パリ五輪金メダリスト“爆弾発言”に揺れる韓国バドミントンのその後。明かされたカネ問題と政府介入まで
嵐の前の静けさというわけか。協会への“爆弾発言”をしたパリ五輪・バドミントン女子金メダリストのアン・セヨンの動向が、韓国国内で注目を集めている。
(参考記事:「爆弾発言」アン・セヨンの帰国現場がカオスの極致!空港取材“突如打ち切り”でパニック状態に)
『スポーツソウル』スポーツ担当のキム・ドンヨン記者によると、アン・セヨンは所属チームのサムスン生命を通じて、8月の国際大会に出場しない意思を韓国バドミントン協会に伝えたという。
このため、アン・セヨンは来る8月20~25日に横浜アリーナで開催されるBWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアー日本オープンと、8月27日~9月1日に全羅南道(チョルラナムド)木浦(モクポ)市の木浦室内体育館で開催される韓国オープンを欠場することになった。
「金メダルの原動力は怒り」アン・セヨンの“爆弾発言”
両大会の“ディフェンディングチャンピオン”だった彼女が欠場を決めた理由は、右膝と左足首の負傷だ。
アン・セヨンは昨年秋の杭州アジア大会で右膝を痛めると、パリ五輪の事前キャンプで左足首を負傷した。いずれも五輪本番まで完治に至らず、テーピングを巻いてのプレーを強いられたが、女子シングルス全5試合を戦い抜いて表彰台の頂点に立った。
そして今回、8月に開催される2つの国際大会への不参加を決めた。韓国開催の大会すら出場しないアン・セヨンの決定に、キム記者は「(パリ五輪の直後で)休息したい意図もあるでしょうが、一方では協会との対立の“延長線”とも捉えられます」と見解を明かす。
アン・セヨンはパリ五輪・バドミントン女子シングルス決勝後のインタビューで、「私の負傷は想像以上に深刻だった。最初に誤診があった瞬間から、私はずっと我慢しながら試合をしてきた。私が負傷を経験する状況と瞬間に、代表に多くの失望をした。(金メダル獲得の)原動力は怒りだ」と伝えた。金メダルを獲得した直後に、韓国バドミントン協会を痛烈に批判する“爆弾発言”をしたのだ。
ただ、今月7日の帰国後はトーンを下げた。彼女は空港での取材対応で、「協会、チームと対話した後に話す。今は言葉を慎む」と発言するにとどめた。そんななか、批判を受けた協会はアン・セヨンの発言に対する反論の報道資料を出すなど、徹底的な“対立姿勢”を見せた。
世界1位なのに…海外選手との深刻な“収入格差”
アン・セヨンは“爆弾発言”の中で、「スポンサーや契約的な部分を防がず、たくさん開放してほしい。すべての選手に同じように接するならば、むしろ逆差別ではないかと思う」とも訴えた。
彼女は昨シーズン、ワールドツアー8大会での優勝とファイナル4強進出によって賞金62万8020ドル(約9300万円)を獲得した。これは男子シングルス世界1位のビクトル・アクセルセンが獲得した賞金64万5095ドル(約9500万円)に次ぐ全体2位の金額だが、“総収入”で見ると非常に低い水準にある。
というのも、韓国実業バドミントン連盟の選手契約管理規定では、高卒選手の入団初年度の年俸は5000万ウォン(約540万円)に制限され、3年目まで年間7%ずつ上昇するという仕組みとなっている。
このため、2021年1月に高校を卒業し、同年にサムスン生命に入団したアン・セヨンは“入団3年目”の昨年の年俸が6100万ウォン(約698万円)だった。上述の獲得賞金と合計し、アン・セヨンは2023年の1年間で1億円程度を受け取った形となるが、海外選手と比較するとその“収入格差”がわかる。
実際、女子シングルス世界ランキング13位のシンドゥ・プサルラ(インド)は、昨年の広告料及びスポンサー契約だけで710万ドル(約10億円)を稼いだという。世界1位で五輪金メダリストのアン・セヨンの約10倍に達する金額だ。
韓国バドミントン協会は代表選手に対し、「国家代表資格でトレーニング及び大会参加時には、協会が指定した競技服および競技用品を使用し、協会の要請時には積極的に広報に協力する」という代表運営指針を掲げている。
運営指針では、個人スポンサー契約を「位置は右側のカラー(ネック)」と定め、数も1つに指定。「バドミントン用品会社及び協会のスポンサーと同業種の個人スポンサー契約は制限される」とも明示されている。「個人スポンサー契約期間に五輪及びアジア大会など大韓体育会が主管して派遣する総合競技大会に参加する場合、大韓体育会の広報規定を遵守しなければならない」と、厳しいルールを設けているのだ。
ただ、海外では韓国バドミントン協会のような規制が設けられていない。協会側は「不人気種目の特性上、公式スポンサーからもらった現金と用品で、全代表選手とジュニア選手の支援が行われる。アン・セヨンだけではない」と説明しているが、アン・セヨンがこのような制度の改善を強く指摘したわけだ。
政府も調査実施へ
そこで、韓国政府の文化体育観光部(日本の文部科学省に相当)が調査に乗り出した。文体部は6日時点で「アン・セヨン選手のインタビューに関して経緯を把握する。五輪が終わり次第、正確な事実関係を把握し、その結果により適切な改善措置の必要性を検討する予定だ」と明らかにしていたが、12日より正式な調査に着手したのだ。
文体部は2024年時点で協会に71億2000万ウォン(約7億7000万円)もの補助金を支援するなど、手厚いサポートをバドミントン界に施している。今回の調査は、文体部が管轄する非営利法人の設立及び監督規則に伴う事務検査と、補助金管理法などに伴う補助事業遂行状況点検の法的性格を持ち、アン・セヨンがインタビューで言及した内容を重点的に調べるという。
詳細には、「国家代表選抜家庭の公正性及び訓練と大会出場支援の効率性」「協会のスポンサー契約方式が協会と選手との間でバランスが取れているか」「選手の国際大会出場制限制度の合理性」「選手の年俸体系に不合理な点がないか」などを調査するようだ。
調査をめぐり、文体部のユ・インチョン長官は「今こそスポーツ政策を新たに整え、改革する適期だ。バドミントン協会一つを語るのではなく、全体的にスポーツ政策を覗いてみる必要がある」と述べた。今や尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も報告を受け、バドミントン界の問題を認知する事態となっている。
このような状況で、今度はアン・セヨンが国際大会への不参加を発表した。キム記者は「何か、息を整えているように感じます。アン・セヨンは8日に“五輪が終わり、すべての選手が十分に祝ってもらった後に自分の考えを出す”とコメントしていますが、彼女の立場発表が近日中に行われることでしょう」と、今後の見通しを明かす。
パリ五輪が終了した後も、韓国バドミントン界の“混沌”はしばらく続くことになりそうだ。