働き方と人生を最適化する超ロジカル思考法【勝間和代×倉重公太朗】第2回
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いま、多くの会社にとって「仕事の生産性を上げること」が課題です。勝間和代さんは、さまざまな企業の業務改善に携わってきた経験から、「仕事に関わる時間は、ざっくり1/3で足りる」と話しています。仕事を思い切って削減した上で、自分自身や社員のポテンシャルを最大限に引き出すにはどうしたら良いのでしょうか。評価制度や権限の移譲についても聞きました。
<ポイント>
・長時間労働がなくならない本当の理由
・生産性を上げる一番簡単な方法
・リモートワークはどう評価すべきか?
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■報酬体系が変わらないと働き方は変わらない
倉重:以前この対談でも、タニタの社長の谷田さんに来ていただきました。社員一人ひとりにコストや時間の意識、値決めの感覚を持ってほしいので、フリーランス化を進めるとおっしゃっていましたが、まさにそういうことですね。
勝間:そうです。どんなに書類を作成しても会議をしても売上げは1円も上がりません。
倉重:それは、上が変わらないとどうしようもないですね。
勝間:いや、報酬体系が変わらないからです。日本の大半の企業勤めの人は、報酬体系が定額制です。そこが成果報酬になれば一気に変わります。
倉重:つまり現状では変えるインセンティブがないということですね。
今日本の労働法的には、報酬を一度上げたら下げられない、雇用の身分もなかなか失われないという制約があります。頑張ってもそれほどメリットがないと思ってしまうのも、そこに端を発しているのかもしれません。
勝間:短時間労働にしても別の仕事が降ってくるだけなので、みんな仕事をするフリをしています。
倉重:できる人ほど、「あっ、仕事終わっているんだ。暇だったらこれもよろしく」と渡されますよね。だから、早くやっただけ損ではないかと。
勝間:大学院へは、仕事をしているふりをして、席は片付けないまま行っていました。
倉重:それは仕事が降ってきてしまうからですか。
勝間:降ってくるし、それこそいないと何か言われるからです。
■企業の生産性を上げるには
倉重:勝間さん的に、日本の企業がもっと効率化すべきだと思う部分はどういうところですか。
勝間:言い方は大変申し訳ないですが、ゆっくりゆっくりローマ字入力でEメールを打っているおじさんがたくさんいますが、時間の無駄以外の何ものでもないと思っています。
打鍵スピードが、3~5行打つのに目まいがするぐらい遅いのです。
倉重:アレクサに音声入力してもらったほうが早いですね。
勝間:音声入力は通常の企業はできる環境になっていないですよ。それこそ仕事のやり方を変えていかないと。
倉重:思い切って若い人に任せて、「好きなようにしてくれ」と任せられればいいのですが、なかなか難しいですよね。
勝間:結局、権限委譲の問題です。極端な話をすると、生産性の低い人は仕事しないほうがいいと思っています。会社の責任としてお給料はあげてもいいのですが、仕事をするとかえって若い人や会社全体の余計な負担を増やしてしまいます。
倉重:そういう働かない社員は、今まで何となく周りにプレッシャーをかけて、「私がやらせておきましたから」と言っていました。ところがテレワークになり、誰が何をやったのかが明らかになっています。
勝間:テレワークのほうがばれてしまいます。仕事の状態が全部可視化されますから。
倉重:それを不都合に思う人がいるということですね。
勝間:そうです。何となく会議をして、「仕事をしたフリ」をしたい人は多いので。
■自由にやらせることで生産性がアップする
倉重:今回のコロナ禍で、意外と多くの仕事がテレワークでできることに、多くの企業が気付きました。そういった中で、今後どのように働くべきでしょうか。
勝間:しつこいですが、生産というのは労働だけではありません。
さまざまな企業や個人の事業活動において、とにかくみんな労働の話ばかりし過ぎて、飽きています。資本装備率やマーケティングの話、いろいろなことがあるはずです。労働というのもあくまで1インプットにしかすぎないのに、どうしてその話ばかりするのでしょう。
倉重:私はそれを専門にしているものですから、どうしてもその視点で考えてしまいますし、今が変わるチャンスかなと思っています。どういうことを発信したら多くの企業が変われるのでしょうか。
勝間:例えば生産性を上げようと思ったときに、一番簡単なのは自由にやらせることです。仕事の道具も押しつけないで、予算だけあげて自由に選ばせてもいいわけです。「セキュリティー基準とこの部分を守ったら、あとはツールを自由に買っていいよ」と任せてしまいます。
倉重:それを法律的に後押ししようとしたのが、裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度です。結局「残業代ゼロ法案だ」と叩かれて、全然使えない制度になっています。
勝間:既存のものを変えようとすると困る人がいるわけです。
倉重:日本の労働法は工場法のときからずっと一緒で、時間単価という価値観が続いています。それに縛られている人がすごく多いなと思います。
勝間:まさしくそこから変えて、生産性に応じた支払いを還元しないといけません。
倉重:勝間さんの「コンビニに同じ時間に行くな」という記事を読みましたが、まさに、お昼休みの同じ時間にわざわざ一斉に時間をかけてまで並んで行くのは効率が悪い、という話で、これはコンビニの例だけではなく、いろんな場面に当てはまる話ですよね。
勝間:証券会社や金融機関はなぜ給料が高いかというと、あそこは人がちょっと働いたらあっという間に手数料で数千万円から億単位でもうかるからです。結局成果に応じた賃金体系にしていかないと、誰も生産性を上げようと思いません。
倉重:それはそうですね。やってもやらなくても報酬は変わらない。変わるのは残業代だけであれば、「長く働きたい」ということになりますね。
勝間:例えば日本のメーカーは毎年リニューアルしていますよね。海外のメーカーから見たらあり得ないことです。わざわざ研究開発費を使って自社の製品を陳腐化して、不良在庫にしています。「オーブンレンジがスマホにつながるようになりました」といっても、たいていはどうでもいい機能です。なぜそれをやるのかというと、研究開発の人員がいて、予算もあるから。彼らはそれしかやることがないので、2020年春モデルをつくらせてもらえないと困ってしまいます。
倉重:そうすると、どんどん顧客が求めているものとは離れていきますね。
勝間:あと経費が全部上乗せされるので価格が高くなります。
倉重:iPhoneもそうなりつつあるので、アンドロイドに替えたのですか?
勝間:普通に競争体系があるほうがいいかなと思いました。
倉重:本当にあらゆる組織、働く人も納得するような話だと思います。
勝間:インセンティブ体系が全体的におかしいので、そこを直さないと結構厳しいです。自営業は、インセンティブ体系が市場と自分の労働とお金だけなのでラクなのです。
つぶれるか、つぶれないかというだけなので。
倉重:そういうマインドを持った人を増やして、国民総自営業者みたいな状態にするには、どうしたらいいと思いますか。
勝間:日本の場合は、セーフティーネットがないから、やりたくないのではないでしょうか。ヨーロッパやアメリカもセーフティーネットがあります。アメリカはちょっと弱いですが、ヨーロッパはそういう前提でみんなリスクの取り扱い方をしているわけです。
倉重:なるほど、起業して失敗しても公的な支援で何とかなると。
勝間:あるいは、労働体系を変えたとしても再チャレンジが容易です。
倉重:日本の場合新卒一括採用で、最初に入った会社の影響力が大変大きいです。就活でミスをすると精神を病んでしまう学生さんもいたりします。すごくいびつな状態で、再チャレンジがなかなか認められにくい雇用社会だと思います。
勝間:みんな勘違いしていますが、現状の法体制、法体系では全員が最適なことをしています。だらだらと働く長時間労働が最適だから、それをするのです。
「限定合理性」と言いますが、現状の中では合理的な選択をしているわけです。
倉重:確かに2人雇って半分の時間働かせるよりも、そのほうが安いです。
勝間:だから、環境や法制度を変えないと厳しいです。
倉重:それはおっしゃるとおりですね。コロナの前は、「労働力人口が足りない、人が集まらない」「働き方改革で魅力的な人に来てもらうにはどうしよう」という話をしていました。コロナになって一気に残業時間も減り、上限規制は一体どうだったのかという状態になっています。変わる会社と変わらない会社、かなり価値観が違っているなと思いますが。
勝間:変わらない会社はだんだん淘汰されていきますね。オフィス一つ取っても、都心の高いオフィスビルの維持費は誰が払っているのかということです。ミーティングルームがいくつかあれば、シェアオフィスでもいいぐらいですね。
倉重:うちの事務所も解約しようかどうか迷っています。
勝間:「通勤手当をやめて、交通費を都度払いにしよう」という話も出ていますね。
倉重:その代わり在宅手当にしてくれという多いです。ただ、それに柔軟に対応できる会社、できない会社が結構ありますが、これは経営者の違いですかね。
勝間:技術的には何でも可能なので、経営者がかじをそちらに向けるか向けないかだけだと思います。
■リモートワークはどう評価すべきか
倉重:やはり価値観が変わるときなのかなと思います。勝間さんの記事を拝見しますと、評価がすごく大事だとよくおっしゃっています。テレワークになってリモート環境でどう評価をしていくべきだと思いますか。
勝間:例えば営業は分かりやすいです。「いくら売上げをあげました」ということなので。営業以外の仕事については、ある程度裁量制にして、自分で「この期間にこういうことをやります」というスケジュールと成果物をコミットしてもらって、それに対する報酬体系を決めます。あとは1日10時間働こうが、3時間働こうが、その人のやり方に任せると。
倉重:全て裁量労働、業務委託のような発想ということですね。
勝間:仮に、その人よりより安く、より効率良くやれる人がいたら、その人は競争に負けるだけです。
倉重:本当にロジカル、合理的ですね。例えば間接部門であったとしても、成果を設定して、そこを達成できたかどうかを見るということですか。
勝間:そうですね。実際私が勤めていたJPモルガンは社内でもチケットを切っていました。「何時間この人を仕事で使いました」と名前を書いて。そのサポートが良かった、良くないという業績評価もしていました。
倉重:別の記事で、評価でかなりの時間を使ったとよくお書きになっていますね。テレワークに慣れていない日本企業では、「どう評価したらいいか分からない」という管理職も多いです。そういう人に向けてアドバイスはありますか。
勝間:そういう所は、だいたいにおいて、もとからきちんと評価していません。私は外資系にいたので、誰が評価してもあまり変わらないワークシートを使っています。
倉重:360度評価するのですか。
勝間:そうです。360度評価も40人ぐらいしていると気が滅入ってきます。
倉重:何時間ぐらいかかるのですか、全部で。
勝間:直接の上司と部下はすごく詳しい評価をします。周囲の人はもう少し簡単なものですが、それでも5~6項目ずつあります。
倉重:アンケート形式ですか。
勝間:10段階評価みたいな形です。協力的かどうか、この人は役に立つのかどうかを、何十人分か点数をつけていきます。人によってばらつきがありますが、平均値を取ればだいたい分かります。
倉重:バイアスがかかって変な評価になることも少ないということですね。
勝間:あと私がJPモルガンにいた頃は取引先からもたくさん評価を取っていました。「○○さんと○○さんがいるから発注しています」というメンションをされたかどうかがすごく重要なのです。
倉重:確かに顧客がどう考えているかは重要ですね。でも、そこまでやる会社はあまりないかなと思います。
勝間:評価をフェアにすることは、ものすごく気を使っていました。
倉重:上司だけが評価する1次考課、2次考課だけではなく、サンプル数を多くすれば当然標準化されて、おかしなものは切られて、適切な評価に自然と収束されていくという話ですね。
(つづく)
対談協力:勝間和代(かつま かずよ)
経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授。
早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。
当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。
アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。
現在、株式会社監査と分析取締役、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。
ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」選出
エイボン女性大賞(史上最年少)、第一回ベストマザー賞(経済部門)、世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders
少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランス、ITを活用した個人の生産性向上、など、幅広い分野で発言をしており、ネットリテラシーの高い若年層を中心に高い支持を受けている。Twitterのフォロワー61万人、FBページ購読者4万6000人、無料メルマガ4万7000部、有料メルマガ4000部などネット上で多くの支持者を獲得した。5年後になりたい自分になるための教育プログラムを勝間塾にて展開中。著作多数、著作累計発行部数は500万部を超える。