラーレン・ホンダ」が走った距離は「メルセデス」の3割以下だった。
あれは僅か6年前の話である。2021年のプレシーズンテストではホンダのパワーユニットを搭載する「レッドブル」と「アルファタウリ」が最速タイムを争う形で、1位と2位のタイムをマーク。逆に「メルセデス」や「アストンマーティン」にギアボックスなどのトラブルが多発し、タイムも伸び悩むという結果になった。6年前とはあまりに対照的であった。
【2021年 F1テスト TOP5】
1.マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ) 1分28秒960
2.角田 裕毅(アルファタウリ・ホンダ) 1分29秒053
3.カルロス・サインツ(フェラーリ) 1分29秒611
4.キミ・ライコネン(アルファロメオ・フェラーリ) 1分29秒766
5.ルイス・ハミルトン(メルセデス) 1分30秒025
昨年、2020年もプレシーズンテストでは王者「メルセデス」とホンダのエースチームである「レッドブル」の差はかなり接近していたと考えられていたが、コロナ禍で開幕が7月にズレこんだこともあり、その間に「メルセデス」はウィークポイントを克服。結果として「メルセデス」は開幕4連勝を果たし、シリーズを独走した。
一方で2019年に比べるとインパクトに欠けるシーズンになった「レッドブル」だが、2020年最終戦・アブダビGPではマックス・フェルスタッペンがポールポジションから優勝。最後になってようやく「メルセデス」とのギャップを縮めることができた。年が明けてテストでも続く好調ぶりにホンダを取り巻くムードは明るい。
新骨格のパワーユニットで攻める
F1参戦ラストイヤーとなる2021年、ホンダはエンジンを骨格から新しくし、よりコンパクトになった新型パワーユニットを投入する。近年の目覚ましいホンダパワーユニットの活躍には同社のプライベートジェット機「ホンダジェット」を作った技術者たちが協力し、そのアイディアが力になったことがよく知られているが、今回もオールホンダで技術力を集結させて、ホンダ最後のパワーユニットを作り上げたという。
新設計の攻めたエンジンになればトラブルは付き物だが、「レッドブル」「アルファタウリ」ともに順調に3日間のテストプログラムを消化。日本人ルーキードライバー角田裕毅が乗る「アルファタウリ」は全チーム中で走行距離トップを記録するなど非常に高い信頼性を示した。ホンダのパワーユニットにとってこれまでにない出だしの良さを見せている。
自動車メーカーのF1撤退発表というと「今シーズンをもって撤退」というのが通常のプロセスで、2020年で撤退しても何ら不思議ではなかったが、ホンダは2020年に1シーズンの猶予を残して活動終了とした。発表時は非常に不可解な印象を受け、落胆の声が「最後の1年を頑張れ」という声を上回っていたものだ。
ただ、発表直後にホンダの技術陣は新型パワーユニットの導入を社長に直訴し、会社もそれを承認。一度は落胆したファンが大きな希望を抱いてシーズン開幕を迎えられるのは、こういったホンダ技術者のチャレンジ精神があるからだろう。
さらに今季はドライバーラインナップも戦力アップを果たし、この部分もホンダラストイヤーの追い風になると考えられる。特にレッドブルの育成ドライバーを起用する、という聖域を超えてセルジオ・ペレスが「レッドブル」に加入。昨年、レーシングポイントで悲願の初優勝を成し遂げた経験豊富なベテランは着実にポイントを稼いでくるだろう。
さらに「アルファタウリ」には角田裕毅が加入し、テストでのパフォーマンスが早くも話題沸騰になっている。僚友のピエール・ガスリーと共に刺激し合い、上位入賞を狙って欲しいところだ。
有終の美に向けて
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は「素晴らしいテストの週末になったが、そこには何の保証もない。全てのチームは違うプログラムを行なっているからね。僕たちは何を改善するべきか探っている。(バーレーンGPの)予選Q3で自分たちの本当の位置がわかるだろう」と好調な結果にも慎重な姿勢。レースウィークになると「メルセデス」が隠し持ったポテンシャルを見せてくるのは例年のパターンである。
「アルファタウリ」も好タイムをマークしたとはいえ、メルセデスのパワーユニットに積み替えた「マクラーレン」の戦力アップ、昨年不振の「フェラーリ」の復活、ベッテル加入の「アストンマーティン」、アロンソ加入の「アルピーヌ」など中段争いはツワモノ揃い。実際のポジションは蓋を開けてみるまでは分からないが、今季はホンダの躍進に期待せずにはいられないワクワク感がある。
これまで4期に渡ってF1に参戦してきたホンダ。その第1期(1964年〜68年)の最終年1968年の最高位は2位(フランスGP)で優勝できず。
エンジンサプライヤーとしての第2期(1983年〜92年)の最終年1992年はマクラーレン・ホンダが合計5勝を飾ったものの、急激に力をつけたウィリアムズ・ルノーに惨敗だった。
そして、第3期(2000年〜2008年)の2008年は最高位だけ見れば3位(イギリスGP)を獲得したものの、ジェンソン・バトンとルーベンス・バリチェロというF1優勝経験者をもってしても入賞僅か4回だけ、コンストラクターズランキング9位という最悪のシーズンに終わる。翌年からホンダは元フェラーリのロス・ブラウン率いる新体制になることが決まり期待が大きかったものの、リーマンショックの影響でそれをまたずして撤退したのは何とも残念だった。
このようにホンダのF1はウィリアムズ・ホンダやマクラーレン・ホンダの1980年代の成功が今も語り草にされる一方で、ホンダのF1活動の終わり方はいつも決してカッコイイものではなかった。
ただ、今回は本当に最後だ。来季以降もホンダが作ったパワーユニットはF1で走ることになっているが、ホンダとしては最後である。
創業者、本田宗一郎が抱いた「世界一のクルマを作りたい」という想いから始まったF1への挑戦。60年近くに渡るF1夢物語の結末がワールドチャンピオンになるのだとしたら。。。そんな映画化間違いなしのストーリーを期待したい。