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メルカリのグローバル人事改革【CHRO木下達夫インタビュー】(第3回)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
メルカリ本社にて著者撮影

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「All for One」で一致団結するメルカリのカルチャー

メルカリには社員を信頼し、情報をオープンにして共有する“Trust & Openness”というカルチャーがあります。信頼を前提にしているからこそ、情報の透明性が保たれ、組織もフラットに構築できます。また、All for One(すべては成功のために)というバリューの浸透が、一人ひとりの自発的な思考や行動を促し、組織の強さを強化してきました。こういったメルカリのチームビルディングが、会社の危機を救ったエピソードについて教えていただきました。

・英語話者と日本語話者の社員体験のギャップをどのように変えていったのか

・メルカリの中での行動履歴を参考に与信を与える仕組み

・All for One, Trust & Opennessというメルカリのカルチャー

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■社内の英語化のプロセス

倉重:海外で採用した人に東京に来てもらうのは、まさに従業員エクスペリエンスですよね。

木下:私が入った時は、英語話者の人たちと日本語話者の人たちの間に結構溝があったのです。日本語話者の人たちは先ほど言ったように「本当に英語化するのですか、どうしよう」と不安を感じている人が多かったのです。

 英語話者も「メルカリがグローバル化したいというから来たのに、言語の環境だけではなく、人事をはじめとした社内の様々な仕組みの理解が難しく、本当に自分たちは来て良かったのですか」と話す英語話者もいました。

「今後も世界中から英語話者を採りたいのであれば、様々な仕組みや環境を抜本的に見直す必要があると思います。自分も少し心が折れかけています」と話していました。初期の外国籍の英語話者の人たちは退職してしまった方も少なくありませんでした

倉重:入社後ギャップがあって早期離職してしまったのですね。

木下:特に中途採用で入ったメンバーに多かったのですが、メルカリの受け入れ準備体制が不十分なままだったため、外国籍のエンジニアの人たちの体験が悪く、結果としてエンゲージメントのレベルも低かったのです。

 当時外国籍の社員を集めてヒアリングして、「会社に対して改善点があったら全部言ってください」とお願いしたら非常に多く出ました。

倉重:それは何年前の話ですか。

木下:4年前です。

倉重:では、4年で相当変わりましたね。

木下:はい、事業フェーズが変化する中でメルカリとしてやらなければいけないことと、本人のやりたいことがあわなくなってしまったケースもあります。今エンゲージメント・サーベイを取ると、英語話者が高い傾向があります。これは他社でも似たような傾向があるそうですが日本語話者はスコアを中間くらい、英語話者は相対的に極端につける傾向があります。1から5まであったら、日本語話者がつけるのは2、3、4で、5や1などは少ないのです。これは文化的な側面があるとみています。

 英語話者のエンゲージメントスコアが日本語話者よりも高いと言っても、カルチャーの違いがあるので一概には言えないのですが、数年前には英語話者のスコアが著しく日本語話者よりも低かったことと比較すると、英語話者にとって力を発揮しやすい環境になってきているとみています。

倉重:本当の意味でインクルージョンされてきた、混ざり合っていく感じになっているのですね。

木下:これだけ対応できた日本のエンジニア、テック系企業はまだ少ないかと思います。

倉重:その中での人事施策のやり方としては、日本的なものもあるのでしょうか。例えば異動などはあるのですか?

木下:私も入ってきてびっくりしたことがあります。例えばメルペイのリリース当時、多くのスマホ決済サービスが乱立しました。 メルペイは2月にリリース予定だったのですが、その前年の12月のタイミングで、「このままでは絶対に開発が間に合わない」との予測が出てきました。一方でメルペイがローンチを3カ月遅らせたら事業として成功できる確度が下がってしまいますので、このタイミングは絶対に変えたくありませんでした。

そこで100名規模のエンジニアに「今、フリマアプリの開発でやっている仕事を一回止めて、翌月の1月からメルペイの開発業務に専念してください」と頼んだのです。

倉重:グループとしてそちらに注力したいから担当業務の内容を急遽変更するということですね。

木下:ペイとフリマアプリはセットです。メルペイができる前はほとんどの方が売上金を個人の銀行口座に出勤していました。お客さんの便益を考えても循環型経済をつくるという大きなビジョンから見ても、ここは絶対に失敗できないと思ったのです。

 メルカリというマーケットプレイスをより活性化させるためには、メルペイが欠かせませんでした。メルペイは単にキャッシュレスの決済をするだけではなくて、そこに信用の与信を付与しています。

一般的にクレジットカード会社は「今の収入はおいくらですか」「勤務先はどこですか」という情報をもらいます。それによって与信するので、専業主婦の方などはクレジットカードを作れないことがあります。けれども、弊社はメルカリの中での行動履歴を参考にしています。

倉重:どういう実績があるか、取引実績を見るのですね。

木下:例えばある人は手芸品を毎週のように出品していて、売り上げを定期的に持っていたとします。そこに与信を付けてもいいと判断するのです。

倉重:メルカリの中で与信ができてしまうのですか。

木下:その方が本当に誠実な対応をしているかどうかも全部記録が残っています。きちんと取引した後に「いいね」という評価をもらっている人は信頼されるので、その人に対してはこのぐらいまで与信しましょうという判断をしています。

倉重:完全に経営戦略があって、そこに人事戦略もひも付いている感じですよね。

木下:フリマアプリもそうですけれども、「テクノロジーで人をエンパワーしたい」と言っています。メルカリは「売る、買う」を簡単にできるのです。これまで買うのはいろいろなECサイトからできるけれども、売るのはそんなに簡単ではありませんでした。

メルカリだと簡単にスマホから販売できて副収入にできます。そういう人たちが一定数生まれたことはすごく大きなことだと思っています。

 メルペイの与信を付けることで、同じようにエンパワーされる人たちが一定数います。その人たちの生活が豊かになることを実現したかったので、エンジニアたちに緊急応援を頼みました。

倉重:これは日本的な人事権があるほうがやりやすいかもしれないですね。

木下:そこはやはり、All for Oneというバリューがあるので、「これは本当にAll for Oneで、みんなに協力をお願いしたい」ということを伝えました。

似たような話で言うと、インフラを再構築するプロジェクトを去年実施しました。技術がどんどん進化しているので、10年前に作ったアプリの技術だと、どうしても増築を重ねていて動きが遅くなるのです。それを最新の技術で一から書き直すと、すごく動きも速くなるし、新しい機能も付けやすくなります。ビルを一旦壊して再構築するような話なのでかなり大変でした。

倉重:渋谷駅の工事のようなものですよね。

木下:まさにそうです。大掛かりなインフラ工事なので、遅延するとほかの部門の開発にも影響します。「これは絶対にやりきろう」ということで事業における最優先目標として関係するエンジニアを総動員したのです。そこは国籍や年齢や勤続年数など関係なく、メルカリの持っているバリューの強さだと思いました。

倉重:社員の方にも常に成長機会を提供しているのですよね。

木下:われわれはTrust & Opennessという考え方を持っていて、社員を信頼してオープンに情報を共有しています。情報が共有されれば、この中で自分はどこを向いて走ったらいいのかわかりますよね。「今、インフラの再構築がうまくいっていない」というとき、みんなが自らタックルしてくれるのはすごくありがたいカルチャーです。

(つづく)

対談協力:木下 達夫(きのした たつお)

メルカリ 執行役員CHRO

P&Gジャパンで採用・HRBPを経験後、2001年日本GEに入社。GEジャパン人事部長、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を経て、2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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