法人税:疑似中小企業を生む外形標準課税の理 減資を図る企業、税の公平性を追求する国
都道府県が課す法人事業税に潜む疑似中小企業
COVID-19による業績悪化。その対応の一つとして、資本金を減らすことで、税制上の中小企業となり、税負担の軽減を図る。このような疑似中小企業はかつてより議論されてきた。疑似中小企業が生まれる背景には、何があるのか。企業の規模という外形によって課税される外形標準課税。資本金が1億円を超える法人は、外形標準課税の支払いが求められる。会社法第447条の定めで、株式会社は資本金の額を減少することができる。これを、一般的に減資と呼ぶ。
東京商工リサーチ(TSR)による減資企業動向調査では、昨今の傾向を報告している。令和5(2023)年3月末までの1年間で、資本金1億円超から1億円以下に減資した企業は1,235社ある。この数は、前年の959社と比べて、約3割(前年比28.7%)増えたことになる。長期スパンで見た場合、令和5年(2023)年に開催された総務省「第7回 地方法人課税に関する検討会」によれば、かつて3万社を超えていた外形標準課税対象の法人は、平成18(2006)年度から令和2(2020)年度にかけて、3分の2にまで減少していることが報告されている。その理由として、平成13(2001)年の商法改正、平成17(2005)年の会社法制定を経て、資本金制度の柔軟化、減資手続きの緩和が進んでいることが挙げられる。
平成13(2001)年には、会社分割法制が創設された。会社分割法制に基づき企業が組織の再編成を進めていくなかで、税制上の対応も求められた。商法第293条ノ3の規定に基づき、準備金の資本組入れが行われた場合には、資本に組み入れた準備金に相当する金額は資本積立金額から減算することとされた。法改正によって、利益積立金額の資本組入れが行われた場合の、みなし配当課税は廃止された。利益準備金が資本に組み入れられた場合には、利益積立金額の減少とはせずに、資本積立金額が減少することとされた。次いで、平成17(2005)年の会社法の制定では、最低資本金が撤廃され、会社の規模や減資の額の多寡にかかわらず、手続きを経ることで減資が可能となった。
減資をする企業、税負担の公平性を求める国
確かに、かつては、企業の優良を問うのに、資本金の規模が一つの指標であった。昨今は減資を行ったとしても、必ずしも、企業の信用力の低下を招くとは評価しがたい。減資には様々な理由があるであろう。COVID-19禍で財務体制の強化を目指して減資を実施した企業もあろう。経営や業務の効率化、つまり、経営責任の明確化や意思決定の迅速化を図るために、持株会社や分社化といった組織再編を図った企業もあるであろう。だが、それだけではない。資本剰余金に振り替える形式的な無償減資も事実ある。この方法であれば、株主資本への影響は生じない。
このような企業の動きには、国の行う法人税改革の影響を大きく受けてきた。資本金や出資金が一定規模の法人に課される外形標準課税。法人事業税における外形標準課税は、平成16(2004)年度に資本金1億円超の大法人を対象に導入された。報酬給与額、純支払利子及び純支払賃借料の合計額である収益配分額と単年度損益との合計額を課税標準とする付加価値割と、資本金等の額を課税標準とする資本割からなる外形標準課税が課されるようになった。平成27(2015)、28(2016)年度の税制改正では所得割の税率引下げとあわせて、外形標準課税である付加価値割と資本割が段階的に拡大してきた。
減資、企業の貸借対照表から確認できるそのパターン
論点となる減資にはいくつかパターンがある。項目振替、損失処理そして株主への払い戻しがある。これらは、企業の貸借対照表で確認できる。下記の表にあるように、項目振替とは資本金から資本剰余金への振替えをいう。損失の処理とは、その他資本剰余金からその他利益剰余金への振替えをいう。そして株主への払戻しとは、項目振替と資本剰余金の配当の合算をいう。
この対応策として、いくつかの指標の検討がなされた。例えば、資本金と資本準備金の合算、資本金と資本剰余金の合算、資本金等の額、株主資本に純資産などが提案された。項目振替型減資の対応として、資本金と資本剰余金の合計額と資本金等の額が妥当な案として挙げられた。その理由は、いくつかの点を根拠としている。例えば、項目振替型減資だ。この場合は、いずれの数値も変動しないことが確認されている。損失処理として欠損填補が行われた場合、資本金と資本剰余金の合計額は減少する。だが、資本金等は法人税法では数値の変動がないものの、地方税法では減る。株主への払戻しが行われた場合は、いずれも減少する。 資本金と資本剰余金の合計額及び地方税法上の資本金等では、項目振替型減資の場合のみ、数値が変動しない。そのため、項目振替型減資に対応するための指標として妥当としている。
この見解は、令和6(2024)年の税制改正に反映された。今年度、減資及び100%子法人等に対しての外形標準課税の適用の見直しを実施し、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人で、当該事業年度に資本金1億円以下で資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは外形標準課税の対象とした。加えて、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える特定法人の100%子法人等のうち、 資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とすることとした。最初、簡易な基準で始まった外形標準課税、繰り返し行われる制度改正。なかなか、一筋縄ではいかず、企業と国の鼬ごっこは止まない。埒が明かないこの闘争には、果たして終着点があるのだろうか。