今週末、どこ行く? はじめての「ひとり温泉」で”ご褒美旅”なら絶対この宿!≪パワースポット温泉≫
ただこの日、私は別の目的があったのだ。
「桜島を正面に眺めながら温泉に入るぞ」と。
そう思いながらも、鹿児島空港から「田島本館」に来る道中にあった「ラムネ温泉」という看板が気になり、友人に尋ねると「これから行ってみましょうか」と、「田島本館」を出たその足で「ラムネ温泉」へ連れていってくれた。
家族湯と浴場、飲泉コーナーがあった。飲んでみると微発泡。ここに砂糖を入れたら弾け方の弱いサイダーになるかなぁ。
「このくらいの規模の小さな立ち寄り温泉は、地元の方が通うので、綺麗に整っていますよね」と友人が言う通り、施設が清潔だ。友人は私たちが落とした水滴をそこにあった布で拭いていた。整えてから、「ラムネ温泉」を後にした。
車中で友人が話してくれた。
「この1か月程、咳が治らずに胸が痛んだので、毎日温泉に通って痛みを和らげました」と。
毎日温泉に入る人たちは温泉の活用法を知っているし、温泉を大切にしている。
少し空が明るくなり、桜島が見えてきた。
「桜島が冠雪している!」と、2人ではしゃいだ。
この晩に宿泊する「城山ホテル鹿児島」に送ってもらって、友人と別れ、ここからはひとり温泉だ。
桜島を眺める露天風呂は数あれど、桜島を見上げるわけでもなく、見下ろすわけでもなく、真正面に鎮座する桜島と対峙する気分になれるのは、ここ「城山ホテル鹿児島」の「さつまの湯」なのだ。
宿泊地にここを選んだのは、もちろん格式あるホテルに滞在したいということもあるが、桜島と朝日を愉しむのが一番の目的。
部屋は桜島ビューで、暮れなずむ光景のなか、ひたすら桜島を眺める。
夕食はホテル内のレストランを選べる。私は中華レストランで海鮮そばを食べた。
夕食後も「さつまの湯」へ行くと、暗闇のなかに街の灯りがともり、一部、漆黒のシルエットがくっきり見える。方向からして、これが桜島。
カーテンは開けたままで就寝。朝の光で目を覚ましたかったからだ。
7時頃、朝焼けが始まるくらいに目が覚めた。
暗い空の下、黒くずっしりとした巨体が浮かんできた。
桜島だ。
裾野辺りが茜色に染まり、朝焼けのショーが始まった。30分もすると、朝焼けは変化し、眩しくなってきた。このタイミングで駆け足で「さつまの湯」へ向かう。
露天風呂に到着する頃、桜島の右脇あたりから強い光が放たれ始めた。朝の太陽が姿を現す。
昇りゆく太陽の正面に座り、お湯に浸かりながら、その光を目で追った。
辺り全てが黄金色に包まれて、お湯も金色に染まる瞬間。
朝日とお湯と私が一体となった。
この一瞬を求めて、私はここに来たのだ。
※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。