真似ない、こびない、我慢しない 新生「ボディコン」がトレンド席巻する背景とは?
「真似ない、こびない、我慢しない」というスタンスのファッションが盛り上がってきました。ベースになっているのは、自分の身体を肯定的にとらえる「ボディポジティブ」のおしゃれ。いい意味で「超自己流」のスタイリングが世界の女性たちから支持を集めつつあります。他者の視線を意識した、かつての「ボディコンシャス」と異なるのは、主語が自分である点。夏に向けて、一段と盛り上がりを増しそうなボディポジティブの着こなしのポイントをつかんでいきましょう。
◆人間は全員が別々 自分らしい装いを好む意識が強まる
2000年頃の装いをリバイバルさせた「Y2K」はお腹周りの素肌見せが目立った演出の一つです。エロスを遠ざけた、健康的な露出はボディポジティブの一種と言えます。人気が高まってきた裏には、複数の理由や背景があるようです。最も大きいのは、女性が自分らしい装いを好む意識が強まったことでしょう。「着こなし」という言葉が象徴するように、型にはまった着方ではなく、おしゃれをセルフプロデュースする気持ちが強まりました。働く女性が増えて、総合的に自立的なマインドが高まったことも背景になっているようです。
ダイバーシティ(多様性)の考えが浸透したこともスタイリングの変化を呼び込みました。人間は全員が別々であり、体つきも異なるという当たり前の事実が再確認されて、誰かの真似をする必要を感じない女性が増える結果に。むしろ、自分の好みを盛り込んで、他人とは違う着こなしを楽しみたいと考える傾向が強まりました。
ただ、誰もがボディを強調するような着方を選んでいるわけではありません。そうする必要もないのです。今、起きている変化は、見せるのも隠すのも「本人の自由」という感覚が広く共有され始めているという点に特徴があります。流行や視線を気にしなくても済む「自己決定権」がファッションの世界でも定着しつつあると言えるでしょう。
著名人の個性的な着こなしも心理的な追い風になったところがあります。内外の俳優やタレントが思い思いのコーディネートをSNSで公開するようになって、彼女たちの発想の豊かさが多くの女性から共感を集めました。体型だけではなく、白髪を染めないような「エイジレス」のしなやかなライフスタイルも、年齢をぼかすような従来型の考え方に変化をもたらしたようです。
◆自らをエンパワーメントするかのような「Mugler H&M」
世界的なファッション大手「H&M」はフランス発のモードブランド「Mugler(ミュグレー)」とコラボレーションした「Mugler H&M(ミュグレー・エイチ・アンド・エム)」コレクションを発表。ウィメンズとメンズ両方のウエアとアクセサリー約100種類が用意され、H&M限定店舗と公式オンラインストアで2023年5月11日(木)から発売されます。
全体のムードとして感じられるのは「強さ」です。90年代風のパワフル感を帯びています。ボディの輪郭に沿うシルエットや、ミニ丈、シースルーなどで身体性を印象づけていますが、セクシー感よりもアクティブ感を押し出しているように映ります。かつてのボディコンシャスが異性の視線を少なからず意識していたのに比べると、自分主体の着こなしと言えるかもしれません。
女性的な曲線を際立たせながらも、凜々しさを兼ね備えています。動きやすさや着心地にも目配りが行き届いたデザイン。目を引く色使いがダイナミックなシルエットを引き立てる効果を発揮しています。
◆エレガントな曲線美とシアー感「Uniqlo and Mame Kurogouchi」
国内ブランドからもボディポジティブなアイテムが相次いで登場しています。たとえば、大ヒットが続く「Uniqlo and Mame Kurogouchi(ユニクロ アンド マメ クロゴウチ)」もそうです。下着の枠を超えた、新発想のウエア。4月28日(金)から発売された2023年春夏コレクションでは、曲線美が際立つデザインが充実。ほのかに透ける、控えめのシアー感を帯びたアイテムも提案されています。
「Uniqlo and Mame Kurogouchi」は下着と洋服の境界線を越えるインナーウェアコレクションとして誕生しました。もともと黒河内真衣子氏は身体の曲線を美しく見せるデザインが得意。身にまとうと、気持ちが高揚するようなアイテムは最初のコレクションから圧倒的な支持を集めています。最新コレクションはしなやかなボディコンシャスがさらに磨かれて、きれいな透け感を生かした着こなしに誘います。ユニクロ独自の3Dニット技術が自然なサポートを実現しています。
◆モデルがまとう新ボディコンシャスは着こなしが多様に
欧米のトップモデルたちはボディポジティブの着こなしでもアイコン的な存在となりつつあります。たとえば、プラスサイズのモデルとして有名なアシュリー・グラハム(Asley Graham)はパイオニア的な存在。ボディサイズの多様性の大切さを語り続ける彼女には「ボディアクティビスト」という呼び名もあるほど。20年に第1子を出産した際は膨らんだお腹や産後の妊娠線も自撮りで公開しました。
写真は「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)」の2023-24年秋冬コレクションのショー。ボディにぴったり沿う「セカンドスキン」風の真っ赤なドレスを着用して、ランウェイに登場しました。トップモデルならではの堂々としたウォーキングが自信や気品を漂わせています。グラマラスな肢体がドレスの魅力を引き立てて、いっそうプラウドなオーラを放っています。
トップモデルのケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)が街中ルックで披露したのは、「ボトムレス」とも呼ばれる、スカートやパンツを着けていない装い。アンダーウエア風のボトムスと、透ける黒タイツを重ねた、大胆なルックです。こういったボトムレスのタイプは過去にもランウェイでしばしば登場していましたが、そのまま街を歩いているところは、さすがのファッションリーダーです。
一見、リスクの高い着こなしにも映りますが、黒でまとめたレギンスやスキニーパンツを穿いた装いの延長線上にあるとも言えそう。トップスはTシャツとプルオーバーニットのレイヤードで、至ってベーシック。シンプルな構成でありながら、ちょっとしたひねりで、意外感たっぷりのスタイリングに様変わり。モード界から提案された新発想を素早くキャッチ。先端的アイデアを自分流にアレンジしてファッションを楽しむ姿勢も今のアグレッシブなおしゃれマインドを示すかのようです。
スーパーモデルのシンディ・クロフォードを母に持つモデルのカイア・ガーバー(Kaia Gerber)がレッドカーペットでまとったのはユニタード風のボディコンシャスなウエア。肌を隠していても、ボディラインがくっきり。顔と指しか露出しないのに、センシュアル(官能的)なたたずまいの装いです。
レッドカーペットの装いも昔とはかなり変わってきました。以前は背中や胸元が開いた、ゴージャスなドレスが主役でしたが、今ではバリエーションが多彩に。カイアのようにボディをすっかり隠すボディスーツのようなドレスも登場しています。しなやかにフィットする、アスレティック風のウエアでありながら、レッドカーペットにふさわしい優美さや気品を兼ね備えている、このような装いはこれからも増えていきそうです。
◆主体は「自分」 自分をもっと好きになるきっかけにも
ファッション業界も着る側のこのような変化を後押ししました。ワンサイズで対応できる服や、性別を問わないジェンダーレスの服、一方で体型別の新ブランドも登場。素材やディテール面でも大胆にスリットやカットアウトを入れた服や、セカンドスキンのようなボディスーツのような服、透ける「シアー素材」の服が有力ブランドから提案され、ボディそのものを「服の一部」と位置付けるようなスタイリングも加速。着こなしの自由度が上がっていきました。
ボディポジティブの流れは、主体が自分である点で、自分のことをもっと好きになるきっかけにもなりそう。これまでよりも自由な発想での着こなしに背中を押してくれます。
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「Uniqlo and Mame Kurogouchi」スペシャルサイト
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