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日本型雇用の限界と再生への道【柿沢未途×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲスト、衆議院議員の柿沢未途さんは、ジャーナリスト出身です。ジャーナリストの仕事は、取材して報道するまでで、そこから社会の制度を変えるのは政治の仕事。逆に言えば、いくら報道を通じて問題提起しても、それに呼応して行政を動かし制度を変えようという政治家が現れなければ、問題はそのまま放置されていってしまいます。柿沢さんは、これまで、現場を取材し問題提起することと、政治家として法整備することの両方に関わってきました。そんな彼に、現在の「働き方」の問題点を聞きました。

<ポイント>

・日本型雇用は限界に至っている

・国家の秩序維持に携わるような仕事で定員割れが起きていく

・日本の若者もグローバルに視野を広げるとチャンスがある

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■日本型雇用と欧米型雇用をハイブリッドにする

倉重:よく言われるように、日本型雇用の終身雇用や年功序列、新卒一括採用の根本である労働法などは、何も変わっていません。昭和の時代のまま残っている現状はどうなのかと個人的に思っています。この新しい時代の「働く」という部分に対してどのように考えればいいのでしょうか。

柿沢:竹中平蔵さんがこれを言うとすごくバッシングされるのですが、私は正規、非正規で取り扱いを変えるという今までの雇用労働に関する制度の仕組みそのものがもう限界だと思うのです。野党側では、「全員がフルタイムの直接雇用、正規雇用になることが世の中を良くするために必要なのだ」という議論になりがちです。実際問題それを必ずしも望んでいない人もいますし、そんなことはできない人もいます。週休3日で1日4時間しか働かなくても、十分価値あるパフォーマンスを社会に向けて提供できている人もいるわけです。

後でギグワーカーの問題も出ると思うんですけれども、ウーバーイーツで百数十回デリバリーを続けていくと、週8万ぐらいの収入が得られます。労働者保護の問題はあるのですが、働き方が多種多様になり過ぎていて、1つの鋳型には収まらない形になっていると思います。やはり正規、非正規で二分別するのではなくて、あらゆる人に対して適用可能な制度にしていかなければいけないのではないでしょうか。

倉重:全くそのとおりです。やはり昭和の初期の頃は集団で東京にやって来て、ワーッと就職して、入社した会社で一生勤め上げるという人生ゲーム的な一つの鋳型がありました。それに対して、今は「どのような形で働くのか」「雇用なのか否か」「この会社にどのぐらい勤めるのか」というのも、人によってかなり違います。そこに合わせた法制度にしてほしいなというのが、個人的にいつも思っていることです。柿沢さんは、その辺に関してはすごく理解がありますね。

柿沢:この問題に関する私の師匠である「雇用のカリスマ」海老原嗣生さんがよく言うのですが、日本型雇用と欧米型の雇用の長所をうまくハイブリッドしていくことが大切です。新卒一括採用は、若い世代の失業率を低い水準に抑えることには非常に効用があります。まっさらの状態で入って、企業が人を育てるという意味でも、非常に有意義な仕組みだと思うのです。しかし全員が年功序列的に上がっていくことには限界があって、あるところで天井に突き当たります。そこから上を目指すのは完全な競争社会です。仮に「もうこの程度でいいです」ということであれば、昇給しない代わりに毎日17時に帰って家族で食卓を囲み、夫婦で土日も休むという働き方も許容されているような、こういうハイブリッドが望ましいと思います。

倉重:さすがですね。私も今のハイブリッドはすごくいいと思います。最近日経新聞でも「ジョブ型雇用」と言われるのですが、ヨーロッパ的な価値観をそのまま日本に持って来るのは無理だと思っています。教育がそうなっていないのです。新卒の時点で、何か職業の専門訓練を受けたわけではないですから、22~23歳の段階でいきなり専門的な能力を発揮しろと言っても、この日本社会においては無理ですよね。

柿沢:「同一労働同一賃金」という話がありますよね。「同一労働同一賃金」という話を、国会で最初にバズワードにしたのは、何を隠そう私だと思っています。

倉重:そうなのですか。

柿沢:「同一労働同一賃金推進法」を議員立法でつくろうとしたのです。当時所属していた政党と民主党の結節点にして、働き方改革を野党の対案にしていこうと考えていました。そこで問題になるのは、企業内労働組合です。同一労働同一賃金というのは、職能別に労働組合が企業横断的にあって、どの企業で就労していても、「この仕事をしている人は同じ賃金」ということが成立する必要があります。同じ仕事であっても、中小企業と一部上場企業では大きく収入に差が開いてしまうのが、日本の在り方です。北欧のように、本当は横串を通した形で労働組合が存在する必要があります。ある種、今までの労働組合の在り方を根本的にチェンジしないと、同一労働同一賃金も結果的には成り立たないのではないかという感じがしています。

倉重:素晴らしいです。その点をきちんとご理解いただいている政治家の方がいるのはうれしいですね。やはりヨーロッパと日本の同一労働同一賃金は違います。日本の場合は単に業務だけではなくて、責任や人事異動も考慮していて、しかも法人単位です。日本における同一労働同一賃金はメンバーシップ型の雇用を前提とした概念で、ヨーロッパとは違うのです。そこをきちんと分けて話していただくのは素晴らしいと思います。

本当の意味での同一労働同一賃金にするためには、法律を変えるだけではなくて、社会の在り方が変わらないといけません。鶏と卵のような話なのですが、雇用が変わるのが先か、法律を変えるのが先かという問題です。私は「法律を変える」という形で、世の中をチェンジができないかと、いつも考えているところです。

■ギグワーカーはどのように守られるべきか

倉重:今少し話が出ましたけれども、働くことは、もう雇用に限られなくなってきました。ギグワーカーの話が出てきましたが、あれは業務委託契約です。街中を見てもウーバーイーツがたくさん走っていますが、労災の保護などもなく身分も不安定です。かといって全員を労働者にしてしまうと、これはまたおかしな話になってしまいます。「雇用ではないけれども働く人」というのはどのように守られていったらいいと思いますか。

柿沢:今までの雇われ方の前提になっているのは、正規にしろ非正規にしろ、いくつかの類型化したモデルのどれかにあてはまるのが前提だったと思います。年金でいえばいわゆるモデル世帯です。旦那さんが働いていて、奥さんは専業主婦という世帯をモデルに設計しているのです。「それはないだろう」という話になっています。今や専業主婦は例外的な少数派となり、再婚や事実婚だってある。世帯の在り方はそれぞれで多種多様になりました。単純な類型化したモデルでは収まりきらなくなっています。

雇用労働の世界も同じです。ですから雇用保険の在り方、保険料の負担徴収の仕方も、横断的な有識者会議を設けて、時代に合った制度にするために腰を据えて大議論する必要があるのです。例えば、保険は会社単位で加入するのではなく、個人単位で加入することをスタンダードにしていく。確定拠出型年金のように、どこで働こうと、あるいは1人でギグワーカー的なことをやろうと、ポータブルに持ち歩けるような保険にしていく必要があるのではないでしょうか?

倉重:それはすごく大事だと思っています。もう働き方は「雇用」に限られないわけです。業務委託なのか、あるいは自分で独立して経営者になるというパターンもあると思います。そういうときに厚生年金でなくなるとか、健康保険が変わってしまうとか、労災の有無で社会的な保護の在り様が違います。今まではほとんどの人が労働者として働くのが前提の社会設定になっていたと思うのですが、それが多様化するのであれば、社会保障も合わせて変化する必要があります。今おっしゃったのは、そういうご指摘ですよね。

柿沢:そうです。制度疲労がどんどん進んでいって、今の政府の枠組みでカバーできない人が増えています。手厚く守られている人と全然守られていない人がいる状況だと思うので、やはり腰を据えた議論が必要だろうと思います。

倉重:素晴らしいですね。本当にそのとおりです。やはりコロナ、コロナと言いますが、制度疲労を起こしているのは、実はコロナ前からの問題です。それが一気に顕在化してきています。企業の存続が迫られるような業種が出てくると、本質的にシステムがおかしいのではないかという話になってきますよね。

柿沢:震災のときもそうでした。津波で壊滅的な被害を受けた東北の三陸海岸の地域というのは、もともと過疎と高齢化が進んでいた地域です。若い人はどんどん仙台や東京に流出して、戻ってきませんでした。震災後には、他の地域に避難した人が戻ってこないという問題が起こりました。それはもともと持っていた問題が加速したということです。

やはり国難や危機というのは、もともと内在していた問題を過激かつ赤裸々な状態で表にさらすという結果をもたらします。今のコロナでも感じます。デジタル化が恥ずかしいぐらいの遅れた状況も、分かっている人は分かっていたけれども、平時はこれで何とかなっているからいいと思っていました。危機がやってくると、それでは何ともならない。オンライン申請より郵送申請の方が10万円の手続が速いとか意味不明で、国民のフラストレーションを高める事態もついに露呈してしまいました。そういう意味では、危機に直面しない限り手を付けないということがずっと続いていることが問題なのでしょうね。

倉重:いまだに裁判所もFAXでのやりとりがメインなのです。私の事務所は在宅勤務にしていますが、裁判所から来るFAXのためだけに週1回出勤しています。裁判所から「FAXを送りました」という電話がかかってくると出社するという、非効率なことをいまだにやらなければいけません。これは予算を付けて何とかしてほしいと思ってしまいます。

柿沢:国会議員の事務所はFAXが大好きですからね。

倉重:まだそうなのですか。

柿沢:私も議員連盟の事務局長をしていますが、出欠を取るのもやはりFAXです。たぶん秘書さんからすると、来た紙をそのままバインダーに入れて、本人に渡して、出欠に丸を付けてもらって、そのまま返すというのが、作業フローとしてはやりやすいのだと思います。

倉重:そのほうがかえって早いということですね。

柿沢:議員からすれば、出席、欠席に丸を付けるだけで済みますので。

倉重:ある意味、ガラパゴス的に最適化をされているのですね。

柿沢:そういう意味では、私たちのせいだと思います。

倉重:確かにそういうのが当たり前だと変えるべき必要性も思いつかないですね。今ちょうどいい流れが来ているので、そこをまた問題提起をしていただけるとすごくありがたいと思います。

■働き盛りの世代はどんどん減少していく

倉重:「不安だからこそ今後の道筋を提示するというのが、政治の役割だ」とご著書にもお書きになっていました。本当に「未来のことは予測をしてもどうしようもない」ということが、今回のコロナでわかりました。誰もこのようなことを予想できませんでした。それでも対応をしていかなければいけません。日本としては今後どのような方向に行くべきだとお考えでしょうか。

柿沢:ほぼ確実に予測できる未来というのがあります。それは何かというと、人口統計なのです。今オギャーと生まれた赤ちゃんの数が86万人だとすれば、その86万人の男女から生まれる数は、おのずから決まっています。当面の傾向として、人口が減少するトレンドにあるのか、増加するトレンドにあるのかというのは、50年のスパンで言えばもうほぼ決まってしまうわけです。

そういう意味では、日本はこれから50年先の未来で言うと、特に生産年齢人口の働き盛りの人たちが、この10年で700万人ずつぐらい減っていって、2060年には働き盛りの人口は2,800万人ぐらい減少することになります。だからこそ今、65歳で定年引退させる必要はなく、75歳まで現役で働けるということで、労働力人口の概念を増やしたり、社会保障でカバーする年金支給開始年齢を65から75歳まで引き上げたりしようとしています。それを「全世代社会保障」の名目で進めようとしているわけです。

『未来の年表』という本がベストセラーとなった河合雅司さんがよく言うのですが、働き盛りの生産労働人口がここまで激減してしまうと、「警察官がいない、消防士がいない、自衛官がいない」ということになります。身体頑健でそれなりの若い男女でなければ務まらないような仕事、まさに国家の秩序維持に携わるような仕事で定員割れが起きる状況になっていくのです。これに対してどうするか。例えば外国人の問題や、高齢者の問題、また陳腐な言葉ですが、女性活躍の問題が対処すべきテーマとして出てきます。これはもう間違いなく予測できる未来です。

倉重:そこは確定した未来ですね。

柿沢:個人的には、日本の国柄や社会の安全性、文化の度合いをキープすることができれば、いわゆる移民の人たちをうまく社会統合して、日本の新しい活力にしていけるのではないかという意見を持っています。

倉重:日本人のアイデンティティーとは、やはり見た目がどうという話ではないと思います。

柿沢:それともう一つ受け売り的に、記者ですから私が見聞きした話を言いますと、先日私のセミナーに渋澤健さんに来ていただいたのです。渋澤健さんはかの渋澤栄一の子孫であり、自分自身もウォールストリートで投資家をしていた金融マンです。今はむしろアメリカ的な資本主義に批判的になって、長期安定型の投資を推奨しています。

国内の人口構造で言うと、日本は少子化で20代~30代の若者世代が元気がなく、「近頃の若者は…」ということになっているわけです。しかし、グローバルに視野を広げると、世界で人口がどんどん増えているインド、インドネシア、アフリカ大陸の54カ国は、どこを見ても人口の中央値は20代です。

 日本ではスーパーマイノリティーだと思われている20代~30代の人たちは、グローバルで見るとスーパーマジョリティーなのです。だから世界に目を向けて、世界とコラボレーションするマインドを持つことができれば、その世代の皆さんにとって巨大チャンスがあると言うのです。そういう意味でも、日本が世界に開かれて、日本人が外でも活躍できるようになっていくことが望ましいです。教育の問題も関係しますが、そういう未来を描いていくことできれば、決して悲観する必要はありません。

それは私みたいな国会の端っこにいるような政治家ではなくて、ちゃんとメインストリームの政治家が、国民に対して語り掛けることが必要なのではないかと思います。

(つづく)

対談協力:柿沢未途(かきざわ みと)

■昭和46年(1971年)1月21日生まれ

 江東区立数矢小、麻布中・高、東京大学法学部 卒業

■NHK記者として長野冬季オリンピック・パラリンピックを取材

■都議2期、衆院4期連続当選

■初当選以来、所属政党の政調会長や幹事長を歴任

■文藝春秋「日本を元気にする125人」に選ばれる

■国会質問ナンバーワン議員として知られ、2020年6月までの国会質問回数は334回

■NPO法人による国会質問評価で★★★3ツ星議員を4回受賞

■政治団体「新エネルギー運動」代表として、RE:100(自然エネルギー100%)の日本をつくるために政策提言中

■防災士の国会議員としても知られ、3.11の震災をはじめ被災地に数多く足を運んでいる

■禅寺修行で自らを見つめ直し、「本来無一物」を座右の銘とする

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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