今夜、WBOミニマム級タイトルマッチのゴングは鳴るのか?
今夜、WBOミニマム級タイトルマッチが行われる筈であった。2021年12月14日に、ウィルフレド・メンデスを11ラウンド1分8秒で下した谷口将隆にとって、初防衛戦が組まれていた。
しかし、挑戦者の石澤開がウエイトオーバー。しかも2.5キロ。2時間後の再計量でも2.3キロ超過。石澤は、この2時間、まったく動かず、ガムを噛んで唾を出していた。2.5キロを唾だけで落とせないのは、ボクシング関係者なら誰もが知るところ。挑戦者は、世界タイトルを奪うことを諦めたのだ。
両者は、2019年9月21日に日本ミニマム級タイトル挑戦者決定戦で拳を交え、谷口の判定勝ちに終わっている。勝者は5回に石澤の右を浴びてダウンを喫した。
現在の戦績は、谷口が15勝(10KO)3敗、石澤が10勝(9KO)1敗。挑戦者にとって唯一の黒星が、この谷口戦だった。
谷口は万全の準備をしてきた。彼は語っていた。
「120ラウンド弱のスパーリングをこなしました。石澤は、僕を物凄く研究したと思います。僕がダウンを奪われた右クロスを当てるには、どうしたらいいか? を考えに考えているでしょう。こちらも同じです。彼の回転の速いコンビネーション、そしてパワーのある右アッパーに対する策を十二分に立てています。
どんな状況に置かれても対応します。石澤に全てを出させたうえで、僕の方が数段上であることを伝えたいですね。『届かなかった』ということを教えてやるような内容で勝ちますよ」
およそ120ラウンドのなかには、元WBOフライ級王者である木村翔とのスパーリングも含まれている。筆者もその様子を目にしたが、かなり内容のあるものだった。身長もリーチも、木村にアドバンテージがあるが、谷口は2階級上の元世界王者をうまく捌いた。
その動きにはいい意味での余裕があり、世界王座に就いた谷口は一皮剥けた感がある。
「世界王座を捥ぎ取るよりも、チャンピオンの方が自分のボクシングを貫けますね。勝ち切るために、自由なボクシングが出来ますから。相手が嫌がる戦い方をします。<新しい谷口をご覧あれ>という感じでしょうか」
「石澤はコツコツとコンパクトにパンチを当てようとするでしょう。彼の馬力に対して、僕が無理に力で迎え撃つことはありません。出すべき局面で、自分のパワーを使います。
石澤が『どうすればいいか分からない』という展開にもっていきますよ。対世界チャンピオンのしんどさを、感じることになるでしょう。僕が世界初挑戦で負けた、ビック・サルダール戦の時のように」
谷口は敗戦を糧に成長してきた男だ。石澤も、雪辱を果たしたいと口にしていたが……。
今日の17時半に石澤がミニマム級リミットプラス3キロ以内であれば、WBOタイトル戦は行われる。しかし、当然のことながら石澤が勝ったところで王座には就けない。
計量から数時間後、ジムに姿を見せた谷口は笑顔で言った。
「石澤の人間性は分かっています。わざとじゃない。ボクサーなら誰しも起こりうることです。僕が勝てば何の問題もありません。いい試合をして、勝つだけです」
果たして今夜の後楽園ホールは、いかなる興行となるのか。世界タイトルマッチとして決行できるのか。この試合に向け、しっかりと汗を流してきたチャンピオンが気の毒でならない。