問題山積のラピダス社が船出、問われる解決姿勢
新年明けましておめでとうございます。
昨年終わりになって、ラピダス社が活動し始め、賛否両論が湧き上がっていた。大きく期待する声と、どうせダメだろう、という声だった。これらを整理してみよう。
ラピダス社は、国が周到に準備した「国策会社」である。出資企業を募り2022年8月に設立された。経済産業省が「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」のうち、「研究開発項目②先端半導体製造技術の開発」に関する実施者の公募を行い、ラピダス社を採択し、700億円を補助金としてだすことを決めた。決めたのが発表する少し前の11月である。
同時に2nm相当のプロセス技術を開発する研究開発会社LSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)も設立した。ここに大学と国立の研究所も参加する形をとっている。2nm相当のプロセス技術を開発してから量産に持っていくため、研究開発会社も必要としたためだ。
これまでの発表で決まったことはこれだけだ。これだけでうまくいくのかいかないのかを議論している状態である。海のものとも山のものともわからない。
ただ、これまでの国家プロジェクトとは大きな違いは四つある。一つは、民間企業の形をとっており、元財閥系総合電機の集合体であった国プロとは全く異なっている点だ。責任の所在が明確に、Rapidus株式会社にある。国プロでは責任所在があいまいで、国が主導して運営してきたため、失敗しても「成功」という評価をした。このため失敗の分析を行わなかったため、失敗を教訓として生かせなかった。
2番目の理由は、かつての国プロでは個別的に素晴らしい成果が上がった研究業績でさえ、プロジェクト終了後には参加した総合電機の経営陣はそれらの業績を全て捨てたこと。半導体産業そのものを憎んでいたからだ。彼らがよく言っていた言葉は「当社は半導体が悪いから、全社の業績が悪い」だった。半導体部門を捨ててみて初めて、本体の公共部門が悪かったから会社全体が悪かったことに気づいた。全て後手後手だ。その後、総合電機がリストラをやって利益は出るようになったものの、売り上げは全く伸びていない、すなわち成長していないことは周知の事実だ。ラピダス社は総合電機とは独立した団体。
3番目は、オールジャパン体制をやめたことである。海外企業との提携もありということで、さっそくベルギーの世界的な半導体研究開発会社imec、そして2nm相当のデバイスを使いトランジスタを試作したIBMと立て続けに共同開発のための提携をした。半導体のサプライチェーン(研究開発から設計、製造まで)は1国だけでは構築できない。無理にオールジャパンをやっても現実的ではない。かつてimecは、日本の国プロであったEIDEC(日本でEUVのマスク技術を開発する企業)や産業技術総合研究所とも提携しようと模索していたが破断してきた。
4番目はラピダス社が半導体専門のファウンドリ企業であるということだ。これまでの日本の半導体産業は、総合電機の一部門にすぎず、自分で経営判断できなかった。国プロでは、旧財閥系の総合電機の経営者が経産省との窓口になっていた。公共事業部門のトップが経営陣につくという総合電機には、ITと半導体の役員はとても少なく、資金も人材(人事)も公共部門の役員に支配されていた。世界の半導体会社は韓国のSamsung以外は全て半導体専門企業である。かつての日本の半導体企業では、素早い判断、Agile(素早い対応)、resilience(素早い復帰対応)などという言葉とは無縁であった。
これまでの国プロや大手半導体企業とは違うだけで期待はできないが、誕生したこと自体、これまでの企業とはビジネスへの姿勢が全く違う。かつての日本は、投資すべき時に海外のライバル企業が投資しても、投資しなかった。EUV技術に対しては、ニコンやキヤノンは光源の出力が小さすぎてとても実用化できるかどうかわからない早い時期に、大きな投資はできないと考え早期に白旗を上げた。もし光源の出力が上がりEUVがうまくいくことがわかれば後で参入すると言っていた。
オランダのASMLは、光源の出力がまだ小さい時期にリソグラフィシステムの全体設計を最初から始めていた。光源の出力が使えるレベルに上がってくれば、それを使えばよいと考えていた。エキシマレーザーリソグラフィで生産性の高いツインスキャン技術を開発していたASMLは、ArF/KrFレーザーリソで日銭を稼ぎながら、EUV開発に邁進してきた。それでも開発費が足りなくなると、EUVリソの潜在ユーザーであるIntelやSamsung、TSMCから開発費を分担してもらった。優先的に装置を提供する条件を出していた。
ラピダスはこれまでの日本的な企業とは違う姿勢を打ち出している。海外との提携や人材、ダイバーシティへの姿勢など、これまでとは違う。だからと言ってラピダスが成功するための課題は多い。
・2nm相当プロセス量産まで(2025~27年)の日銭を何で稼ぐのか?
・2nm相当のプロセスの実際の最小寸法は11~12nmになるだろうが、エリアスケーリング技術(DTCO)を自社開発するための設計の道筋は出ていない
・資金調達を国頼みだけでは難しく、世界から調達できるか?
・海外の人材も含め半導体人材の育成の具体的な道筋がまだない
・2nm相当のプロセス工場の設立から運営までに数千億円の調達をどうするのか?
・2nm相当のプロセスで何を作るのか、ユーザー開拓の人材採用はどうするのか?
・ダイバーシティを考えた人材の採用をどうする?
・半導体をけん引するITの最新情報が豊富なシリコンバレーとのつながり形成をどうする?
・ラピダス誕生で怒るTSMCとの関係修復を経産省はどう図っていくのか?
・出資企業の本気度は高いのか?お付き合いといっているところもある
こういった山積みの課題が多いからと言って失敗するとは限らない。問題を一つ一つ解決していく姿勢があれば成功につながる。ただ、全社が問題解決に挑む姿勢を束ねることができるのか、「無理だ」という声をどう説得するのか、マネージャートップにいる経営者の手腕が問われる。