理系女子を増やすため小学校から女性エンジニアの仕事を教えるアイルランド
イギリスの西側にある島国のアイルランド。半導体が成長産業であることを理解した政府が積極的に半導体関係の企業を誘致している。12月11~13日、東京ビッグサイトで開催されたセミコン・ジャパンにも日本企業誘致のため政府関係者が来日した。アイルランドの魅力は、人材の若さと人口増加傾向、そして理系女子や外国エンジニアを含めた多様化だ。
半導体産業では、古くからADI(アナログ・デバイセズ社)とインテルの工場がある。しかも設備投資を積極的に行い、常に最先端の製造設備で運営している。さらに、ザイリンクスのデザインセンターが1994年に設立され、現在はXilixを買収したAMDが開発に力を入れている。2023年6月に1億3500万ドルを4年間に渡って投資することを決めた。通信半導体からコンピューティングとAIにも広げるクアルコムも2023年にR&Dセンターの拡張とITオペレーションオフィスを開設し、4年間で1億2700万ドルを投資すると発表した。
半導体やITは成長産業であることに間違いなく、将来に向けてさらに成長させるため人材の成長戦略にも着手している。現在でもアイルランドは人口が8年前の500万人から現在は530万人に増えている。しかも20240年までは伸び続けると見ている。さらに人口構成も魅力的で、35歳以下の若い人が人口の50%を占める。現状では人口の19%が国外からの人たちで、アイルランドの教育システムは大学まで無料である。このため大学まで進学した人たちは25~34歳の若者の62.3%に達する。EU平均は42%だからずば抜けている。
理系女子を育成
労働力の高さは国外からの人材だけではない。理系女子の取り込みにも力を入れている。企業誘致の先頭に立つアイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)企業技術部門のシニアVP(バイスプレジデント)であるAnne-Marie Tierney Le-Roux(アンマリー・ティアニー・レルー)氏(図)によると、多様性を重視して女性のSTEM教育にも力を入れているという。
特に、女性エンジニアを増やすため、小学校で5歳から13歳までの女子を対象に、どのような女性エンジニアの仕事があるのかを小学校が企業とタイアップして教えているという。小学校の段階で、女性ができる仕事を子供たちに理解させておけば、やがて高校や大学の時に女性が自分の意志でエンジニアの道を選ぶ人が出てくるようになる。女性の仕事が教師や看護師など狭い分野しか知らなければ、エンジニアや研究者の道を選ぶことは極めて少ない。化学や物理だけでなく、電子技術、機械工学、通信技術、マイクロエレクトロニクスなどの女性エンジニアの話を聞いて知っておけば視野が広がり、結果的に理系女子が増えることになる。
アイルランドではSTEM(科学・技術・工学・数学)だけではなく経営層でも女性の多い国であり、特にシニアレベルでも女性が多いという。
アンマリーさんによると「現在は有能な人材は足りているが、将来は必ず不足する。このためアイルランドにも拠点があるQualcomm社は、500名の社員を抱え、アイルランドの大学と協力してQualcomm Lab(クアルコム研究室)を設置、講座を通じて人材を育成している。大学に寄付してくれるスポンサー企業も多い」と言う。
アイルランドはEUの一員
アイルランドのもう一つの魅力は、EU(欧州連合)内にいることだ。このためEU域内からも自由に行き来できる。アイルランドは外国から働きに来る人材を支援する。IDA Irelandは半導体産業の重要性を深く認識しているため特に半導体に目覚めた日本企業を呼びたい、とアンマリーさんは言う。アイルランドにはマイクロエレクトロニクスの研究所としてTyndall InstituteやMIDASなどがある。Tyndallには600名のスタッフを抱え、半導体やフォトニクス、材料などを研究しており、パイロットラインも備えているという。Tyndall研究所はドイツのFraunhofer研究所やフランスのCEA-Letiともコラボレーションしているという。
IDA Irelandは国外から投資を呼び込むためのインセンティブを用意している。人材や土地、インフラ(電力、ガス、水など)などを一つのパッケージにして呼び込むわけだが、土地はIDAがすでに取得し、それを提供する。通常の法人税は15%だが、税制優遇策(Tax Credit)も用意しているという。
今後、EUのコンピ―テンスセンターを設立する計画で、コンソーシアムを作りTyndall研究所もその中心メンバーとなって動いている。このEUコンピーテンスセンターはEUのCHIPS法案から資金提供が期待できるという点も魅力的だ。