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Bリーグ富山の浜口炎HCの提言から考える誤審が公にならないBリーグのレフリー制度とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
浜口炎HCが示した提言はBリーグの行方を左右するものだ(筆者撮影)

【Bリーグ富山の浜口HCが示した提言】

 この記事は、Bリーグ富山の浜口炎HCがメディアに示したある提言が発端になっている。

 3月21日の対滋賀戦を戦い終え、試合後の記者会見に臨んだ浜口HCは、一通りの質疑応答を終えた後「ちょっといいですか?」と切り出し、以下のように語り始めた。

 「この間うちが0.2秒で敗れた試合をご存じでしょうか?その試合について専門サイトなどが、『あれはタップだ』と記事にしているんです。

 僕としては普通の一般紙であったりとかならば構わないんですけど、専門誌とかで書いているライターさんだったのなら、あれがタップか、タップじゃないかを取材したり、疑問を持つべきだと思っています。

 うちの選手はあの試合に負けたことで、その1勝でプレーオフにいけないかもしれないですし、あれで勝利給を貰えない選手もいるかもしれないんです。

 ただレフリーは何の罰則もない、リーグも(誤審かどうかを)認めない、何も公式発表されていないというところで、(メディアの皆さんが)協力してくれると凄く助かるというか、疑問について書いて貰えると嬉しいと思います」

【富山対千葉戦で起こった疑惑の判定】

 今回浜口HCが話してくれた「0.2秒で敗れた試合」とは、3月7日に富山で行われた千葉戦のことだ。

 この試合は終盤まで均衡した展開が続き、88対88のままオーバータイムに突入するかと思われたが、ビデオチェックの結果、残り0.2秒で千葉のボールポゼッションが認められ、ギャビン・エドワーズ選手が決勝シュートを決め、千葉が劇的勝利を飾っている。

 今回浜口HCが我々に提言するに至ったのは、エドワーズ選手の決めたシュートが、タップなのか、それともキャッチなのかについて、メディアの間で全く取り上げられておらず、またBリーグからも正式発表がないまま判定通りに処理されている状況に疑義を呈しているからに他ならない。

 確かにこの試合は、チャンピオンシップ進出を狙う両チームにとって重要な1戦だった。仮にこれがNBAの試合だったとしたら、ESPNなどのスポーツ専門局を中心に疑惑の判定として様々な論評がなされ、全米中で報じられていたことだろう。

 だが実際のところ、浜口HCから話を聞くまでその事実を承知していなかった。日々スポーツ専門サイト等をチェックしている自分ですらそうなのだから、多くの人たちが認識していなかったはずだ。

【JBAからBリーグに送付されていた公式見解】

 確認のため説明しておくと、ルール上残り時間が0.2秒以下の場合、シュートを成功させるためにはボールをタップするか、直接ダンクで入れるしかない。ボールをキャッチした時点でシュートは無効になる。

 改めて試合映像を確認しても、エドワーズ選手は一瞬だがボールを両手でキャッチしているように見え、明らかに誤審ではないかという疑問が生じてくる。

 浜口HCはその試合以降も、他のレフリーたちに確認を続けており、「あれはキャッチです」という回答をもらっているそうだ。そうした事実を世に伝えられないことも、今回の提言に繋がったのではないだろうか。

 そこで浜口HCの提言に答えるため、個人的に取材をした結果、レフリーを管轄し、Bリーグに派遣している日本バスケットボール協会(JBA)から、この判定について以下のような回答が届いた。

 「(試合が行われた)当日中に振り返りの検討を行い、『タップではなく、ノーカウントにするべきであった』として、Bリーグ側に公式見解をお伝えしています」

 つまりJBAは試合後すぐに判定に不備があったことを確認し、その旨をBリーグ側に伝えていたのだ。だが浜口HCが我々に話をしてくれたのは3月21日のことであり、このJBAの公式見解はそれまで公にされていなかったということになる。

 改めて浜口HCに確認したところ、現在もBリーグから何の説明も受けておらず、「誰も知らないと思います」ということだった。

【レフリーに関してBリーグは管轄外】

 Bリーグの規約には、第18条「抗議の手続き」いう項目がある。試合において不利益を被ったチームは、リーグに対し抗議を申し立てることが出来るというものだ。

 だが抗議の対象になるのは、以下の3点に限られている。

 ①審判によって訂正されなかったスコアおよびゲームクロックの管理、ショ トクロックの操作での誤り

 ②ゲームの没収、中止、延期、再開もしくはプレーをしないことについての 決定

 ③適用される出場資格に対する違反

 要するにレフリーの誤審については、抗議の対象外なのだ。

 またBリーグにレフリーに関する質問を投げかけたところ、以下のような回答が届いた。

 「審判はJBAから派遣協力をいただいているため、原則として審判の育成・スキル向上はJBAの管轄となります。JBAとリーグは提携しているものの、(レフリーの)チェック機関をリーグ内に設けているわけではございません」

 こうした背景から考えると、たとえリーグの公式戦で誤審があったとしても、Bリーグは管轄外ということになる。つまり今回のJBAから送付された公式見解についても、公にする立場にはないと考えられる。

 果たしてこの状況は、理想的と言えるのだろうか。

【プロの世界にアマチュアリズムを受け入れる矛盾】

 今回JBAの取材を通じて、レフリーの育成やスキル向上のため、様々な取り組みをしていることが分かった。

 その1つとしてBリーグのシーズン中に「JBA REFEREE SYSTEM(JRS)という担当レフリー共有サイトを用い、各週で発生した事案について、映像による情報共有を図っているという。そのためJBAでは、今回の富山対千葉戦に限らず、全試合の確認作業を行っているという。

 またトップリーグ担当のT級インストラクターによるレフリー評価を実施。また担当レフリーを3つのカテゴリーに分類し、B1、B2、B3担当という基準を設けているという。

 ただ事実として、JBA公認レフリーの中でプロとして活動しているのは2人しか存在しない。他の多くのレフリーたちは、他に本業を持ちながらBリーグのコートで笛を吹いている。プロの審判とは違い、試合とは別に、スキル向上のために割ける時間は自ずと限られてくる。

 かつて大河正明前チェアマンが、あるチームの研修会に参加した際に、選手たちに「レフリーに対してあまり文句を言わないように」と話していたのを聞いて、かなり違和感を覚えた。これは明らかにアマチュアリズムの考え方だからだ。

 本来プロの世界ならば、NBAのようにリーグがプロの審判を採用し、お互いプロの立場でコートに立つのが普通だ。それをノンプロのレフリーに任せていることにBリーグの矛盾がある。

 これまで選手たちから何度となく、「自分たちがレフリーを批判すると罰金が科せされるのに、レフリーは誤審をしても処分を受けない」と不満の声を聞いてきたが、まさにそうした矛盾を抱えているからに他ならない。

【今シーズンに関するBリーグとJBAの異なる見解】

 これまで2017-18シーズンからBリーグの取材を続けている中で、現場のコーチや選手たちから公式、非公式の場でレフリーに対する不満を聞いてきた。

 またBリーグが世界的に認知されNBAなどで実績ある外国籍選手が多数参戦してくるようになり、毎年のようにリーグのレベルが上がっていく一方で、レフリー事情はなかなか改善されていない状況に、彼らの不満は増しているように感じている。

 今シーズンに関しても、なかなか映像越しには伝わらないかもしれないが、コートエンドで撮影しながら、選手やコーチたちがレフリーの判定に怒り、一触即発ムードになった場面を何度となく目撃している。

 そうした試合は往々にして、選手のフラストレーションがプレーにも影響し、荒れた試合展開になってしまう。それが行き過ぎれば、選手のケガにも繋がってしまうリスクもある。

 ある選手から聞いた話では、「今シーズンは例年よりも酷くなっている」ということだった。

 この点についてBリーグに確認したところ、反対の回答が返ってきた。

 「今シーズンの実績としてテクニカルファウルの減少が挙げられます。(今シーズンの選手やコーチの抗議が例年以上に目立っているという)内容が事実である根拠は特に見受けられないことが、実績からの見解でございます」

 その一方でJBAは、今シーズンのレフリー配属が例年通り、実施できてないことを明らかにしている。

 「今シーズンにおいては新型コロナウイルスの影響もあり、審判員の移動制限(所属する職場および家族の意向等により、県内あるいはブロック内のみに限って担当する)が多く発生しているため、試合実施の実情に応じ、基準(カテゴリー範囲分け)以外での割り当ても行っています」

 実際いくつかの試合で、外国籍選手がレフリーに対し、かなり侮辱的発言(もちろん英語だが)をしたにもかかわらず、そのままスルーされていた場面を目撃している。これはテクニカルファウルの数では認識できない部分だ。

【誰もが情報共有し議論できる環境整備を】

 浜口HCの提言、そしてその提言を元にしたこの記事は、1つの誤審を糾弾することが目的ではない。Bリーグにおけるレフリーを取り巻く環境が、なかなか改善されていかないことに疑問を抱いているものだ。

 もちろん現在のBリーグが、NBAのように独自にレフリーとプロ契約を結ぶのは不可能なくらい重々承知している。

 だが今回明らかになったように、JBAが誤審について公式見解をBリーグに通達しているのに、それがリーグ内で止まり、各チームと情報共有できていないのはやはりおかしい。そうした制度上の不備なら、今でも改善していけるはずだ。

 NBAでは誤審があった場合は速やかにリーグから公式発表があるし、疑惑の判定があった場合は、試合後にレフリーはメディアの取材に応じるようにもなっている。

 プロではないからといってレフリーを単に守るだけでは、この状況を改善するのは難しい。メディアも含めBリーグ、JBAが問題意識を共有し、誰もが積極的に議論できる環境を構築していくべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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