Yahoo!ニュース

野宮真貴 最強の60歳が還暦ライヴで見せた進化と深化 「還暦はゴールではなくスタート」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
8月19日ビルボードライブ東京

3月12日の誕生日当日に開催予定だった還暦ライヴが延期になり、8月に開催。鈴木雅之、横山剣が“花”ならぬ“サングラス”を添える

8月19日、野宮真貴はビルボードライブ東京のステージに立っていた。久々のライヴ。駆け付けたファンも久々の生ライヴを心から楽しんでいた。今年3月12日に還暦を迎え、『野宮真貴、還暦に歌う。~赤い口紅の女と黒いサングラスの男たち~』を本来は誕生日当日に行う予定だったが、コロナ禍のために延期され、8月19日・20日に同所で開催。初日は鈴木雅之、2日目は横山剣(クレイジーケンバンド)をゲストに迎え、新型コロナウイルス感染症対策を万全に取る中で、華やかに行われた。ここでは19日のライヴを野宮に振り返ってもらいながらレポートする。

感染拡大防止のため、座席数を半分に減らし通常とは異なる座席レイアウト、マスク着用、最前列のお客さんにはフェースシールドマスクが配られ、そんな状況下でも、開演前の客席はやはりワクワク感が充満していた。野宮の記念すべき還暦のお祝いライヴという“祝祭”への期待感と、久々の生ライヴを楽しめるという喜びが会場の空気を心地よくしてくれる。スクリーンには野宮への還暦のお祝いコメントが流れる。斉木しげる(シティーボーイズ)、GLIM SPANKY、小薮千豊、HEESEY(THE YELLOW MONKEY)、高橋幸宏というなんとも豪華な面々が登場し、さらにワクワク感が募る。

「ライヴが実現するまで歳を取るのをやめると宣言したので、今日ようやく時計の針が動き出しました」

画像

そこに「マッセメンシュ」のクラシカルな赤いドレスに、”miss maki nomiya 60”と書かれたタスキをかけた野宮真貴が大きな拍手の中、登場。ショウのスタートだ。オープニングナンバーはピチカート・ファイヴの大ヒットナンバー「SWEET SOUL REVUE」。この日のセットリストがとんでもないものになりそうだと、ファンは予感したはずだ。「ライヴが実現するまで歳を取るのをやめると宣言していたので、今日ようやく時計の針が動き出しました」と笑顔で語る野宮。しかし延期を余儀なくされ、悔しい思いをしつつ、STAY HOME中の心境の変化が、このライヴの内容をブラッシュアップさせることにつながったという。

「STAY HOME中に、音楽で私が何を伝えられるのかを、もう一度考えました」

「一年前以上から準備していた企画なので、延期になったのは残念でしたが、仕切り直して安心して皆さんに観ていただける時期にやろうと、すぐに気持ちを切り替えました。還暦ライヴなので61歳になっちゃうとできないから、一年以内にできたらいいなって思っていました。自粛期間にやっぱり色々と心境の変化もあって、このライヴのこともずっと考えていて、ただ楽しく、お祭りっぽく盛り上がるだけではなく、この時期にライヴに来るということを選んでくれたお客さんがいてくれること、そして客席を半分に絞っていた中で、フジテレビNEXTで生中継(8月20日放送)と完全版放送(9月30日、鈴木雅之出演ステージをプラスした豪華完全版をOA)があるので、たくさんの方に観ていただけるということで、音楽で私が何を伝えられるかをもう一度考えました。セットリストも最初はクールにスタートしようと思っていましたが、一曲目に『SWEET SOUL REVUE』で明るく始まるようにしました。どんな人にも<ハッピー>や<ラッキー>があるという、そういう“希望”のようなものを信じる気持ちが必要な時だから、よりその曲の意味を伝えたいと思いました。締めはやっぱり『陽の当たる大通り』かなとか、すごく考えました」。

「陽の当たる大通り」(1984年)は、<死ぬ前にたった一度だけでいい、思い切り愛されたい>で始まって<バイバイ>で終わる、ポップで陽気なメロディに、避けがたく持つ孤独や悲しみを秘めた歌詞で、それを野宮が歌うことで希望を感じさせてくれる極上のポップスになる。ピチカートファンならずとも、フェイバリットソングに挙げる人が多い名曲だ。

渋谷系のルーツであり、自身のルーツミュージックでもある、バート・バカラック作のカーペンターズメドレーを披露

ジャズアレンジが施された「東京は夜の七時」では、声を出したり歌ったりすることを禁じられている客席に“静かな盛り上がり”が広がる。荒井由実の「中央フリーウェイ」は2015年のビルボードライブでの「野宮真貴、渋谷系を歌う。」で、ムッシュかまやつ氏とデュエットした忘れられないナンバーだ。そして自身のルーツソングもタップリ歌ってくれた。「11歳のときに父がステレオを買ってくれて、生まれて初めて聴いた洋楽がカーペンターズでした」と、渋谷系の女王は小学生の時、渋谷系のルーツでもあるバート・バカラックの音楽とすでに出会っていたことになる。そのバカラックのメドレーを当時のアレンジで聴かせてくれた。「Close to You(遙かなる影)」~「Knowing when to leave」〜「Make it Easy on yourself」~「Always Something There to Remind Me」~「I’ll never falling love again」~「Walk on by」~「Do you know the way to San Jose」と、この日コーラスで入っていたSmooth Aceの声と野宮の声が重なり、楽曲をよりふくよかなものしていた。「Smooth Aceさんと一緒に歌いたい、ルーツミュージックもやってみたい、ということでカーペンターズのメドレーにしましたが、とっても難しくて(笑)。でも60にして新しいことにチャレンジすることも大事だと思って頑張りました」。

まるで野宮のことを歌ったようなピチカート・ファイヴの「三月生まれ」を歌い終えると、衣装チェンジのために一旦捌け、その時間を楽しませてくれたのが、お祝い映像コメントだ。のん、夏木マリ、鮎川誠、そして小西康陽が登場した後、誰もが驚いたのがKISSのポール・スタンレーからのメッセージだ。KISSの大ファンである野宮にとっても最高のお祝いになったはずだ。

“人生には音楽とおしゃれがあればいい”という座右の銘を、表現するライヴ

画像

野宮が「ケイタマルヤマ」の、フリル付きの赤いドレスを纏い登場すると、客席から歓声が上がる。この日も3回衣装チェンジしたが、その度に会場、ステージの空気がガラッと変わり、華やかさを増す。野宮のライヴの“唯一無二感”を感じる瞬間だ。「“人生には音楽とおしゃれがあればいい”というのが、私の座右の銘でもあって、エンタテインメントには音楽とビジュアル、衣装がとても大切な要素だと思っています。自分自身もそういうアーティストのライヴを観に行くのが好きだし、子供の頃からそういうスーパースターに憧れて歌手になったところもあるので、聴いても観ても楽しい、そういうライヴを目指してやってきました。衣装は私にとって本当に大切なもので、素敵な衣装を着ていると気分が上がるし自信をもらえるし、そうするといい歌が歌えます」。

鈴木雅之と名曲の数々をデュエット

画像
画像

いよいよこの日のスペシャル・ゲスト、“ラヴソングの王様・”鈴木雅之の登場だ。まずは「渋谷で5時」をデュエット。鈴木もコロナの影響でツアーが延期となり、この日が今年初ライヴということで気合が入る。そして「ここでもう1曲、大人のラヴソングを」と、デュエットのスタンダードナンバー「ロンリー・チャップリン」を披露。大人の余裕と色気を感じさせてくれる歌に客席は酔い、多くの人がマスクの下で一緒に口ずさんでいた。鈴木は「還暦はゴールじゃなくてスタートライン。目指せ古希ソウル!」と野宮にメッセージを贈り、野宮とSmooth Aceもラメ付きの白い手袋をし、シャネルズのデビュー曲「ランナウェイ」を歌った。鈴木のライヴではコール&レスポンスを楽しみにしているファンも多く、鈴木はいつものように「Say!」とマイクを客席に向けるが、「心でね」と加えるのを忘れなかった。、

「マーチンさんと剣さんには、私から曲をリクエストさせていただきました。お客様が喜んで頂けることと、自分の還暦祝いのライブでもあるので、私も楽しみたいと思い、『ロンリーチャプリン』と『ランナウェイ』はすごく好きなのでお願いしました。『ランウェイ』では私もコーラスに徹して、そういうコラボもやってみたかったんです」。

小西康陽が日本語詞を手がけた「ムーンリバー」は「“夢見る夢子さん”だった自分の心情と重なって、大切な曲になりました」

画像
画像

野宮はドレスの裾を外し、真っ赤なミニスカート姿に早変わり。衣装は「ケイタマルヤマ」の立体的なハートのフォルムが鮮やかでキュートな、野宮にしか着こなせないまさにスペシャルな衣装だ。還暦でこんなにミニスカートが似合う女性がいるだろうか。「最後に私が生まれた1960年の大好きな映画『ティファニーで朝食を』から『ムーン・リバー』を歌います。小西(康陽)君が素敵な日本語詞を付けてくれました」と、忘れられないスタンダードナンバーを盟友が紡いだ言葉で歌うという、感動的なパフォーマンスだった。「歌詞の中に<夢見る夢子さん>という一行があって、歌っているうちに、60年間生きてきて子供の頃に歌手に憧れて、今歌手として活動していて、自分も夢見る夢子さんだったんだなと自分と重なってきたというか、小西君が書いてくれた歌詞が心情と重なって、すごく不思議な感覚でした。とても大切な曲になりました」。

「以前は“還暦までは歌います”と言っていましたが、これからも歌い続け、ライヴをやり続けたい」

画像

アンコールの一曲目はピチカート・ファイヴの19988年のナンバー「20th century girl」。この曲を野宮がソロになってからライヴで歌うのは初めてという、スペシャルライヴならではの選曲だ。そして代表曲のひとつ「Twiggy Twiggy」を披露。1981年のソロデビュー作に収録された、Twiggyそのままにスレンダーな野宮が歌う「トゥイギーのミニスカートで、トゥイギーみたいなポーズで」という中毒性があるフレーズは、変わらず新鮮だ。そして再び鈴木雅之が登場し、「夢で逢えたら」をデュエット。美しいメロディと歌に感動が広がる客席に、最後に放たれたのは「陽の当たる大通り」。美しく年を重ね、様々な経験を積み、さらにコロナ禍の中で思いを新たにした野宮の歌が、名曲を更に深く深化させ、届けてくれた。

「マーチン(鈴木雅之)さんも言っていましたが、還暦はゴールではなくスタートなんです。私も数年前まで『還暦までは歌います』って言っていましたがまだ全然歌えるし、マーチンさんは古希まで歌うって言っていたので、私も頑張ろうっていう気持ちになりました。まだまだライヴをやりたいですし、新しいことにどんどんチャレンジしていきたい」。

この公演の模様は、9月30日(水)21時~フジテレビNEXT ライブ・プレミアム/フジテレビNEXTsmartで『野宮真貴、還暦に歌う。~赤い口紅の女と黒いサングラスの男たち~<完全版>』として放映される。

フジテレビNEXT オフィシャルサイト

野宮真貴 オフィシャルサイト

野宮真貴 オフィシャルモバイルファンクラブ「おしゃれ御殿」

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事