大繁盛の合説VS閑古鳥鳴く中小企業合説、その落差は~売り手市場で様変わりする合説
広報解禁日の合説はもはやお祭り
今年もやってきました、就活の広報解禁日。就職情報サイトがオープンし、企業説明会が一斉に始まります。
そして各地で大規模に開催されるのが合同企業説明会、略して合説。
巨大すぎて疲れる、行く意味がない、など否定論が毎年出ますが、その割に集客数が減った、という話はほぼありません。
私も学生から質問されれば行くことを勧めています。
やはり、まとめて多くの企業情報に触れられるのは大きなメリットです。もはや、お祭りと言ってもいいでしょう。
私が見学に行った2018年3月1日のマイナビ・就職EXPOは午後を過ぎても学生が群れをなしていました。
見学に行った美容関連企業・コタのブースは休憩を示す札。しかし、話を聞きたい学生がブースの周りに待機。戻ってきた担当者の石橋徹・人事係主任が「どうぞ~。座って~」と声をかけると、一斉に着席。あっという間に立ち見まで出ました。
電設資材の商社・たけでんも立ち見が出る盛況。
「多くの学生と接触できる合説は我々にとっても企業を知ってもらえるチャンス」
と話すのはブースで陣頭指揮を取る那須耕三・専務。
合説の起源は1980年代
国会図書館で文献調査をしたところ、三和銀行総合研究所『経済月報』546号(1982年)に、合同企業説明会の記載が登場しています。
東京のある企業家グループでは、以前から共同求人委員会を設置して、さまざまな求人活動を展開している。その中でも注目されるのは合同企業説明会である。これは数10社の企業が合同して一流ホテルなどを会場として行うもので、学生の中小企業に対する固定的イメージを打破するのに役立ち、まずまずの成果をあげてきたという。また学生にとっても、「業種の異なる企業のうちから希望にあったところを選べる」、「短時間に多くの企業と接触ができる」等メリットも多い。学生に自社の姿をアピールすることに成功した好例と言えよう。
朝日新聞1984年9月26日朝刊「合同説明会 共同求人活動が活発化(就職ノート)」には、
知名度の低い中小企業が単独で説明会をやっても、効果が薄い。いくつかの会社が一つの会場で情報提供をすれば、もっと学生が集まるのではないか--東京中小企業家同友会や東京実業連合会は、こんな狙いの合同説明会を昭和五十五年から始めた。参加学生は年々増えてきたが、今年は日経連と関東経営者協会が初めて共同求人説明会を開く。住友商事の関連会社も合同企業説明会をやり、グループぐるみで人材確保に乗り出そうとするなど、共同求人活動が一段と活発化している。
とあります。1980年ごろに始まり、その後定着していったもの、とみられます。
合説のメリットは飽きさせない工夫
この合説が各地で広まり、さらに大学の中でも開催されるようになります。
現在では、主要国立大学、難関私立大学だと広報解禁日に合わせて学内企業合同説明会(通称・学内合説)が開催されます。それ以外の大学でも3月上旬から中旬にかけて開催されます。
合説の学生にとってのメリットは何と言っても様々な企業をまとめて回れることでしょう。
しかも、就職情報会社主催の合説は参加学生を飽きさせない工夫を凝らしています。
企業ブース以外に講演ブースで就活講演や大企業による業界研究講演などを実施。プレゼントコーナー、体験コーナーに相談ブースも多数設けられています。
一方、デメリットとしては、実は参加企業のうち、特に大企業は採用目的以外での参加もあり得るという点です。
日経連載でも書いたのですが、就職情報会社が主催する合説は採用だけが目的ではありません。就職情報会社との付き合い、企業名のアピール、製品・商品のアピールなど他の目的をもって参加する企業もあります。こころなしか、大企業に多い気が。
合説は企業も学生もメリット多数か
私以外にも同様の指摘をするキャリア関係者は少なくありません。あまりにもイベントとして巨大化したこともあり、合説参加には学生・企業双方ともメリットがない、と断じる方もいます。
では、合説は巨大化しただけで学生・企業、双方にメリットがないか、と言えばそうとも言い切れません。
ムダ説の逆で、優良企業の宝庫説を唱える方もいます。
有名企業、大企業は日経連載で書いた通りのところもあります。
しかし、もう少し規模の小さな企業、従業員規模が300人から1000人前後のところだとどうでしょうか。業界内で堅実な評価を得ている、しっかりしたビジネスを展開しているなどの企業がゴロゴロあります。
ただ、従業員規模の小ささ、ビジネスの狭さ(一般消費者にあまり関わらない)などの理由から、世間一般の知名度は低いものがあります。
こうした企業は知名度が低いからこそ、合説に参加するメリットはあるのです。
美容室向けヘアケア化粧品の製造・販売をするコタ(京都府久世郡)。
美容業界では有名な企業で東証一部上場企業。ただ、従業員規模は約300人で世間一般での知名度はそう高くありません。同社の石橋徹・人事係主任は合説参加のメリットをこう話します。
「やはり母集団形成ということを考えると合説参加は魅力的です。実際に合説で弊社を初めて知った学生が内定に至った例もありますし」
このコタのような優良企業が合説に参加しています。
西日本のとあるメーカーは福岡の合説で接触できる学生が例年30人程度。それをわかっていながら毎年、相当額のブース料を支払って参加しています。それだけ学生に接触したい、という思いからです。
もちろん、合説に参加した企業すべてが優良、というわけではありません。ビジネスとしてやや危うい企業も参加しています。
ただ、全体としては学生にとっても企業にとっても、デメリットよりメリットが大きい。だからこそ、参加学生数は減らず(年によっては増加)、年々、巨大イベントになっていっているのではないでしょうか。
学内合説は採用意欲の高さがメリット
一方、学内合説は大学のキャリアセンター・就職課がその威信にかけて参加企業を厳選します。それだけ企業側も採用意欲が高いものがあります。
参加学生も開催校の学生しか参加しません(ときどき、他校の学生が紛れ込むこともありますが…)。
そのため、就職情報会社が主催する合説よりも、空いており、話も聞きやすい、というのは大きなメリットでしょう。
私が取材に行った大阪大学の学内合説でも外国語学部の学生が、
「企業によってはブースで説明を聞いた後、『大阪大生のための先輩社員懇談会』のチラシを貰った。それだけ採用したい、という意欲を感じる」
と話してくれました。
学内合説のデメリットは、規模の小ささと参加企業です。
大学のキャリアセンター・就職課は就職情報会社のように大規模なイベント運営に慣れていません。どう考えても就職情報会社主催の合説よりも規模が小さくなります。
それから2点目の参加企業について。どうしても前年度かそれ以前の採用実績をもとに選定します。
ごくたまに、キャリアセンター職員の知見から、将来の成長性を期待して企業を選定することもあります。ただ、それもどうしても数は限られます。
それから、専門性の高い学部の単科大学・キャンパスの場合、やはり学生の志望が関連業界に偏ります。その分だけ、関連業界を志望しない学生からすれば、学内合説に参加するメリットは薄れてしまいます。
学生からすれば、志望業界の企業が来ているかどうかも含めて参加の是非を決めるといいでしょう。
業界・専攻別の合説も登場
合説が盛んなこともあり、現在では、専攻や業界別の合説も続々と登場しています。
3月6日・7日に開催される「化学系のための企業合同説明会」(東京)は、主催が公益社団法人日本化学会関東支部。
参加企業は積水化学工業、ADEKA、宇部興産、東レなど化学系メーカー大手から化学系学生を採用したい優良企業25社(各日/参加企業は日により異なる)が参加。
食・農就活サミット(東京)は明日3月3日に開催。後援は農林水産省で、石破茂代議士の講演もあります。米久、渡辺パイプなど食・農業関連の企業40社が参加。
3月6日に開催される「海事産業へのお誘い」(東京)は公益社団法人日本船舶海洋工学会が主催。
商船三井、今治造船や防衛装備庁、国土交通省海事局など15社・省庁が参加。
こうした合説は、業界・専攻がはっきり分かれています。学内合説と同様、企業側の採用意識は高い、と言えます。
中小企業合説は大苦戦、その理由は
一方、学生の売り手市場もあって大苦戦しているのが中小企業の合説です。
中小企業単独では人が集まらないから合説が誕生したはず。
それが、中小企業の合説では集客できていません。
ある中小企業の合説は、あまりにも集客できないため、一日開催から、半日開催に切り替えました。
なぜ、中小企業の合説は集客できないのでしょうか。
就職情報会社のアイデムの北薗潤一・プロジェクトマネージャーは中小企業合説の運営も数多く担当されています。
「企業の業務内容が悪い、だから集客できないということはないでしょう。魅力的な企業が数多く集まる、そんな合説もあります。各地で開催される合説も地元の優良企業が参加しています」
と、参加企業の問題ではない、と話します。問題は、学生の滞在時間を延ばす工夫。
「弊社でも他の就職情報会社さんでも、合説では学生の滞在時間をいかに延ばすか、そこを工夫します。先着順でクオカードをプレゼントするとか、就活の証明写真を無料でサービス、相談コーナーを設置するのもいいでしょう。同時並行で講演・セミナーを開催するのもよくある手法です。就活のノウハウものでもいいですし、大企業が業界事情を話す、というのもよくあります」
中小企業の合説では、そうしたノウハウの講演や大企業のセミナーがあると、それ目当てで学生が中小企業ブースに回らない、という意見もありそうです。が、北薗さんはそれも否定。
「確かにそういう学生もいるでしょう。が、全体では、『せっかく来たのだから企業ブースも見て回ろう』と考える学生が間違いなく増えます」
合説では重視、中小企業合説では軽視の休憩スペース
「中小企業の合説でも、証明写真サービスやクオカードプレゼントなどやっているところもあります。ただ、皆さん、奥ゆかしいというか、そうした情報を学生や大学にきちんと届けていないところが多い、そんな印象があります」(北薗さん)
北薗さんは、意外なポイントとして、休憩コーナーを挙げます。
「学生の滞在時間を延ばすうえでは休憩コーナーは欠かせません。中小企業の合説だと、この休憩コーナーがあまりないか、あっても採用担当者が出入りできるようにしています。採用担当者からすれば学生に声を掛けたい気持ちはわかります。が、学生からすれば休憩スペースで『ちょっと休みたいのに、声掛けされて休めない』となります」
確かに、休憩しているところに声を掛けられたら学生からすれば休まりません。下手すれば悪評にもつながります。
「弊社の合説では時間帯によって休憩スペースの椅子の数を可変させています。そうした工夫もいいのではないでしょうか」(北薗さん)
休憩スペースについては、合説参加を勧める大学キャリア職員も必要と感じています。私がマイナビ就職EXPOを取材していると、知人のキャリア職員と会いました。
会ったのは貸し切りバスで合説に学生を送り込む学生専用のスペース。各大学のキャリア職員もそこにいて、場合によっては学生の相談に乗ります。
「学生はバスで来て、夕方にまたバスで帰ります。そのため、学生はバスの時間までは、と各企業ブースを回ります。ただ、3社程度回ったところで、やはり疲れるようですね。これは体力があるはずの体育会系の子でも同じです。それでちょっと休憩してから回る、というのがよくあるパターンです」
日本一、学生に手厚い「ひょうご就職サミット」は3000円クオカードも
前記のキャリア職員は中小企業合説について、
「あまり宣伝もされていませんし、我々としてもどんな企業が来ているのかよくわからない、そんな中小企業合説が目立ちます。我々が把握できていなければ、学生にも勧められませんし」
と話します。
各地方の中小企業合説を調査したところ、学生にもっとも手厚くしているのが「ひょうご就職サミット」。兵庫県中小企業家同友会が主催します。
3月12日・4月21日にそれぞれ開催。64社が参加します。
参加学生は、企業ブースを3社回るとクオカード1000円分、5社2000円分、7社3000円分もらえます。クオカード3000円分、というのは他にアクセス・ヒューマネクストのアクセス就活フェアでの交通費支給(3000円/要事前予約)がある程度。
※なお、看護・医療向け合説は別です。3000円どころか、もっと出す合説もあります。
「ひょうご就職サミット」は昼休憩時には軽食(パン・おにぎり)もプレゼント。
それから、会場内では就活関連の講演もあります(私も参加予定)。
この「ひょうご就職サミット」にアドバイザーとして関わる採用コンサルタント・柳本周介さんによると、
「一般論としては、中小企業の合説は、ルーティーンワークと化しているところが多いです。ただ、会場を借りて机を並べる。担当者が座るだけ。それでは学生は来ません」
柳本さんが「ひょうご就職サミット」にアドバイザーとして参加するようになってからは、参加企業と話し合い、それぞれがアイデアを出し合うことで内容を大きく変えていきました。
「大きなところではコンシュルジュ制度です。幹事企業の担当者・社長が入り口で登録を済ませた学生に声を掛けます。自社に誘導するためではありません。学生の志向を聞いて、それにあった企業を紹介するようにします。みんなで助け合うことが必要、との意見から生まれたアイデアで、これは学生から好評です」
「休憩スペースの声掛けはやめました。学生のことを考えれば、長くいてもらうためにも休憩スペースではゆっくり休んでもらう、その方がいいだろう、と」
クオカードを最大で3000円分プレゼント、というのは2017年から実施。
「学生に長くいてほしい、というのもあります。それと、兵庫県だと広く学生の交通費負担も大きなものがあります。姫路から会場までだと往復で約2000円。それなら、その交通費分を上回るくらいがいいだろう、と最大で3000円としました。2017年4月開催時には約7割が3000円分、つまり企業ブースを7社回ってくれています」
スーツの東京、福井は親向けも
中小企業合説における学生集客の工夫は、多くはないものの広がりつつあります。
「東京jobway 中小企業が集まる合同企業説明会」(3月28日/主催は東京中小企業家同友会)では、企業ブースを回ると抽選に参加できます。
一番いい景品はオーダースーツプレゼント。
福井県・ふくいジョブカフェが3月4日に開催する「ふるさと企業魅力発見キャリアフェア」は県内企業が大手から中小まで260社が参加。
同イベントの特徴の一つとしては、15時から開催される保護者向け講演です。終了後は企業ブースも見学できます。
「県としては保護者に県内企業の情報を伝えることが学生の県内就職につながると考えております。そこで、本年度より講演後に保護者の企業ブース見学を推奨する時間を設けることで、保護者の企業ブース見学を積極的に誘導することとしました」(福井県産業労働部労働政策課)
「キャリア関係者向けの合説はどうか」との意見も
この親向け講演・ブース参加については、
「面白いアイデアだと思う」
とする意見と、
「就活に親が関わるのはろくでもない」
とする意見と、それぞれ分かれました。
この関連で、面白いアイデアを出してくれたのが、マイナビ就職EXPOで出会ったキャリア職員です。
「大学キャリア教職員向けの合説ってどうでしょう?」
つまり、企業がブースを出すのは合説と同じ。で、参加するのは学生ではなく、大学キャリア教職員、という次第。
「我々、キャリア職員はすべての優良企業を把握しているわけではありません。企業さんの大学訪問も限度があるでしょう。それなら、キャリア教職員向けの合説って、企業・大学、双方にメリットがある気がします」
なるほど、一理あります。確か、主要大学や大学の各団体で実施される大学・企業の名刺交換会というのもそういう趣旨だったような。
「名刺交換会だと、本当に少し話す程度。企業さんの詳細な話まではわかりません。それよりも合説の方がじっくり話を聞けます」
名刺ばかりたまって、あとで「誰だっけ」というのはよくある話。
「キャリア教職員向けの合説、運営や費用対効果が低い、ということであれば、通常の合説に『キャリア教職員見学タイム』を設けてはどうでしょうか。通常の合説、たとえば今日の合説だと11時スタートですが、それを10時スタートに繰り上げ。10時から11時は『キャリア教職員見学タイム』として各企業ブースを回れるようにするのです。15分1ターンとして、1人4社は回れます。これがあれば、企業情報を大学ももっと深く知ることができるのではないでしょうか」
いいアイデアです。どこかの合説、どこかの中小企業合説であってもよさそうな気が。
大阪では天下一合説
大阪では3月13日に「テッペン企業による天下一合説」が開催されます。近畿経済産業局が主催。
「様々な部門で製品性能や技術、サービスなどのナンバーワン・オンリーワンの特徴を持つテッペン企業が、『ハービスホール』に集結する大規模合同説明会」(大阪ジョブフェアサイト)で、約150社が参加。
オープニングセミナーは月亭方正さん。就職セミナーも開催されます。
同イベントでセミナーも担当されるアイデムの北薗さんは、今後の合説についてこう話されます。
「天下一合説はナンバーワン・オンリーワンの企業が集まる合説です。今後はこうしたタグ付け、と言いますか、特徴を持たせた合説が増えていくでしょう。もちろん、学生集客に工夫を凝らすことも大切です」
補記(2018年3月8日/誤字修正)
Yahoo!ニュース個人編集部の指摘を受け、誤字を修正しました。