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「パイレーツ・オブ・カリビアン6」脚本が完成。ジョニー・デップは出るのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 5作目から6年。アンバー・ハードが元夫ジョニー・デップからDVを受けていたと主張したせいでつまずいてしまった「パイレーツ・オブ・カリビアン」新作プロジェクトが、形をなしてきていることがわかった。すでに脚本も完成し、俳優のストライキが終わるのを待っているところらしい。

 HBOのドラマ「THE LAST OF US」「チェルノブイリ」、映画「スノーホワイト/氷の王国」などで知られる脚本家クレイグ・メイジンが「Los Angeles Times」に明かしたところによると、彼は「パイレーツ〜」6作目の仕事を依頼され、このシリーズのベテランであるテッド・エリオットもかかわってくれることを条件に引き受けた。ふたりが考えたストーリーは「とても奇妙」なアイデアで、ディズニーが承諾するはずはないとメイジンは思っていたのだが、意外にも彼らはそれを気に入ったのだという。それを受けてエリオットが書いた脚本は「とてもすばらしい」と、メイジンは称賛している。

 この記事の中でメイジンが「パイレーツ〜」について語っているのはこれだけながら、少なくともシリーズの方向が決まったことは、これではっきりした。ハードがDV被害者として「Washington Post」に意見記事を寄稿したせいでデップが6作目から降板させられた後、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーは、マーゴット・ロビーが主演するバージョンと彼女が出ないバージョン、ふたつの脚本を作っていると語っていた。しかし、ロビーは、彼女が「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey」の脚本家クリスティーナ・ホドソンを雇って作ったストーリーをディズニーは気に入らず、企画はボツになったと、昨年秋、「Vanity Fair」に語っている(これに対し、後にブラッカイマーは、ロビーのバージョンをボツにしたわけではなく、優先しないだけで、今後作るかもしれないと述べている)。つまりメイジンとエリオットによるストーリーはロビーが出ないほうのバージョンということになるが、果たしてそこにジャック・スパロウは出るのだろうか。

 昨年、ヴァージニア州で行われた名誉毀損裁判で、デップのマネージャーは、ハードが「Washington Post」に記事を寄稿する前、デップには6作目の話が来ており、2,250万ドルのギャラをオファーされていたと証言した。過去作でジャック・スパロウのせりふをしょっちゅう自分で書き直していたデップも、6作目では脚本にもかかわらないかと誘われてもいたと証言している。しかし、ハードによる「Washington Post」の記事が出た2日後、デップと彼の関係者は、ディズニー映画部門のプレジデント、ショーン・ベイリーがシリーズ6作目にはデップを起用しない方向だと語る記事を読み、衝撃を受けることになった。

 自分が作り上げたキャラクターを突然にして失ったことを無念に感じたデップは、その後、「3億ドルと100万のアルパカをオファーされても、もう『パイレーツ〜』には出ない」とも発言している。しかし、デップは以前からずっと「このキャラクターは一生演じていきたい」と言ってきているし、この裁判でもジャック・スパロウにさようならを言ってあげられなかったことへの悲しみを語っているので、彼自身が正しいと感じられる映画なのであれば、戻りたい気持ちはあるのではないかと思われる。

シリーズ4作目のモスクワプレミアに出席したブラッカイマー、ペネロペ・クルス、デップ
シリーズ4作目のモスクワプレミアに出席したブラッカイマー、ペネロペ・クルス、デップ写真:Shutterstock/アフロ

 昨年末、「Hollywood Reporter」から「裁判の結果が出た今、ディズニーが『パイレーツ〜』続編にデップを起用することはあるか」と聞かれたブラッカイマーは、「それは彼らに聞いてもらわないと。私が答える質問ではない」と言いつつ、「私はまた彼に出て欲しい。彼は友人で、優れた俳優。私生活がいろいろなところに入り込んでくるのは残念なことだ」と述べた。一方、アンバーの意見記事が出た直後に6作目にはデップを出さないとコメントしたベイリーは、今年6月、「New York Times」に対し、デップが出るかどうかは「今の段階ではっきり言えない」と、可能性を残す発言をしている。

勝訴で汚名が晴らされても、メジャースタジオは起用をためらう

 昨年6月、名誉毀損裁判で圧倒的な勝利を手にしたデップは、今年、出演作「Jeanne du Barry」を引っさげてカンヌ映画祭に出席した。現在は26年ぶりの監督作となる「Modi」の製作準備を行っている。また、DV容疑をかけられている時もデップを解雇しなかったディオールは、今年、男性セレブとしては破格の2,000万ドルで契約を更新した。そんなふうに着々とカムバックが進んではいるが、メジャースタジオは、まだデップを起用することをためらっている。裁判でハードが嘘をついていたことが証明されても、「女性を信じないのか」と一部の人たちからバッシングされるのを恐れているのだ。

 そんな中、デップ支持者の間では、「#NoJohnnyNoPirates」のハッシュタグがあいかわらず盛んに飛び交っている。デップ支持者のパワフルさは、デップが宣伝するディオールの香水が売り上げナンバーワンになったことや、昨年のオスカー授賞式で一度だけ導入された、ファンが投票する「Oscars Fan Favorite」に、普通のアメリカ人はほとんど存在すら知らなかった「MINAMATA―ミナマター」が3位に入ったことなどを見れば明らかだ。

 映画作りは、ビジネス。デップを起用して一部から批判されることと、これだけしっかり存在する観客層を無視して新たな方向に舵を取ること、どちらのリスクが大きく、どちらに見返りがあるのか。秤にかけた上でスタジオはどう判断したのか、その答が待たれる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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