エヌビディアCEO、ジェンスン・フアン氏が見る日本の姿
今、世界の全企業で、企業の価値を示す時価総額が最も高い企業はどこか。もはやグーグルやアマゾン、アップル、メタ(フェイスブック)、マイクロソフトを示すGAFAMではない。ファブレス半導体企業のエヌビディア(Nvidia)である。2024年の6月にも一時的にトップに立ったが、その後株価を少し下げ、3位にしばらくいた。その時にエヌビディアは一瞬の幻想なのか、という評価があった。しかし、AIと半導体という二つの成長産業を持つエヌビディアは、再び首位に立った。実際、時価総額トップ100社のうち、半導体企業は製造装置も含め、8社も入っているが、日本企業はわずかトヨタ自動車のみである。
そのエヌビディアが11月中旬、Nvidia AI Summit 2024を東京・芝公園のプリンスパークタワー東京で開催した。Nvidia AI Summitは、米国を皮切りにインド、そして東京とやってきた。今年のテーマは、日本であった。日本が強い分野にAIを導入することによって、AIの産業をもっともっと強くしよう、というメッセージをNvidiaのCEOであるジェンスン・フアン氏(図1)が述べている。
筆者はNvidiaのイベントをこれまで常に注目してきた。AI(人工知能)に大きく舵を切った2016年だったと思うが、Nvidiaはこれまでのゲーム機用のグラフィック・プロセッサ(GPU)からAI宣言をした。TensorFlowやPythonなどAIライブラリを使ってみたり、日本のAI企業であるプリファード・ネットワークス社とコラボしたりするなど、AI一色の企業に変身していた。
あれから10年近くになりAIが定着、その間、生成AIも登場した。ただ、AIソフトウエアで後進国の日本が今後逆転するためには、どうすればよいか。幸い、AIは始まったばかりだ。しかも日本は製造業、特に自動車やロボットなどメカトロニクスが強い。ここに導入することが外国企業にとってマネしにくい分野となる。
もう一つ、AIは用途ごとにカスタマイズしなければならない、究極の専用特化技術である。これも日本の得意なところだ。フアン氏はここに目を付け、日本が得意な分野にAIを活用することによって、生産性向上、再発見、予測、業務改善など様々なポジティブな成果を期待する。ソフトバンクグループCEOの孫正義氏は、Nvidiaと協力してAIグリッドを作ろうと提案した。ソフトバンクの持つ5G基地局のグリッドを使って、いつでもどこでもAIが使えるようにAIコンピュータを配備しようというものだ。
筆者はフアン氏が来日したので、先月発行した「エヌビディア~半導体の覇者が作り出す2040年の世界」の本をプレゼントしようと、記者会見後にフアン氏に接触した。彼は、「本なら自分で入手するから要らない、それよりサインしてあげるよ」と気軽に言い、重版した本にサインをいただいた(図2)。気を遣うとてもマメな方だと感じた。
エヌビディアに関する書籍は、実はこれが初めてであり、本場の米国ではまだ出版されていない(12月にようやく最初の本が出るようだ)。最近お会いした台湾のエンジニアたちもこの本に興味を示してくれた。韓国からも翻訳版の依頼がきているようだ。
エヌビディアの企業風土はユニークだ。社員が3万人以上になった今も組織はフラットで社長室はない。社員との壁を作りたくないからだ。各国、各地域にオフィスがあるが、世界中でフラットな組織を標榜する。中間管理職のいないフラットな構造にしたのは、フアン氏自身が複数の企業を経験してきた結果からだろう。企業内の派閥や内部争いがあると企業の力が削がれ、業務効率が悪くなる。しかも情報が正しく伝わらない。「ピラミッド構造にすると。1段上がるごとに情報は欠落する。トップに来るときには情報は半分以下だ」とフアン氏は語っている。
世界各地のオフィスではそれぞれがチームを組むが、レポート・ツー・CEOである。フアン氏は言う「このチームに上司(ボス)はいない。いるとすれば、プロジェクトが上司なんだ」。このため個人の責任は問われない。それだけではない。個人に裁量も与えられる。個人のやる気を最大限に引き出せる仕組みである。もちろん残業は多いが、「やらされ仕事」ではなく、「やる仕事」だからこそ、気のすむまで仕事ができる。
「エヌビディアの本」は、手前味噌かもしれないが、日本の経営層にぜひ読んでいただきたい本である。