J開幕。ストライカーの狂気性
フットボール史上最高のストライカーとは?
それは議論が分かれるだろうが、オランダ代表として活躍したルート・ファン・ニステルローイがその一人であることは間違いないだろう。UEFAチャンピオンズリーグでは3度にわたって得点王を受賞。オランダ、イングランド、スペインと3ヶ国で得点王を獲得した。特筆すべきはその折、チームがリーグ優勝を成し遂げている点だろう。彼が刻むゴールが戦術軸になっていた。
「攻撃の美学が優先されるオランダでは、スピッツ(ストライカー)がポテトのように大量に育つ。でも、ルートほど激しく得点を求めるスピッツはそうはいなかった。プレー向上のためには悪魔にもなれた。狂気を感じたよ」
かつてファン・ニステルローイのルーツを取材したとき、PSV時代にチームメイトだったDFエルネスト・ファーバーは話を聞かせてくれたことがある。
狂気。
それを飼い慣らしたものが、一流のストライカーなのだろう。
ストライカーの「狂気」
2017年シーズン、Jリーグがいよいよ開幕する。放映権収入の増加による者か、オフには積極的な補強の動きがあった。優勝など展望は楽しみなところだろう。
では、得点王になるのは誰だろうか?
サンフレッチェ広島の工藤壮人(26歳)は、その最有力候補だろう。
まず、広島というチームが守備面で堅さがあり、その安定感から攻撃でもサイドからのクロスや裏への一本のパスが十分に供給される。ゴールゲッターとして悪くない環境だろう。そして新加入のフェリペ・シウバは「レアンドロに似ていますね」(工藤)と、柏レイソル時代に得点を量産したときのようなパートナーも得ている。
なにより、工藤のゴール前でのスキルはJリーグでは出色だ。
工藤はポジション取りに長け、ボールの置き所が良く、相手の体制や癖を見抜く力に優れ、簡単に裏を取れる。例えばラインの駆け引きでも、近くのDFではなく、遠くのDFと巧妙に駆け引きし、ラインをかいくぐれる。あるいは、センターバック二人のギャップに入るセンスも抜群。速さ、強さ、巧さ、以上に得点を取るための準備において優っている。戦わずして勝っている、とは言い過ぎか。
そして工藤は狂気を持っている。MLSではGKと衝突し、あごを骨折。全治4ヶ月の診断を受けたが、たった1ヶ月半で復帰した。そして復帰2戦目で得点を記録。ゴールへの渇望は半端ではない。
柏時代、「工藤が得点したら負けない」という不敗伝説を作っている。リーグ、ナビスコカップ、天皇杯とJリーグではあらゆるタイトルを手にした。ナビスコ決勝ではまさに彼の得点によって頂点に立った。
「星の下に生まれている」というストライカーで、彼がゴールすることで、広島も優勝に近づくことになるだろう。
工藤に匹敵する候補としては、サガン鳥栖の豊田陽平(31歳)の名前を挙げたい。
豊田はまさに鳥栖の戦術シャフトになっている。彼自身はフォア・ザ・チームを口にし、個人が目立つのを嫌うが、そのゴールによって鳥栖のサッカーは旋回してきた。J2から昇格できたのも、その後に躍進を見せ、優勝も狙えるまで来られたのも、豊田なしでは考えられない。
チームのためにゴールという仕事を究めてきた男の言葉は、職人的だ。
「ゴールは過程の"深さ"がモノを言ってくるんです。駆け引きだったり、連係だったり。でも、これがどーんと来ただけのボールを合わせる方がいいときもある。"浅くても"ゴールになるときはなるんです。ゴールには理由はあるんですが、理屈だけでもない。簡単そうで難しいから、FWはやっていて楽しいんです。本能で動けるというのは一番いいんだけど、それだけではダメ。積み重なった"深さ"も必要で」
そう語る豊田は、深さの中にロジックを見つけようとしてきた。
「ボールが入ってきそうにないときの方が相手は油断しているんで、入ったらチャンスになります。そこは平常心ですね。シチュエーションを想定して、自分をロボット化しておいたら、考えずに動ける」
その求道心には、どこか狂気が見え隠れするが、彼はその猛々しさを操ることができる。
ゴールを多く奪ったほうが勝者。サッカーにおける真理を左右する者として、ゴールゲッターたちは使命を託されている。ネットを揺らすことは、決して簡単な仕事ではない。
しかしそれ故に、彼らの狂気がピッチにドラマを生み出すのだ。