傷ついた子供たちの再生をストップモーション・アニメで。衝撃が感動に変わる『ぼくの名前はズッキーニ』
たまらなく愛おしくなる作品です。たんに登場するパペットたちがかわいいという意味でありません。
ストップモーション・アニメーションというと、どうしても児童向けの作品をイメージしてしまいますが、『ぼくの名前はズッキーニ』(原題:Ma Vie de Courgette)は小さな子供たちはもちろん、大人の胸にも深く響く作品。1月に邦訳が発売されたばかりのジル・パリスの『ぼくの名前はズッキーニ』(原題:Autobiographie D'une Courgette)を、アニメーション作家クロード・バラスが映画化。第89回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされたこともさることながら、セザール賞では実写映画をおさえて最優秀脚色賞を受賞していることからもそのクオリティの高さがお分りいただけるのではないでしょうか。
主人公は9歳の少年イカール。ズッキーニ(Courgette)は、母親が彼を呼ぶときの愛称なのです。養護施設で暮らすことになったズッキーニが、施設で出会った子どもたちとともに成長していく姿が、ストップモーション・アニメならではの手作りの温もりを感じさせる世界のなか描かれます。
けれども、彼が1人で屋根裏部屋で絵を描いているオープニングはどこか悲しげな雰囲気。そして、物語は、タイトルが出る前に、子供が主人公のストップモーションアニメに対する先入観を大きく覆す、かなりショッキングな展開を見せるのですが…。
この作品の本当の衝撃は、ズッキーニが施設で出会う子どもたちによって明らかにされます。ガキ大将的なシモンや、髪の毛で顔を隠してほとんど喋らないアリス、新たに施設にやってくるカミーユなど、彼らはみんな育児放棄や虐待など、さまざまな問題で心に大きな傷を受けた子供たち。
そう、この作品が見つめるのは、辛い現実と向きあう子供たちの再生。もちろん、子供たちが体験した悲劇は直接的には描かれませんが、行動や態度から、彼らが抱える痛みが切ないほど伝わってくる。実写で描いたら、辛すぎるものになったかもしれないデリケートな題材に、真摯に向き合い、ストップモーション・アニメだからこその温かさで子供たちの成長を描いていることに興奮せずにいられません。
なにより魅力的なのは、難しい題材に誠実に向き合いながらも、決して深刻になることなく、涙と笑いのなかに希望と優しさをくれること。
それぞれに心の傷を抱える仲間たちと出会い、何かにつけて気にかけて訪問してくれる警察官レイモンや、優しい先生たちに見守られながら、恋をし、友達を救うために仲間と力を合わせて行動することも知るズッキーニ。その仲間たちとの計画をはじめ、随所に伏線が効いているあたりも、さすがセザール賞最優秀脚色賞といったところ。
先生や仲間たちにも母親がつけてくれた愛称で呼ばれたがることや、ズッキーニがずっと大切にし続けている品物が、親を慕い続ける子供の心の切なさを増すものの、ズッキーニと仲間たちの再生は、彼らと同じ年頃の子供たちはもちろん、大人もわくわくさせてもくれるのです。そこに広がるのは、物語の入り口からは想像もできない世界。
一見コワいくらいのキャラクターもひとたび動き出すと、たまらなく愛おしくなるのはティム・バートン作品でご承知のとおり。最初は悲しげに見えたズッキーニをはじめ、いじめっ子風なシモンが内面に秘めた優しさなど、一人一人の感情が、とても豊かに伝わってくる。布やニットでひとつひとつ丁寧に作られているズッキーニたちの服や小物たちがまた、たまらなくかわいいと同時に、傷ついた子供たちへの作り手たちの愛と繊細さが表れているよう。その細部にまで溢れる愛が、この作品をいっそう魅力的なものにしています。
(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016
『ぼくの名前はズッキーニ』
2018年2月10日(土)より新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国ロードショー