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ジョニー・デップ、アンバー・ハードに痛快な仕返し。ディオールと27億円で契約更新

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 元妻アンバー・ハードとの名誉毀損裁判の勝訴から、ほぼ1年。汚名を返上したジョニー・デップの復帰に、大きなはずみがついた。DVの疑いをかけられていた間もデップをメンズフレグランス「ソヴァージュ」の広告塔に使い続けたディオールと、2,000万ドル(約27億円)で新たに3年間の契約を結んだのである。

 男性向けフレグランスの広告契約として、これは過去最高。しかも、金額だけではない。2012年、ディオールはロバート・パティンソンと1,200万ドルの契約を結んだが、当時、彼は、「トワイライト」シリーズで全世界の若い女性を魅了する26歳の注目俳優だった。一方、デップは来月、還暦を迎える。フレグランスのイメージパーソンを務めた男性セレブには、クリス・パイン、ジュード・ロウ、ライアン・レイノルズ、コリン・ファレル、ブラッド・ピットなどがいるが、60代はいない。ピットは現在59歳とはいえ、シャネルの香水の広告に出たのは2012年で、40代だった頃だ。

 だが、デップには確実な実績がある。だからこそディオールはこれだけの価値があると思ったのだ。

 昨年の裁判が始まる前から、デップ支持者の間ではディオールを応援するべくソヴァージュを買おうという動きが高まり、品薄になる店が出るまでになった。とりわけクリスマス前には、男性の家族や友人のためのプレゼントとしてこの香水をいくつも買ったという投稿がソーシャルメディアに出回っている。「ディオール、ありがとう」「ソヴァージュは最高の香り」と、デップを捨てないディオールへの感謝や、商品そのものへの褒め言葉も多数見られた。具体的な数字はわからないものの、この間、ソヴァージュの売り上げはかなりアップしたとの報道が出ている。

 デップが見事に勝訴し、身の潔白が証明されてまもない昨年夏、ディオールは早速、デップとの契約を更新した。金額は、「7桁台」とのこと。7桁といっても100万ドルから900万ドルまで幅があるが、男性セレブのフレグランスの広告契約の相場は1年につき200万ドルから400万ドルといわれるので、おそらくそのあたりと思われる。

 勝訴してもほかがまだ躊躇している中、すぐさまデップにまたもや手を差し伸べたディオールは、デップ支持者のさらなる愛を得て、ソヴァージュは売れ続けることに。その結果、ソヴァージュは、2022年、ディオールのフレグランス部門でトップの売り上げを誇るまでになった。今年1月の会計報告で、LVMHのCEOベルナール・アルノーは、「ジョニー・デップのイメージのおかげで、ソヴァージュは素晴らしいことを達成しました」「みなさんもあの広告をご覧になりましたよね。あれはとても効果を上げています」と述べている。

 そんな彼らがさらに高い金額をデップにオファーしたのは、驚きではない。デップにしても、これは非常に嬉しいことだろう。来週始まるカンヌ映画祭では出演作「Jeanne du Barry」が上映され、今年夏には25年ぶりに監督を務める「Modi」が撮影開始になるなど、彼のキャリアは前向きな状態にある。しかし、ハリウッドのメジャースタジオはいまだに二の足を踏んだままだ。そんな中、これは、スタジオに「自分たちもそろそろいいか」と思わせるきっかけを作るかもしれない。ハリウッドは、ビジネス。デップを使うことで大儲けした例を見せつけられたとあれば、ならわない手はない。

ディオールからオファーを受けた時、ハードはデップを侮辱した

 さらに、これがハードへのちょっとした報復になるのも、デップとしては愉快なのではないか。

 ディオールがデップを初めて起用したのは2015年だが、そんなオファーが来ているとデップが伝えると、ハードは呆れた表情で「なぜあなたなんかを使いたがるの?ディオールは品があって洗練されたブランドよ?あなたはダサいじゃない」と言ったのである。普通ならば、自分が愛する男性にこんな話が舞い込んだら、誇りに思い、一緒になって喜ぶだろう。しかし、ハードは、本人に向かって、しかもデップの姉クリスティ・デムブロウスキもいるところで、侮辱したのだ。

 裁判でこのことを証言したデムブロウスキは、ハードが頻繁にデップを「fat man(デブ男)」「old man(じじい)」などと呼んでいたとも語っている。デップもまた、ハードから「あなたはデブの年寄りになって、ひとりで死ぬのよ」と言われたと証言した。だが、ハードがバカにしたそのデブ男は、もっと歳を取った今、誰もの憧れである一流ブランドから、記録破りのオファーを受けたのだ。

 ハリウッドからブラックリストされ、スペインで暮らしているハードは、かつて自分が都合良く扱った男が再びちやほやされていることに悔しい思いをしているに違いない。彼女の悔しさは、これからも大きくなる一方だろう。デップの本格的復帰は、ついそこまで来ている。あと、もう一押しだ。その日が少しでも早く訪れるよう、デップの支持者はもっとソヴァージュを買うべく、これからもせっせとデパートを訪れ続けるのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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