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「在日コリアンとして生まれた私」「中国の伝統・漢字について」武蔵野市で日本語スピーチ大会

南龍太記者
(写真:アフロ)

 多様なバックグラウンドの、幅広い世代が暮らす武蔵野市で3月、「外国人による日本語スピーチ大会」が開かれた。

 新型コロナウイルス感染の状況を踏まえ、入場者数を絞るなど対策を取っての異例の開催となる中、外国にルーツを持つ6人が日本で暮らして気づいたことや日本観、自国文化など思い思いの考えを発表。文化や言葉の違いなどに戸惑う外国人に向けて「悩むことは当然。学びや経験で克服できることを伝えていきたい」と共感的なメッセージを送っていた。

(希望により登壇者は匿名)

28回目の歴史ある大会

 スピーチ大会は今回で28回目。例年開催しているが、新型コロナウイルス感染が広まった2020年は無観客、21年は入場者数を減らして開催に漕ぎ着けた。1989年設立の武蔵野市国際交流協会(通称MIA)が主催している。

 今回も例年同様、「日本の生活で心が動いたエピソードや出身地の文化・家族の紹介」をテーマに参加者を募った。今回は6人がスピーチし、何人かは自国の民族衣装を着て登壇した。

 今回司会を務めた2人もそれぞれインド出身、在日コリアン3世と外国にルーツを持つ当事者だ。息のあった掛け合いでスピーチ大会を進行した。

タイ市場とオランダの「シンタクラース」

 最初に発表したタイ出身の女性は、プーケットなど日本人にも人気の観光地が多くあるタイの市場性について説明。4年前に来日して日本人の夫と4歳の息子と暮らし、日本語が上手になっている子どもの成長の様子を語った。

 続いてオランダの男性は、サンタクロースやクリスマスの起源となったオランダ発祥の「シンタクラース」について紹介した。のちにアメリカで変化した12月25日の「クリスマス」の習慣と異なり、12月5日にプレゼントをもらうこと、その日に合わせて学校にシンタクラースが来た思い出などを写真とともに披露。「もっとオランダを知るためにぜひオランダに来てください」とアピールした。

シンタクラースについて説明するオランダ出身の男性
シンタクラースについて説明するオランダ出身の男性

中国の2人

 3番目の男性と4番目の女性はいずれも中国出身。それぞれ「日本での子育て体験」、「中国伝統文化~『漢字』について」をテーマに発表。女性は親戚がいない日本での出産体験の大変さや、離乳食に関する日中での違いといった苦労談を交えて紹介。男性は「羊」という漢字が持つ良い意味合いに言及しつつ、羊が使われている「美」や「善」の成り立ちを解説した。

漢字の成り立ちを説明する中国出身の男性
漢字の成り立ちを説明する中国出身の男性

 発表が終わるたびに司会の2人が質問や軽妙なコメントをはさんだ。発表者が小学校に入る前から漢字を習っていたとのエピソードにインド出身の男性司会は驚き、「私は20代で初めて漢字を学んだ」と言って笑わせていた。

「悩むのは当然」

 もう1人の司会の女性も「在日コリアンとして生まれた私」をテーマにスピーチを披露した。

大阪で生まれた在日コリアン3世という女性
大阪で生まれた在日コリアン3世という女性

 最初に、祖父母が済州島から日本へ渡り、両親が日本で生まれ、自身は在日コリアン3世という出自などを紹介。「大阪の在日コリアンの多い地域で育った。小学校の児童も半数以上が朝鮮半島にルーツがある状況で、自分が韓国人であることに疑問を持たず育った」と話した。

 その後、地元を離れた高校に進学し、出会った友達に「韓国語を話して」「日本語上手だね」「いつ日本に来たの?」と言われた経験から、自身が韓国について詳しくないことに気付いたという。

 次第に、韓国にルーツがあることを隠すようになる一方、隠そうとする自分が嫌になり、悩むこともあったという。

 人生観を変えようと、社会人を経て29歳のときに韓国へ留学。そこで韓国が好きな日本人との出会いを通じて韓国の料理や文化にあらためて魅了された。同時に、韓国人の文化や風習も知り、自分の家族が取っていた行動や態度に対する理解も深まったといい、「留学生活通じて日本と韓国、両方好きになった。留学をきっかけにやはり自分は韓国人だったと気付き、在日コリアンというアイデンティティーをより持つようになった」。

 言葉や文化の壁、出自などさまざまなことで悩んでいる外国人に対し、「悩むことは当然であること、そして学びや経験で悩みを克服できることを伝えていきたい」と締めくくった。

アトムが大好き

 最後にスピーチした男性は、6年前にオーストラリアから英語教師として来日。子どもの頃にテレビでアニメ「鉄腕アトム」を見て日本に興味を持つようになったと話し、お気に入りのアトムの人形を壇上で見せて会場を和ませていた。

アトムが好きなオーストラリア出身の男性
アトムが好きなオーストラリア出身の男性

 武蔵野市の松下玲子市長は「コロナ禍で準備も大変だった中、スピーチ大会ができてうれしい。アイデンティティーや文化を大事にしながら、違いを認め合い、ともに仲間として支え合っていく。武蔵野市をそんな優しい町にしていきたい」と話した。

(画像は主催者提供)

武蔵野市国際交流協会(MIA)

武蔵野市国際交流協会(MIA)は、地域での国際交流の推進を通して、生活者としての外国人をサポートしながら、一緒に地域を作っていく隣人としての関係づくりに努めている団体。様々な文化、習慣を持った人々が互いに尊重し、共生していく多文化共生社会の実現を目指し、各種事業に取り組んでいる。

https://mia.gr.jp/

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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