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メイクで強くなれ! 選手を支える「アスリートビューティーアドバイザー」

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
「一般社団法人日本アスリートビューティー協会」を設立した花田さん(筆者撮影)

 元モデルで、アスリートだった花田真寿美さん(31)は今春、「一般社団法人日本アスリートビューティー協会」という組織を設立した。現役・引退後を問わず、アスリートが美について学ぶ「アスリートビューティーアップ講座」の開催や、講師のコーディネート、講座プロデュースを行う。どんな思いがあるのか?

 花田さんはこれまで、試合時や取材、表彰式などアスリートが「晴れ舞台」に立つ際にメイクやマスコミ対応のマナーなどでサポートする役割を担ってきた。栄養管理などの知識を得る勉強会の企画・運営にも携わっており、引退後のアスリートが新たなステージで挑戦する際に輝き続けるための、セルフ・プロデュースについても学ぶ機会を提供する。

ガールズケイリンの選手を対象としたアスリートビューティーアップ講座の様子(花田さん提供)
ガールズケイリンの選手を対象としたアスリートビューティーアップ講座の様子(花田さん提供)

 新たに設立された同協会では今後、また、花田さんのような人材の育成を行い、「アスリートビューティーアドバイザー」という新たな専門職の活躍の機会を広げていく。

メイク、立ち振る舞いなどを指導

 花田さんは数年前から、故郷の富山と都内を往復し、アスリートを支援してきた。「外見・内面ともに磨き、自信をつけていくことで、主体性を手に入れる」というテーマで、メイク、美しい姿勢でのウォーキング、立ち振る舞い、写真の撮られ方などを指導している。女性に対しては月経や減量などの体調管理、ファッションやスキンケア、栄養についてなどを専門家から学ぶ機会を提供している。

 空手の米国代表や、ブラインドサッカーの日本代表選手、2016年リオデジャネイロパラリンピックの柔道競技で銅メダルを獲得した廣瀬順子選手と陸上競技で銅メダルに輝いた重本沙絵選手、ハンドボールの実業団チーム、各競技の強豪高校の指導者などから依頼を受け、ナショナルトレーニングセンターなどで出前講座を行った。また、2020年東京五輪・パラリンピックに向け、埼玉県は「埼玉からメダリストを育てよう!」というプロジェクトを立ち上げており、この取り組みにも協力している。

 2017年7月にはポーランドで開催された五輪に採用されていないスポーツの国際大会「ワールドゲームズ」に出場する選手に同行し、試合前にメイクを施した。闘志をむき出しにして戦うと当然ながら化粧は落ちてしまうため、メディア対応や表彰式などに臨む前に選手の身だしなみを整えるサポートをすることが花田さんの役目だった。

「競技会場を巡り選手のメイクを担当しました。試合で敗れた選手にメイクをしていると、泣き出す方もいて……。でも、晴れやかな顔で表彰式・メディア対応に臨んでくれたことはうれしかったです。アスリートの姿を見て、美しいと思いました」

 今年3月には、2016年リオデジャネイロパラリンピックの柔道女子57キロ級で 銅メダルを獲得した廣瀬順子選手にメイクを施し、メイクの基礎を指導した。

リオパラリンピックの柔道女子57キロ級で銅メダルを獲得した廣瀬順子選手にメイクの基礎を指導した(花田さん提供)
リオパラリンピックの柔道女子57キロ級で銅メダルを獲得した廣瀬順子選手にメイクの基礎を指導した(花田さん提供)

現役時代にこだわってしまうのは残念

 引退した選手の支援も重要だと考えている。「アスリートが引退してセカンドキャリアを踏み出す時、メイクして、おしゃれをして、社会人としてのマナーも身に付け、今まで自分が情熱を注いできたことに自信を持って新しい道を歩んでいってほしい。ぜひ、お手伝いしたい」という思いがある。

「アスリートが自他ともに『あのころはよかった』と現役時代にこだわってしまうのは残念だなと思います。解説者や指導者、競技団体の役員になったり、一般企業の社員になったりして競技以外の場で活動していく時、自分の可能性を信じ続けてほしいですね」

 すらりとした175センチの長身で、背筋を伸ばしさっそうと歩く花田さん。しかし、目の前にいる彼女からは想像もつかない言葉が漏れた。

「アスリートがいつまでも内面・外見とも輝き続けることを願う」と話す花田さん(筆者撮影)
「アスリートがいつまでも内面・外見とも輝き続けることを願う」と話す花田さん(筆者撮影)

「高校時代はニキビだらけの顔に、角刈りみたいな髪型で、ずっと猫背でした。知らない男子にいきなり、『キモイ』って言われ、傷ついたこともあります」

 母校は富山県高岡市にある高岡西高。全国大会で優勝するようなバドミントンの強豪校で、五輪選手も輩出している。小学生のころ競技を始めた花田さんは中学卒業後、指導者の家に下宿しながら厳しい練習に励んだ。長身を生かしたプレーが持ち味だったものの、選手層は厚く、レギュラーの座に定着することはできなかった。

 花田さんは大学に進学して体育系の学部で学び、バドミントン部にも入った。今度はすぐレギュラーになれたが、競技をやめてしまう。「負けても悔しいと思えなかったから。燃え尽きちゃったんですね、競技の世界では……」。またもアスリートとして自信を得ることはできず、20歳でコートを去った。

「外見を整えることで、内面が磨かれる」

 その後、スカウトされてモデルになり、4年間は名古屋で、その後上京して活動してきた。ミスユニバース愛知ファイナリストや、日本のトップモデルを選ぶコンテスト「World Supermodel Japan(ワールドスーパーモデルジャパン)」の関西エリア代表になったこともある。モデルとして活動する中で、メイクをしておしゃれすることにより、自分を表現できる実感を深めていった。

日本パラリンピアンズ協会会長で、パラリンピック殿堂入りを日本人で唯一果たしている競泳の河合純一さんへパーソナルカラー講座とショッピング同行のコーディネートを行った(花田さん提供)
日本パラリンピアンズ協会会長で、パラリンピック殿堂入りを日本人で唯一果たしている競泳の河合純一さんへパーソナルカラー講座とショッピング同行のコーディネートを行った(花田さん提供)

 

また、体重管理の大切さも知った。カロリー計算と体重の増減に悩み、過食と拒食を繰り返したからだ。苦しんでいた時、マクロビオティックの料理教室に行き、楽しく会話しながら体に優しいメニューを作り、味わって食べることで気持ちが安定した。

 モデルとして経験を積んでいく中で、「高校時代に、競技者としても、思春期の女の子としても、個性を発揮できず、鬱屈した思いを抱えていた自分に何が足りなかったか」が分かるようになった。すると、「輝いている一流スポーツ選手は、若い時から自分の心身を管理し、個性を発揮する術を知っている。成長段階のアスリートに早くからそういうことを伝えたい」「引退後も輝き続けてほしい」という思いが湧いてきた。

「メイクをすると、試合前にスイッチが入るというスキー・ジャンプの女子選手がいます。インタビューを受ける時もきちっとメイクすると、受け答えに自信が生まれます。外見を整えることで、内面が磨かれる……。そんな効果があると思います」

リオパラリンピック陸上競技障害クラスT47日本代表の重本沙絵選手へパーソナルカラー講座をコーディネートした(花田さん提供)
リオパラリンピック陸上競技障害クラスT47日本代表の重本沙絵選手へパーソナルカラー講座をコーディネートした(花田さん提供)

 一般社団法人日本アスリートビューティー協会は、アスリートの教育機関として運営していく方針だ。カリキュラムを作り、各種講座を充実させる。体調管理の部分では、専門家を講師に迎えて内容を充実させる。また、アスリートが引退後、次のステップに進むための相談も積極的に応じていく。2020年東京五輪・パラリンピックを前に、全国でニーズは高まると予想している。

「2020年東京五輪・パラリンピックのヒロインよ、美しくあれ! 胸に輝くメダルとともに、もし、メダルを得られなくても、笑顔も個性も美しく輝かせてほしい」

 元アスリートの花田さんだからこそ、アスリートがいつまでも内面・外見とも輝き続けることを願っている。

※花田真寿美さんホームページはこちら。

http://precious-one.info/

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは「東洋経済オンライン」、医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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