ジャズ・フェスは“お祭り気分”だけでなく“文化の発信”も重要
世界3大ジャズ・フェスのひとつで、1967年から続いているスイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルの内幕に触れる記事がおもしろかったので紹介します。
モントルー・ジャズフェスティバル、多様性と即興性が成功の鍵<引用:アンドレアス・カイザー, swissinfo.ch(独語からの翻訳 徳田貴子)>
記事によると、モントルー・ジャズ・フェスは2013年1月に逝去したクロード・ノブス氏が実質的にすべてを仕切っていたそうです。
後継者として指名されたのはマシュー・ジャトン氏で、1999年にノブス氏は彼にマーケティングとスポンサリングを任せました。そして2011年にはジャトン氏が事務総長に就任。
モントルー・ジャズ・フェスの事務総長は、平時25人の正社員、フェスティヴァル期間中は1000人以上の臨時雇用の人々に指示を出して動いてもらうというのが主な仕事。年間予算は2500フラン(約26億円)とのことです。
この予算が多いか少ないかーー。例えば、前回の東京オリンピック招致推進活動において東京都は3年間で100億円の財源を充てました(参照:2016年オリンピック・パラリンピック招致活動報告書/招致活動経費の内訳)。これは1年間で約30億円の費用となり、単純に招致活動とジャズ・フェスの運営は比べられませんが、ほぼ同等の規模と考えると実感が湧きやすいのではないでしょうか。
モントルー・ジャズ・フェスは、16日間に3つの会場を使って行なわれる合計48回のコンサートが中心となっています。
野外で音楽好きが集まって騒いで楽しむ機会を提供するのではなく、あくまでもお金を払ってコンサートを観に来るという“場”を提供することにクロード・ノブス氏はこだわり、ジャトン氏もその遺志を継いでいるそうです。
こうした“品質主義”が根底にあるからこそ、アーティストは通常のコンサートよりも長い時間のライヴをモントルー・ジャズ・フェスのためにやりたくなり、それを観客は待ち望むようになり、好循環が生まれるというわけです。
この“品質主義”を証明してくれたのが、ユネスコでした。モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのコンサートの模様を収録したオーディオ、ヴィデオ・テープのアーカイヴが、「モントルー・ジャズ・フェスティヴァルの遺産」として、ユネスコの記憶遺産に認定されました(2013年度:The Montreux Jazz Festival: Claude Nob's Legacy)。
日本でも骨太の運営方針で続けているいくつかのジャズ・フェスティヴァルがあります。“人寄せ“”地域経済の活性化”という余波が期待できるからこそのイヴェントというご意見もごもっともですが、それでは“ジャズの遺産”を食い潰すただの放蕩ムスコにすぎないのではないでしょうか。“死して皮を留め”たクロード・ノブス氏の“生きた遺産”を見習い、日本からも記憶遺産として登録ができるジャズ・フェスが育っていくことを願っています。