映画「パラサイト」ご覧になりました? さて「韓国で本作がどう観られているか」について。
1月9日の「金曜ロードショー」を通じ日本の地上波で初放映された韓国映画「パラサイト」。ご覧になりました? いうまでもなく、2019年のアカデミー賞で四冠を達成した歴史的大作。本稿のトップ写真はこの映画の「韓国版公式ポスター(宣伝用にメディアに配布されているもの)」です。
下記の日本版(同作の日本公式Twitterアカウント)と比べてみてください。まずビジュアルが違います。コピーは似ているようで、少し表現が違います。
日本「幸せ 少し いただきます」
韓国「幸せは 分けるほどに 大きくなるじゃないですか」
似ているようで、少し違うのです。韓国では「分かち合う(ナヌダ)」またはその名詞形「ナヌム=分かち合い」という単語が日本よりも多く使われるため、「幸せ」もそうやってよく表現されるのです。
何をお伝えしたいのかと言うと「この作品が韓国でどう観られているのか」という点です。
筆者はK-POPもよく取材していますが、制作者側がよく言うのは「まずは韓国で受け入れられなければ、世界にも行けない」という点です。
そもそも本作、韓国の映画史上で国内での収益がナンバーワンの作品なのです。
「国民日報」は昨年12月27日に「BTS・パラサイトに”歓喜”」という記事を掲載し、2020年の韓国内カルチャーを綴りました。米国ビルボードで1位を獲得したBTSの”Life goes on”と同じく、韓国語で作られたコンテンツが世界の市場で認められた、ということです。アカデミー賞で外国語の作品が大きな賞を総なめしたのはこのパラサイトが初めてだそうです。
はたして韓国内でのその評価とは?
じつは「格差」ははっきりと謳われていない!
(韓国版の映画PRトレイラームービー第一弾)
今年2月のアカデミー賞四冠受賞後に文在寅大統領も「不平等問題に共感」とコメント…という話はそこそこに。
まずは韓国の制作者の意図から。<何を伝えようとしているのか>。意外と日本のプロモーションでは使用されていない文章があります。
あらすじ。韓国版ではこういう内容となっています(筆者訳)。
迷惑かけたくなかったんですよ…
全員プータローで、生きる道も漠然としているが仲はいいギテク(ソン・ガンホ)の家族。長男ギウ(チェ・ウシク)に名門大学生の友人ミンヒョク(パク・ソジュン)がつなげた高額の家庭教師のバイトは、ついに芽生えた固定収入の希望だ。
家族全員の助けと期待のなか、パク社長(イ・ソンギュン)家に向かうギウ。
グローバルIT企業のCEOであるパク社長の邸宅に到着すると若くて美しい奥様ヨンギョ(チョ・ヨジョン)がギウを迎える。こうして始まった二家族の出会いの後に、とめどない事件が待っていたのだ…
本作、よく「韓国社会の格差を描いた」などと評されますが、じつは制作者からの案内にはその言葉は入っていません。「二家族間のとめどない事件」とのみ。観た人に感じ取ってほしいということです。また日本語にしてもわずか240文字の内容に家庭教師を紹介した「ミンヒョク」の名が入っているというのは…この役が短い出番ながら、重要なものだということ。ミンヒョク=パク・ソジュンとは後(2020年上半期)に「梨泰院クラス」の主人公、パク・セロイ役でも大ブレイクする彼のことでもあります。
ちなみに本作、韓国では「ブラック・コメディ家族ドラマ」とジャンルづけされています。
ポータルサイトでのコメント「ベルを押した瞬間、作品が…」
では、作品性について韓国ではどう観られているのか。
「映画評論」や「いくつ賞を獲った」「世界的な評価」「韓国社会の貧富の差を描いた」などは他の専門家に任せるとして…ここでは韓国の一般の人たちがこの作品をどう観たかについて紹介しましょう。
(ちなみに韓国の情報サイト「ナムウィキ」では、世界各国や自国内の評論をあまねく紹介したうえで、作品評価をこうまとめています。
「映画専門家やマニア層の間では
(1)オリジナリティ
(2)貧富の格差がもたらす悲喜劇的葛藤に関したメッセージが込められている点
(3)ディティールにこだわった撮影
(4)美術など舞台装置もよく織り込まれた脚本が好評を得ている」)
韓国最大のポータルサイト「NAVER」では作品をダウンロードにより販売しています。ここに国内での評価が端的に現れています。
記者・評論家評点 9.06 / 10
映画館で観た人の評価 9.07 / 10
インターネット評価 8.48 / 10
いずれも高得点。またこのページにはコメント欄も設けられています。じつに3万8000を超える感想が寄せられており、そこで「いいね!」の多くついた、共感を得ているコメントを紹介します。
雨に濡れない高級なおもちゃのテント、雨に濡れて浸かってしまう半地下の一家。
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最近観た映画の中では一番衝撃的だった…まあ観てみると「15歳以下閲覧禁止」ではなく「19歳以下禁止」にすべきじゃないかな…。
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家政婦がベルを押した瞬間、この映画のジャンルが変わった…歴史的レベルの面白さ
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国際的作品を字幕無しで観られるのが嬉しい。
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半地下が一番下だと思っていたけど…その下には地下もあった。
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なんだか不快な映画だった。映画が不快だというのではなく、観る者それぞれの胸に何を突き刺したいのかが忘れられている映画だ。
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映画館で観た自分もまた、誰かの生活臭にしかめっ面をしているんじゃないかと思った。
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誰かの匂いを嗅いで、評価して、描写できることも権力だと思う。匂いでお互いを見分け、警戒し、区別する動物の世界と韓国社会は本当に似ている。
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パク・ソジュンが間違いを犯したねWWW
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「人気のセリフ ランキング」も!
ちなみにこの「NAVER」のページでは韓国内の観覧者が選ぶ名セリフのコーナーもあります。日本語版字幕とは少し表現が違うかもしれませんが、これもご紹介を。
1位「時計の方向に」(ヨンギョ)
2位「一番完璧な計画が何か分かるか? 無計画なことだ」(ギテク)
3位「父さんは階段だけ登ってくれればいいから」(ギウ)
(ヨンギョ。パク社長の妻役)
ちなみに筆者自身も映画館で作品を観ました。韓国渡航歴100回以上の立場から見ると…序盤にギジョン(パク・ソダム)がネットカフェでタバコを吸いながら、名門大学の在学証明書を偽造しているシーンが”ツボった”。いかにも韓国にありそうな場所の、禁煙エリアでタバコを吸う「極悪行為」。しかし偽造の技術はめっちゃスゴい。このギャップに思わず声を出して笑いそうになりましたが、日本の映画館では周囲は無反応でした。
ここから「パラサイト、韓国の映画館で観てみた」「どんな反応が?」という企画を思いついたのですが、ソウルの取材期間中にコロナがこれを邪魔を…3月上旬、日本政府が「中韓からの帰国者に14日の隔離」との情報が。慌てて帰国の途に…思えばこの映画が日本でも上映されて大きく話題になった時期は、ちょうど1年前だったのです。新型コロナ時代が来る前からちょうど来た頃。
ちなみに豪華キャスト陣のなか、本作出演により一番の”のびしろ”があったのは、このギジョン役のパク・ソダムです。アカデミー賞受賞後、より知名度が上がり本人も「信じられない日々」とメディアにコメント。ソウルのタクシーにも彼女の写った広告が貼られていた。「あ、妹は実在するんだ」と嬉しくなったものです。