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森口博子 アニソンを愛し、アニソンに愛され38年 大人のためのアニソンカバー集で聴かせる“名歌”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

『GUNDAM SONG COVERS』シリーズは3作で累計25万枚を超えるヒットに

近年リリースされた森口博子の『GUNDAM SONG COVERS』シリーズは、ガンダムファンはもちろん、その作品を知らなかった音楽ファンにも支持され、3作で累計25万枚を超えるヒットになっている。ガンダムの世界観を見事に表現し、キャリアを重ねさらに進化を続けるそのボーカル力、表現力の高さは改めて高い評価を得た。

“大人のためのアニソンカバー”『ANISON COVERS』が話題

そんな森口が次に取り組んだのが“大人のためのアニソンカバー”をコンセプトにしたアルバム『ANISON COVERS』(5月24日発売)だ。「悲しみよこんにちは」(TVアニメ『めぞん一刻』主題歌)や、「夢を信じて」(TVアニメ『ドラゴンクエスト』主題歌)など、80~90年代のアニソンの名曲を中心にセレクト。豪華コラボミュージシャンと共にシティポップ、ジャズ、ボサノヴァ、アコースティックなど11曲を生楽器を中心に名曲の数々をリアレンジ。充実の時を迎えている森口の“今の歌”で、懐かしさと新しさを届ける。森口にこの作品についてインタビューした。

7年目に突入するレギュラー番組『Anison Days』で、これまでに約250曲をカバー

森口は今年7年目に突入する、自身がMCを務めるレギュラー番組『Anison Days』(BS11)で、これまで約250曲に挑戦。「毎回名曲に出会って震えて、地球上にはこんないい曲がまだまだあるんだ」という発見の連続だったという。それがこの『ANISON COVERS』という作品に繋がっている。

森口 7年間番組をやらせていただいて、まだまだ知らない名曲がたくさんありました。最近のすごくテンポが速くて難しい楽曲にも挑戦してますし、でも何十年も生き抜いてきた昭和の名曲の良さを、たくさんの人に知って欲しいという気持ちも強くて。放送で一度しか観ることができないのはもったいないし、作品や森口博子ファンはもちろん、アニメや私に興味がないという方にも(笑)、音楽的に楽しめる要素が盛りだくさん!自信をもってお届けできる内容になっています。アニソンは映像と楽曲とその当時の思い出とがひとつの感動になって、その人の記憶に深く刻まれているので、それをカバーするのは緊張感があります。でも「GUNDAM SONG COVERS」シリーズで、素晴らしいミュージシャンの方々とのコラボレーションを経験して、新たな引き出しが増えたと実感できたし、それによって長年のファンの皆さん、そして初めましてのファンの皆さんとは新たに信頼関係が築けたと確信できて。それが自信に繋がりました。

「今までアニメにあまり触れてこなかった人と、アニソンの世界との架け橋になりたい」

“大人のためのアニソンカバー”をコンセプトにしているが、誰もが聴ける名曲集という趣だ。

森口 私はずっとテレビのお仕事もやらせていただいて、バラエティのタレントというイメージが強い方もいらっしゃると思うので、今までアニメにあまり触れてこなかった方にも、こういう素敵な音楽がありますよって発信できるチャンスが多いと思います。アニソンの世界との架け橋になりたいんです。

豪華ミュージシャンとコラボし、オリジナル曲の“絶対的な良さ”は変えず、そこに森口節を加え新たなものとして提示 

『ANISON COVERS』(5月24日発売/通常盤)
『ANISON COVERS』(5月24日発売/通常盤)

今回も音楽プロデューサー武部聡志、番組で共にMCを務める酒井ミキオ押尾コータロー寺井尚子塩谷哲マーティ・フリードマンDJ赤坂泰彦という豪華なミュージシャンとコラボレーションし、そのオリジナル曲にある“絶対的な良さ”は変えず、そこに森口節を加えて、新たなものとして提示してくれている。

森口 それぞれのミュージシャンの方とのコラボで全曲に共通しているのは、オリジナルへの大きなリスペクト。印象的な変えてはいけないイントロのフレーズもあるし、そこはアレンジをする上で絶対残してくださいと皆さんにお願いしました。でもソロプレイの時には、そのミュージシャンの方の個性がでるような絶妙な“塩梅”に気を付けました。

「悲しみよこんにちは」は、発売当時は理解できなかった深い歌詞の本質を理解でき「一番泣いた曲です」

一曲目のリード曲「悲しみよこんにちは / with 酒井ミキオ」は、『めぞん一刻』(86年)の主題歌で、斉藤由貴が歌い大ヒットとしたスタンダードナンバー。今回は酒井ミキオがジャズアレンジを施し、キラキラ感を残しつつ上質なポップスに仕上がっている。

森口 『Anison Days』は収録前に自宅で自主トレするのですが、一番泣いた曲です。この曲が発売された86年当時は、「悲しみ」に対してなんで「こんにちは」なのか疑問でした。でも大人になって理解できたんです。番組でこの曲を歌うことになって、消せない傷や悲しみとの向き合い方をこんなにも優しく教えてくれていたんだって気づいて、涙が止まらなくなりました。<不意に悲しみはやってくるけど>という森 雪之丞さんの深い歌詞にすごく考えさせられて、本当に悲しみや痛みは不意にやってくるんですね。失恋とかだと時間が解決してくれるけど、例えば肉親を失ったり、時間が解決しないものもあるじゃないですか。でもあんなに泣いたから大丈夫って言い聞かせて、次に進もうとする悲しみの中の微笑みに泣けちゃって。なんて素晴らしい曲なんだろうって改めて感動しました。『Anison Days』のバンマスの酒井ミキオさんが、武部聡志さんのインパクトのあるオリジナルアレンジも生かしつつ、私が好きなジャズのテイストを入れてくださいました。素敵なアレンジ、大満足です!このアルバムの幕開けにぴったりのゴージャスなサウンドです!

「『夢を信じて』は夢に生かされ、夢に傷つけられてきた自分の人生とがリンクしていて、絶対塩谷哲さんのピアノでこの歌詞を伝えたいと思いました」

M6「City Hunter ~愛よ消えないで~」とM9「夢を信じて / with 塩谷哲」以外は番組内で挑戦しているが、今作では80~90年代の楽曲に、オリジナルの“芯”の部分に“今”の光を当てたアレンジと歌が心に響いてくる。「夢を~」は塩谷哲の美しいピアノ一本と歌だけというシンプルなアレンジだが、歌がより生々しく、輝いていて、“今の”森口の豊潤な歌を堪能できる名セッションになっている。

森口 塩谷さんのどこまでも透明感のあるピアノと、私の歌、言葉がより際立つアレンジになっています。ピアノとボーカルの同時レコーディングでしたが、塩谷さんのピアノがあまりにも美しかったので、その場で急遽ワンコーラスはバラードでとリクエストしました。この曲はまず<夢を信じて>という歌詞に、私がやられるというか心酔してしまっていて。私、中学生の頃からオーディションを受けまくって、落ちまくって、その頃の日記に、「夢があるから頑張れているのか、夢に苦しめられているのか、神様わかりません」って書いていて、でも今は夢があったから生きていけたって胸を張って言えます。母校、福岡中央高校の創立記念講演会の時に私が考えた演題が<夢の力を信じて>だったんです。だからこの歌詞と、夢に生かされ、夢に傷つけられてきた自分の人生とがリンクしていて、絶対塩谷さんのピアノでこの言葉たちをシンプルに伝えたいと思いました。

この曲のMUSIC VIDEOは「品川の教会で撮影をした、暗いところから段々光が差してくる中で、2人っきりのライヴを見ているような感覚です」。

『そのままの君でいて』は「初心に帰ることができた思い入れのあるカバー」

「そのままの君でいて / with 武部聡志」(機動警察パトレイバーOPテーマ/89年)にも、<夢は君の武器のはずだよ>という一節がある。森口が感銘を受けた言葉だ。

森口 この曲は80年代を象徴するようなシャキッとしたリズムが際立っていて、Bメロではハーフビートになってキュンとくる、そこがすごく好きで。私自身この曲を番組で歌った時には気持ちが落ちている時で、<夢は君の武器のはずだよ>っていうフレーズで泣いてしまいました。『GUANDAM SONG COVERS』がたくさんの方に聴いていただけて、3作ともオリコンウィークリーランキングの3位以内に入った時も、いつも夢には締め切りがないんだって言っていた自分なのに、なんで立ち止まってるんだろうって思って。初心に帰ることができた思い入れのあるカバーを武部聡志さんにピアノロックで、とイメージをお伝えしました。デモの段階から洗練された武部さんのピアノに胸が熱くなりました。スタイリッシュでとにかくかっこいい!だからこそ、あえてドライに突き放して歌うとこの曲のかっこよさが生きるかなと思い、挑戦してみました。

50歳を越えたタイミングでガンダムの世界と再び深く対峙したことで、その表現力がさらに“深化”。自信が生む“名歌”の数々

『GUANDAM SONG COVERS』で、とてつもないエネルギー湛えるガンダムの世界観と崇高な哲学を、その歌で完全に表現し、高い評価を得た。50歳を越えたタイミングでガンダムの世界と再び深く対峙したことで、その表現力はさらに進化し、歌が“深化”した。今作ではその自信と“歌力”をどの曲からも感じる。

「広大で異国情緒溢れて、広い空間にポツンと佇んでいるような孤独感。カルマを背負いながらそれでも生きていかなければ、という気持ちにもさせられる」という「LOVE SONG」(『ガサラキ』EDテーマ)は、「元々子供の頃から演歌も好きでコブシを回すのが得意で、この曲にはそれが合っていると思いました。その行間も含めて色々と想像させてくれる歌詞とメロディ、こういうのがすごく私らしいなって全てがフィットする曲です」。

「挑戦魂が掻き立てられた」押尾コータローとのコラボ「ロマンティックをあげるよ」

『GUANDAM SONG COVERS』でもコラボした押尾コータローとは「ロマンティックをあげるよ」(『ドラゴンボール』EDテーマ)で、再びコラボ。

「押尾さんといえば、これまでのコラボではパーカッシブでアグレッシブなギターの印象がありますが、今回はいつもにも増してキラキラ感が上乗せされています。オリジナルは、常人では思いつかないような変則的な技を入れた田中こうへい先生のアレンジだからこそ、シンプルなギターでテクニカルな押尾節炸裂の演奏で歌いたいと、挑戦魂が掻き立てられた楽曲です!」。

筒美京平作品の「風のノー・リプライ」(『重戦機エルガイム』主題歌)は寺井尚子とコラボしている。

森口 私のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」の歌詞を手がけてくださった、売野雅勇先生のため息が出るような美しいワードが散りばめられていて、筒美京平先生の琴線に触れるメロディと相まって、こんなパーフェクトな曲はないと思います。そんな曲には、寺井尚子さんの情熱的でドラマティックで美しくて、大きなうねりを感じるヴァイオリンがピッタリだと思います。ボーカルと同時レコーディングの、そのリハで尚子さんが奏でたメロディが、その日私がこうやって歌おうと思っていたボーカルプランと全く同じ解釈で、歌心のある演奏に魂が震えました」。

「City Hunter ~愛よ消えないで~」(『シティハンター』OPテーマ)は優しいボサノヴァ調のアレンジ。「スタイリッシュで新しいものに生まれ変わって、イメージとしては“午後の紅茶”みたいな(笑)。メロディが強いのでテンポを落としても、原曲の良さはそのまま感じていただけると思います」

「笑顔に会いたい」(『ママレード・ボーイ』OPテーマ)は「歌詞もメロディもアレンジも、とにかくインパクトがギュッと凝縮されて、青春感満載です(笑)。今の自分が青春を振り返った時のテンション、“大人の青春”という感じにしたくて、シティポップができあがりました」

「GHOST SWEEPER / with マーティ・フリードマン」(『GS美神』主題歌)は「初めてこの曲と出逢った時、「何てカッコ良くてセクシーな曲なんだろう」って “ひと聴き惚れ”しました。今回はスウィングした色っぽいジャズにマーティさんのギターが入ることによって、ジャズとロックの融合が森口博子色になるんじゃないかなと。マーティさんの激しいけど日本人の琴線に触れる、泣き節ギターが、この曲に絶対ハマると思いました。お見事です!」

昔から数々のテレビ番組で共演しているDJの赤坂泰彦をフィーチャリングした「ハッピー²・ダンス / with DJ赤坂泰彦」(『クッキングパパ』OPテーマ)は「森 雪之丞さんの言葉遊びのような天才的な歌詞と、ラテンテイストのサウンドで無条件にハッピーな気持ちになれる。でももっとイントロにハッピー要素を入れたいと思った時、お声がカッコよくてユーモアもある赤坂さんしか考えられませんでした。大成功でした!一声聴いただけでテンションが上がって、嫌な事を忘れさせてくれますよ!」。

ボーナストラックは「サムライハート ~2002~」(『鎧伝サムライトルーパー』OPテーマ)を十川ともじでセルフカバーしたものが収録されている。

森口 セルフカバーするというお話をいただいた時「来た!」って声が出てしまいました(笑)。ライヴで時々「サムライハート」を歌うとイントロからファンの皆さんが喜んでくれるので、満を持してのセルフカバーという感じです。十川ともじさんがアレンジを手がけてくださって、少し歪んだギターの音色がカッコいい、ロック色の強い仕上がりになっています。オリジナルの良さを残しつつ、ストリングスのメロディが勇ましさを感じさせてくれて、新たなアドレナリンが出てきます。

『ANISON COVERS』(初回限定盤)
『ANISON COVERS』(初回限定盤)

この作品を通して感じるのは、森口博子のいい意味での音楽に対する“貪欲さ”だ。様々な音楽に挑戦しながら38年間、いい音を、いい歌をこれでもかと追求し続ける姿が、この作品には強く映し出されている。ジャケットイラストは80~90年代をテーマにしたニューレトロな色遣いや世界観が特徴のイラストレーター・電Qが担当。1985年デビュー当時の森口をモチーフとしたイラストが描かれている。

6月18日にはゲストにマーティ・フリードマンを迎え、コンサート『ANISON NIGHT』(昭和女子大学 人見記念講堂)が開催される。昭和~平成のアニソンの名曲の数々が、森口の歌によって令和の空気を纏い、甦る。

森口博子『ANISON COVERS』スペシャルサイト

森口博子オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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