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サクラセブンズ(女子7人制ラグビー日本代表)中村知春主将が語る、セブンズW杯で感じた課題と明るい未来

斉藤健仁スポーツライター
セブンズW杯には新しいジャージーで臨んだ(撮影:斉藤健仁)

 なかなかブレイクスルーできない現状に、「サクラセブンズ」こと女子7人制ラグビー日本代表のキャプテンの表情からは悔しさがにじみ出ていた。

 サクラセブンズは7月20~21日、アメリカ・サンフランシスコのAT&Tパークで行われたセブンズワールドカップ(W杯)を戦った。男子は1993年から行われているが、女子は2009年から始まり今大会で3回目を数えた。

 結果はリオデジャネイロ五輪と同じ10位だった。

初日

●日本 7-33 フランス (決勝トーナメント1回戦)

○日本 19-14 ブラジル(9位~16位トーナメント1回戦)

2日目

○日本 15-14 フィジー(9~16位トーナメント準決勝)

●日本 5-31 イングランド(9位~16位トーナメント決勝)

 「(前回のセブンズW杯は)世界の中でどこにいるかよくわからないで戦っていましたが、今回は私たちが世界のどこに位置するかわかった状況で戦える」と2回目のセブンズW杯に臨んだキャプテンの中村知春(30歳)は「ベスト8という目標は達成できなかったので残念な気持ちが大きい」と肩を落とした。

 しかし、過去2大会は1勝もできなかったが、今大会はブラジル代表とフィジー代表に競り勝った。大学までバスケットボール選手だったスキッパーは「歴史的勝利と言っていただくこともできましたし、しっかりと(セブンズW杯で)2勝を挙げることができた」と気丈に話した。

 F1のように世界を転戦するワールドシリーズ(WS)や今までのセブンズW杯と違い、今大会は世界の強豪16チームが一発勝負のノックアウト方式で優勝を争った。日本代表の初戦はWS総合3位のフランス代表だった。「先手必勝」をテーマに掲げたが、フィジカル、スピードで圧倒されてしまった。

 「大舞台の初戦ということで、少し舞い上がってしまった。課題としていたハイプレッシャーのディフェンスやキックを使っての自陣からの脱出の質も低かったし、しっかりと(チームとして)落とし込めていなかった。私たちのもろさ、弱さがすべて出た」(中村)

 初戦で敗れてしまい、いきなり目標だったベスト8入りを逃して9位~16位トーナメントに回った。それでも大会が続いていくのがセブンズの特徴である。同日に行われたブラジル代表戦、サクラセブンズは7-14から日体大1年の平野優芽の2トライで勝利した。

 また2日目の初戦、WSで勝てそうで勝てなかったフィジー代表に、試合終了間際、チーム一丸となってボールをつなぎ、最後は中村キャプテンが相手をかわしてインゴールに飛び込み15-14と逆転勝利を収めた。

 4月、WSの北九州大会までは、まず、ボールキャリアが仕掛けて、半身でもいいので相手のディフェンスラインの前に出る「ハーフブレイク」が特に強調されていたが、思うような結果を出すことができなかった。

 そこで5月から元カナダ代表で、「ラグビー王国」ニュージーランドでも指導歴を持つレズリー・マッケンジーコーチらが就任した効果もあって、WSでもボールをつなぐ意識がより高くなっていた。それがセブンズW杯でも形となってでてきたというわけだ。

 「最後のトライの形なのかな。なんとなく人とボールを止めないで戦う、日本の目指すべきラグビーが見えてきた」と中村は自らに語りかけるように言った。

 ※フィジー代表戦、中村キャプテンの逆転トライで勝利!

 ただ9位をかけたイングランド代表戦は、フランス代表戦よろしく、再び攻守にわたって圧倒されてしまい、WSで勝利したこともある相手に5-31で完敗した。

 「失点シーンで、もう2歩早く追いつけていれば、もう2歩読みが良ければというところがたくさんある。私たちはスピードとフィジカルで劣る分、判断ミスや一歩のスタートの遅れをなくしていかないといけない。質の部分で上げていかないといけない」(中村)

 それでも2回目のセブンズW杯を終えた中村は、日本らしさが見えてきたアタックだけでなくポジティブな面も感じている。1つはディフェンスで粘ることができるようになったところだ。

 「まだまだ世界レベルに達していないし、ベスト8とは差があるかなと思います。ですが、WSの序盤はトライ数も少なかったし、失点するシーンの要因も多かったのですが、(今大会は)ディフェンスで粘れましたし、失点の要因が削れてきて明確になってきているので進歩は感じることができます」

 もう1つは、平野を筆頭にフランス代表戦でトライを挙げた大竹風美子(日体大2年)、鈴木彩夏(流通経済大3年)、バティヴァカロロ ライチェル海遙(立正大3年)、堤ほの花(日体大3年)らサクラセブンズは12人のメンバーの大半が大学生で、出場16チームで21.8歳ともっとも平均年齢が若いチームだったことだ。「伸びシロはあると思います。この1年の成長具合を見てみると未来は明るい」(中村)

 ただ2020年東京オリンピックまで2年を切った。「焦りの方が大きい」という中村はサクラセブンズの課題をこう口にした。

 「(フランス代表戦やイングランド代表戦では)最終的に点差が開いてしまったが、戦える時間が増えたので、(前後半)14分の中で、どれだけ戦える時間をどれだけ増やせるか。また私たちがミスをすると勝てない。本当に完璧に近いプレーをしなければいけない。他のチームは速いし強いので、ブレイクされても追いつけますが、私たちはミスをなくしていかないときつい」

 サクラセブンズが東京五輪で目標に掲げるのはメダル獲得だ。課題もあらためて明確になり、明るい兆しも感じることができたセブンズW杯となった。

 しかし、サクラセブンズは2017-18シーズンのWSで最下位となり降格したため、2018-19シーズンのWSに出場できない。つまり、世界の強豪対戦する機会をなかなか得ることが難しい。

 男女7人制ラグビー日本代表総監督の岩渕健輔氏は「(サクラセブンズは)WSから落ちたのは痛手ですし、厳しい状況にありますが(女子のセブンズは世界)トップ4以外伸びていない。今回、2勝できましたし、いろんな大会に参加したり、これまでの関係性から各国の強化拠点に行ったりして強化したい」と先を見据えた。

 「まだ(目指すレベルの)3割くらい。あと1年半、2年をかけて、どれだけ高められるか」と中村が言うように、サクラセブンズがオリンピックでメダルを取るためにはまだまだ道のりは険しい。

 しかし中村は「一歩ずつしか良くならない」と、何かを一つしたからといってすぐに世界の強豪に勝てるようにならないし、強化に即効性がないこともよくわかっている。まずは8月30日から9月1日、インドネシアで行われるアジア競技大会で、ライバル・中国代表に勝利し、初優勝を目指す。

 2020年を見据えつつも、目の前のことを地道に一歩ずつ――「アニキ」と慕われている中村キャプテンは、今日も、東京五輪での栄冠を目指して体を張ったプレーで若いチームを引っ張っていく。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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