藤井聡太二冠(18)叡王戦八段予選で勝ち上がり、杉本昌隆八段(52)との3度目師弟戦実現
12月3日。大阪・関西将棋会館において第6期叡王戦・段位別予選八段戦C▲長沼洋八段(55歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。
14時に始まった対局は16時50分に終局。結果は102手で藤井二冠の勝ちとなりました。
藤井二冠は19時から始まる予選準決勝に進出。師匠の杉本昌隆八段と3度目の師弟戦を戦います。
藤井二冠、熱戦を制する
王位、棋聖をあわせ持つ藤井二冠。段位は現在八段です。
藤井二冠は今期叡王戦、八段予選からの出場となります。
藤井二冠と長沼八段は初手合となります。棋歴の上では、長沼八段が大先輩。藤井二冠が修行時代には指導する側となるわけですが、その頃も含めて、対戦したことはないようです。
長沼「初めてなんで。全くですよね。ひょっとしたら(指導で)東海研修会に行ったときに(アマチュア時代の藤井少年と)やってないかな、とか思ったんで。やってないかもしれない」
現在の席次通り、下座に着いた長沼八段。かたわらのお菓子ボックスから、不二家のチョコレート「LOOK」を手にしました。おみやげとして持って帰って食べるそうで、それもまた一局といったところです。
2017年5月18日。藤井四段(当時)が18連勝目を果たしたとき、手元にLOOKが置かれていたのが目を引きました。
「中学3年生のプロ棋士、藤井聡太四段が社会現象を巻き起こしている。対局中のおやつに、藤井四段が「ルックチョコレート」を食べていたことで注目された不二家(2211)」(『株式新聞』2017年6月23日)というように「藤井関連銘柄」として不二家もまた注目され、思わぬ「フジイノミクス」を起こしました。
不二家からは関西将棋会館宛に、2箱のダンボール箱に詰められたルックが送られてきました。
それから3年が過ぎ、不二家がタイトル戦のメインスポンサーとなる未来は、誰が予想しえたでしょうか。
将棋は頭を使う競技。脳の栄養補給には糖分。チョコレートや甘いものは将棋に欠かせない、と言えるかもしれません。
13時46分頃、藤井二冠は不二家のお菓子ボックスを手にしながら、対局室に入ってきました。
藤井「チョコレートを対局中いただいて、やっぱり糖分補給にぴったりなのかなというふうに思いました」
局後に藤井二冠はそう語っていました。
10時からの対局では、師匠の杉本昌隆八段が座っていた御上段(おんじょうだん)の間の上座にすわっていました。
14時からの対局では、藤井二冠が床の間を背にして、上座にすわります。
5枚の歩をふっての「振り駒」は、「歩」が1枚、「と」が2枚。そして「歩」と「と」を表にして2枚が重なっていました。この場合は重なった2枚をノーカウントとして「と」を2枚と数えます。先手は長沼八段と決まりました。
14時、対局開始。長沼八段は7筋の歩を一つ前に進め、角筋を開きました。対して藤井二冠はグラスを手にして冷たいお茶を飲んだあと、いつも通り、8筋飛車先の歩を突きます。
矢倉模様の立ち上がりかとも思われたところ、長沼八段は雁木の作戦を取りました。対して藤井二冠も追随し、両者ともに雁木です。
先に動いたのは長沼八段。飛と銀のコンビネーションで3筋から攻めていきます。
藤井「こちらの玉の薄い形が続いたので、終始難しいのかなというふうに思っていました」
43手目。長沼八段は銀を打って駒得を目指します。本局は持ち時間1時間の早指しで、この一手に14分と少しを使って、残りは20分。飛と角金の交換に進むのが変化の一例で、確かに駒得はするものの、飛車を渡して反動も厳しいので、決断が必要な場面だったかもしれません。
長沼八段には若い頃「駒取り坊主」という異名がつけられました。
「なんでも”同歩、同○”と取っ手しまうのが得意技で、仲間内から「駒取り坊主」と呼ばれている。感想戦での「駒得ですからね」の一言が有名」
1988年に刊行された米長邦雄九段(故人、永世棋聖)と若手棋士の対談集『米長のスーパーアドバイス』には、プロフィール欄にそう記されています。ここでは両者のやり取りを一部引用してみます。
21歳といえば、一般社会ではまだ前途洋々といった年齢です。ただし将棋界ではもう、厳しいサバイバルレースの中に身を置くことになるわけです。
藤井二冠は残り25分のうち、17分を使って応じます。激しい変化にはならず、難しい中盤が続いていきます。
藤井二冠は銀を投資して盤上隅の桂香を取ります。
藤井「(△2八銀は)何かやっていかないと、玉の堅さの違いが大きいような気がしたので。ただ、形勢としてはあまり自信がないのかな、というふうに思ってました」
駒得を果たしたのは藤井二冠。ただし形勢は微妙です。
藤井二冠は52手目、長沼53手目に時間を使い切って、あとは両者1分60秒未満で指す「一分将棋」となりました。
藤井二冠の陣形はバラバラとなり、居玉の周りには守りの駒がいません。形勢は離れず、観戦者にとっては面白い終盤戦となりました。
季節はすでに冬ですが、藤井二冠はスーツの上着を脱いで、ワイシャツ姿で戦います。
76手目。藤井二冠は自陣に銀を打って、長沼八段の角を捕獲します。
長沼「受けられてしまって・・・。藤井先生の寄せをね、警戒しすぎて。寄せられないようにと思ってやってたんですけど、そしたら攻めが切れ模様になってしまいまして。(△6二銀で)角、死にましたからね。銀を打たれて真っ青に・・・。もうちょっと攻める手があったのかな。ちょっとわからないですね、全然」
藤井二冠の駒得は広がります。形勢はわずかに藤井二冠がよさそう。ただし初期位置から動いていない藤井玉は戦場に近くて薄いため、少しでも間違えると、あっという間に負けになりそうです。
長沼八段にもチャンスがめぐってきたのではないかと思われたところ。85手目。長沼八段は銀を打ち込んで王手をかけます。対して藤井二冠はようやく居玉を動かし、一つ横に寄せて逃げました。これがいつもながらに、正確な応手です。
藤井二冠は角を逃げず、端9筋の歩を伸ばします。これが華麗な決め手でした。藤井二冠は角を取らせる間に、飛と香のコンビネーションでからめ手から長沼玉に迫っていきます。
藤井「△9六飛車と走ったあたりで、はっきりよくなったかなと思いました」
最後、長沼玉には十数手の即詰みが生じました。藤井二冠はそれを読み切ります。102手目、藤井二冠は桂を打って王手。対して長沼八段は次の手を指さず、投了しました。
「熱戦でした」という記者からの問いかけに長沼八段は「あ、そうですか。まったくわからなかったです」「必死にやってただけなんで、ちょっとよくわからない」と笑っていました。
かくして3度目の師弟戦が実現することになりました。
藤井「朝の時点ではそれ(師弟戦実現)はわからなかったですけど、結果的に師匠と対戦できるというのはうれしく思いますし、全力を尽くしたいと思います」
過去の師弟戦は、藤井二冠の2戦2勝です。