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「最後まで戦う」と咆哮。大阪拘置所から保釈された籠池泰典氏に初インタビュー

赤澤竜也作家 編集者
2日ぶりに保釈された学校法人森友学園前理事長の籠池泰典氏(筆者撮影)

1年8ヵ月ぶりの拘置所生活で感じたこと

2月19日、大阪地方裁判所で懲役5年の刑を受け、大阪拘置所に収監されていた籠池泰典氏が保釈された。

保釈決定は判決翌日である20日の午前10時。一審の裁判長だった野口卓志裁判官によるものだった。

しかし午前11時50分に検察側が抗告、執行停止を申し立て。大阪高裁に判断を委ねることになり、歓喜に満ちた表情を浮かべ、拘置所前で待ち構えていた諄子夫人は引き返さざるを得なくなる。

大阪高裁第3刑事部に裁判関連の書類が届いたのが午後4時のこと。高裁の裁判官はその日のうちに目を通すことが出来ず、前日の晩に引き続き、泰典氏は大阪拘置所に拘禁されたまま夜を越すこととなった。

「鯛を焼いて待っとったんやけどね。温かいものを食べてもらいたかったから」

待機していた諄子夫人は寂しそうに洩らす。

翌21日の朝、水谷恭史弁護士が大阪拘置所で泰典氏に接見して事情を説明。引き続き、諄子夫人も面談し、「必ず今日中に出してもらうようにするから」と励ましたという。

2月21日、大阪拘置所を訪問し、待ち構えた報道陣に囲まれる籠池諄子氏(筆者撮影)
2月21日、大阪拘置所を訪問し、待ち構えた報道陣に囲まれる籠池諄子氏(筆者撮影)

面会室から出て来た諄子夫人は、

「お父さん、寒そうやった。面会中も手をさすってはったよ。こんなに長くかかるんやったら初日にフリースを入れてあげればよかった……。やっぱり疲労感はあったなぁ。声に張りはあったけど」

と心配そうな様子を隠さない。

午後1時より弁護団と裁判官が面談。補充意見書を出すよう依頼されたため、午後3時に弁護団が提出。泰典氏の通院歴を示す書類も求められた。

抗告棄却が決まったのは午後6時50分のこと。保釈されたのは午後8時過ぎとなった。

当初は大阪司法記者クラブでの会見が予定されていたのだが、遅くなってしまったため、大阪地方裁判所前で報道陣の囲み取材を受けることとなる。結果的に夕方のローカルニュースに間に合わせぬよう、検察が逆算して抗告したかのようである。

学校法人籠池学園が経営していた開成幼稚園。18年11月に公売されてしまったが、跡地は以前のままで残されていた(筆者撮影)
学校法人籠池学園が経営していた開成幼稚園。18年11月に公売されてしまったが、跡地は以前のままで残されていた(筆者撮影)

拘置所から出たばかりの籠池氏に聞くと、判決を受けたあと、即座に身柄を拘束されたという。

「法廷に10人くらいの検察事務官らが入ってきて僕の身の回りを囲みました。エレベーターで地下まで降ろされ、そこで手錠と腰縄を掛けられます。その後、そこにあったベンチでおにぎり二つとお茶を渡されました。また手錠を外してその場でお昼ご飯です」

18年5月に保釈されてから1年8ヵ月ぶりに拘置所へ足を踏み入れた籠池氏。

「衣類を脱ぐんですけれども、前の時と同様、結婚指輪が抜けずに難儀しました」

以前と同じように身体検査も受けたという。

「性器のチェックもありました。玉入れしているかどうか調べるんです。お尻の穴も広げて見せるよう指示されました」

「そのあと、医師の診断を受けます。以前のデータが残っていたのか、通風の薬まで用意してくれている。10日分もあったので、『そんなに長くいるつもりはないのにな』と思いました。

籠池氏があらためて実感したのは日本の刑事司法の後進性だった。

「再保釈の場合、以前は拘置所まで連れて行くことはなかったと聞いています。世界の司法は不必要な身柄拘束を減らす方向に進んでいるにもかかわらず、日本だけが後退してしまっている。人質司法が是正されるどころか、ひどくなってきているんです」

厳しい状況にもかかわらず意気軒昂

夫妻の置かれた状況は厳しい。

「お金だけではなく財産もすべて失いました」

泰典氏が語るよう、事件発覚当時、毎日のように報道陣が襲来した豊中の自宅は、18年9月4日、強制競売により不動産業者に売却された。夫妻は大阪府下の賃貸住宅に身を寄せ、次女とともに暮らすという。

森友学園とは別法人である、籠池学園が大阪南港に所有していた2000平米の土地建物は大阪市により公売され、18年11月27日に1億5千万円で落札業者の手に渡った。

系列の社会福祉法人が経営していた肇國舎高等森友保育園の建屋は、底地を所有する森友学園の管財人より18年12月12日、土地明渡命令の判決を受けた。19年5月9日に建物収去・土地明渡の強制執行が行われ、跡地は宅地として売りに出されていた。

森友学園創立の地に建てられていた保育園の建物は強制執行で取り壊されている(筆者撮影)
森友学園創立の地に建てられていた保育園の建物は強制執行で取り壊されている(筆者撮影)

いまだに謎が残っている8億円値引きによる国有地売却を巡る背任疑惑と財務省による公文書改ざん事件。ともに法務検察当局による国策不捜査でなきものにされたと喝破する籠池泰典氏。自身の疑惑については、

「絶対に負けないよ」

と笑顔で語る。

戦いは大阪高等裁判所へと舞台を移す。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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