Yahoo!ニュース

結局謎として残った「なぜあのタイミングで」“眞子さま婚約”報道だったのか

篠田博之月刊『創』編集長
よく見ると「ご婚約へ」と「へ」の文字がついている

2017年5月16日、NHKの夜のニュースを皮切りに眞子さま婚約報道がなされ、日本中が祝福ムードに包まれた。相手の男性の詳細な経歴も報じられているから、正式に婚約が発表されたものと受け取っている人も多いと思うが、その後、「婚約発表は予定より早まってこの夏に」という報道がなされた。そこで初めて「え?まだ正式に発表されてないの?」と首を傾げた人も少なくないのではないだろうか。実は5月半ばの報道は「婚約へ」という見出しになっており、正式発表がない段階での前打ちなのだ。

今回は昨年の天皇生前退位報道の時のように、報道当初宮内庁が否定するといった野暮なことはしなかったために事実上認めたことになってしまったのだが、実はなぜこのタイミングでこの報道が出たのか、いろいろな憶測が飛び交っている。というのも、5月16日というのは、天皇の退位特例法の閣議決定が予定されていた19日のわずか3日前で、かつその特例法で女性宮家の問題をどうするのかが大きな争点になっていたからだ。つまり争点である女性宮家問題に密接に関わる眞子さま婚約という話が、予定よりかなり早くそのどんぴしゃのタイミングで飛び出した。これは偶然ではないのではないかという疑問が生じても不思議はないのだ。

今回の報道がどういう経緯でなされたのか。既に伝えられている内容を整理しよう。

実は今回も昨年の生前退位報道と同じNHK記者のスクープだった。昨年のスクープは、いまになって思えば、天皇が長年、生前退位について考えており、近しい家族にも話していたにもかかわらず、一向に政府が動こうとしないため、業を煮やして先に報道で花火を打ち上げるという形になり、退位問題が正式に浮上する道筋が作られたものだった。

具体的に誰がどう考えてそのタイミングでスクープとなったのかについては、いろいろな憶測は流れたが真相はいまだ不明だ。ただ、秋篠宮家に食い込んでいたというNHK宮内庁担当の橋口和人キャップが大きな働きをしたのは確かだろう。これだけの大スクープだから記者としては情報を知ってからは何とかこれをスクープしたいと考えて動いたのだろうが、そのキャップに誰がどう話し、どういう思惑が働いたかというのは明らかになっていない。ただ皇室ないし皇室関係者の意向が大きく働いた結果だったことは間違いないだろう。

では今回はどうだったのか。NHKのスクープについて『週刊新潮』6月1日号で同局員がこうコメントしている。

「ウチは5月16日、『ニュース7』が始まる1分前の18時59分から、『眞子さま、婚約へ』の速報を放送しました。その原稿にはスクープを表す『特』の字が記されていたんです」

スクープしたのは、昨年の天皇の生前退位のスクープを放ったのと同じ宮内庁担当の橋口キャップだった。それゆえに、いろいろな憶測も流れたのだ。

NHKのスクープ直後から、他局も後追いする形で、相手の男性の詳細な紹介も含め、情報が一気に報じられた。報道が始まった直後、宮内庁など関係者は大慌てだったという。

あくまでも正式発表ではなかったため、17日に囲み会見に応じた婚約相手の小室圭さんは「時期がまいりましたらまた改めてお話させていただきたいと思います」という言葉を不自然なほど繰り返すことになった。

そしてその後、週刊誌などでは一斉に、なぜこのタイミングだったのかが取りざたされている。今回スクープしたのが昨年と同じNHK記者で、しかも天皇の退位法案が閣議決定される直前だった。その法案と関係して「女性宮家創設」が取りざたされているまさにその渦中に眞子さま婚約が報道されたのだ。何らかの思惑が働いたのではないかという憶測がなされるのも無理はない。

前出の『週刊新潮』は、こう書いている。

《宮内庁としても、退位法案が成立した後、ご婚約を発表する段取りではあった。しかしながら、「それだと、陛下が望んでおられる『皇位の安定的な継承』が十分に審議されないまま話が終ってしまいかねない。皇族の数が減るんだよという事実をいわば切迫感を持って伝えるのに、眞子さまの婚約を特例法案の閣議決定前にぶつけるというのは効果的だと考えたのでしょう」》

『週刊朝日』6月2日号は「眞子さま『ご婚約』は女性宮家ご辞退宣言か」という記事を掲げたが、その中で婚約報道は、天皇の退位問題と密接に絡んでいるとして、こんな見方が披露されている。

「付帯決議に『女性宮家創設』への準備が明記されれば、眞子さまの恋愛が政治に巻き込まれる」それゆえに「食い止めるためには一刻も早く、眞子さまが『女性宮家創設』から辞退するという意思表示を行う必要がある」として報道がなされたというのだ。

『週刊ポスト』6月2日号も「なぜこのタイミングだったのかー『女性宮家創設』の議論再燃へ」という記事を掲載、こう書いている。

「宮内庁は婚約内定が国会審議に影響しないように、法案成立後に発表する算段をしていた」。しかし、その思惑が覆り、結果的に退位法案の付帯決議に「女性宮家」の文言を入れざるを得ない空気が強まったというのだ。

『アエラ』5月29日号も「なぜこのタイミングか」という見出しで、複数の見方を紹介している。

退位特例法案は現在国会で審議されており、会期内に成立するのは確実と言われている。結局、女性宮家に関する記述は、付帯決議の中で検討することが明記されたものの、具体的な検討の期限などは明記されず、与野党の妥協の産物となった。直前に眞子さま婚約報道がなされたことがどういう影響を及ぼしたのかなど、詳細はわからない。

ただ今後、眞子さまの婚約発表がなされ準備が進む過程で、これが女性宮家問題と関わってくる可能性はある。今回のスクープのタイミングについて何らかの配慮や思惑が働いたのかどうか。そういう内情が漏れてくるにはまだもう少し時間がかかるかもしれない。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事