子育てと仕事の両立、LGBTなど認定NPO法人フローレンスにおけるダイバーシティの先進的な取り組み
ワーキングマザー、LGBT(※)などをはじめ、近年組織には多様な人材を受け入れていくことが求められています。そのような流れのなか組織のダイバーシティ化を先進的に進める認定NPO法人フローレンス事務局長・宮崎真理子さんに、フローレンスの取り組みや今後の組織のあり方についてお話を伺いました。
LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字をとった言葉ですが、同性や両性に恋愛・性愛の感情を抱いたり、心身の性別に違和感を感じる人々など、当事者が前向きに表現した性的マイノリティの総称です(※)。
※もっと詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
子育てと仕事の両立を応援するフローレンス
明智 では、まず自己紹介をお願いします。
宮崎 コンサルティング会社での人事担当の経験、大学院でキャリアカウンセリングを専門的に学んだ経験を活かし、フローレンスにおいても人事のスペシャリストとして、社員がパフォーマンスを発揮するための組織づくりに取り組んできました。
私自身も二児の母として、子育てと仕事の両立中ですが、ここまでの道は幾度の困難を乗り越えてきました。
明智 フローレンスの事業内容についても簡単に教えてください。
宮崎 子どもが熱を出すと、保育園では預かってもらえず、親は仕事を休まなければなりません。フローレンスでは病児保育を子育て家庭にとって当たり前のインフラにし、子育てと仕事の両立が可能な社会を実現していきます。
また、マンションの空き部屋などを活用し、待機児童の集中する地域に少人数制の保育園「おうち保育園」を開園することで、子育て家庭を助けます。昨年9月には杉並区内にて「障害児保育園ヘレン」を開園し、これまで働くことのできなかった障害児家庭の就労を支援しています。
明智 ありがとうございます。私自身もフローレンスのスタッフとして働いていますが、この組織には本当に多様な人々がいるな、と日々感じています。ただ、それはプラスの側面もある一方でいろいろと大変な面もあると思います。フローレンスが実際に取り組まれていることについて教えてください。
宮崎 そうですね。まず他の組織と比べて特徴的なのはやはり、子育てと仕事の両立を実践している人が多いということが挙げられます。そうするとどうしても保育園のお迎えなどがあるので、全員が全員毎日9時に出社して18時に帰る、ということが難しくなってきます。
そこでまずフローレンスが導入しているのが、時短勤務・在宅勤務・朝勤の3つです。時短勤務を採用している組織は多いと思いますが、私たちはさらに自宅で作業を行う在宅勤務を週1回奨励しています。
また、どうしても仕事が終わらなくて残業しなくてはならない、でも保育園のお迎えがあるから残業するわけにもいかない。そんなときには朝勤というものを行ってもらっています。就業時間の前に朝、家での勤務を認めています。
明智 フローレンスでは子育てをしながら働いている方が多いですからね。「子育て」という事情以外に何か特徴的な働き方を認めている方はいらっしゃいますか?
宮崎 親御さんの介護をしながら、というケースは何件かありました。
ある時、京都にいる親御さんを介護しなくてはならなくなったスタッフがいました。もちろん毎日フルで働くことはできない、でも私たちとしては一緒に働き続けたい。それで週3日は仕事ができるということだったので、特別に半日の在宅勤務というものを認めることにしました。
その働き方を始めてから2ヶ月ほどで親御さんが亡くなってそのスタッフは戻ってきました。「しっかりと見送ることができて良かった」ということを言ってもらえたので、それぞれの事情に合わせて柔軟な働き方を認めることの重要性をその時改めて感じました。
「違い」を排除するのではなく、「違い」を受け容れていく
明智 一方でそうした制度設計をするにはコストがかかることも否めないと思います。そのような中でなぜフローレンスはそうした取り組みを推進しているのでしょうか。
宮崎 大きく分けて理由は2つあります。1つは単純にその方が大きなものを生み出すことができるからです。画一的な働き方はできないけれど力がある、そういった人たちを排除してしまうのはものすごくもったいないじゃないですか。だから私たちはそういった人たちを巻き込んでいくことで、イノベーションを起こしていきたいと考えています。
もう一つは、基幹事業である病児保育事業がそうであるように、そもそも制度と制度の狭間に落ちてしまっている人を助ける、ということが私たちの組織のアイデンティティであるからです。
だから私たちは「違い」で排除をするのではなく、その「違い」を受け容れて、その上でどうすればその人が成果を出すことができるのか、というところから出発するようにしています。
小さな成功モデルを作ってそこから大きな流れを作っていく
明智 なるほど。組織のそもそもの根本みたいなところが「人材」という面にもよく表れていますね。私自身もフローレンスで働いていますが、LGBT当事者という意味では、いわゆる社会的な「マイノリティ」ということになります。
宮崎 そうですね。LGBTという観点で言うならば、私たち自身も当事者の方々がどんなことを思っていて、どんな状況にあるのか、ということが分からない、というのが正直なところです。
だからそれを知らなければいけないと思いますし、「LGBTの方と仲間になって一緒に働いてもいいじゃないか!」ということをいち早く世の中に示していきたいと思っています。
明智 さきほどの「制度と制度の狭間で苦しんでいる」というのはまさにLGBTに当てはまる部分があるな、と思います。
たとえば今回のテーマに合わせて言いますと、履歴書を書くという行為を一つ取り上げてもLGBTの方々にとっては苦痛となる場合があります。履歴書に性別を書く欄があるんですけど、「男」と「女」しか選択肢がないですよね。そういった小さなことがLGBTの社会参加を阻んでいる部分もあります。なので、フローレンスの先進的な取り組みには本当に期待していますし、先陣を切って変革していって欲しいな、と思っています。
宮崎 履歴書・・・たしかにそうですね。今まで考えてもみませんでした。履歴書の件もそうですけど、当事者の方しか気づくことができない部分ってたくさんあると思います。そういった声を積極的に吸い上げていってより良い職場を作っていきたいですね。
こうした件からも分かるように、組織において多様性を活かしていくためには、枠組みを作って「なにがあっても大丈夫!」ではなくて、問題が発生したそのときどきにベストプラクティスを考えていくことが大事になってくると思います。そこで個別モデルを作って徐々に普遍的にしていく、ということです。
そうした小さな火種がまず組織に浸透していって、やがて組織を超えて外にも普及していく。自分たちだけではなく、さまざまな人々・組織がそれを真似していくことで社会の大きな流れを形作っていくのだと思います。
なので、国の法律を変えることは難しいかもしれませんが、私たちの組織の就業規則を変えることはできるので、これからもまずは小さなところからコツコツと変えていきたいと思っています。
「多様な人材」という面でのロールモデルになりたい
明智 さまざまな人材を受け入れているフローレンスですが、そうした取り組みの成果について教えてください。
宮崎 特に子育てをしながら働きやすい職場なので、採用力が上がりました。私たちがビックリするような専門スキルを持った人、たとえばMBAだとか公認会計士だとか、そういった人たちが経理に応募してきてくれたり。いかに「子育てをしている」というだけで働くうえでデメリットとなる社会であるということの証拠だと思います。
あとは、多様な視点が入ることはサービスに磨きがかかることに繋がります。私たちは社会のニーズに合わせてサービスを変えたり、新しいサービスを作り上げたりということを日々繰り返しているわけですが、完成までのプロセスの中でさまざまな観点からのフィードバックを受けることができるので、確実により良いものを作り上げることができるようになっています。
明智 たしかに同じ考えを持った人だけでは新しいものは生まれてきませんよね。では最後になりますが、フローレンスの今後の取り組みについて教えてください。
宮崎「多様な人材がいることでこんなことができる」という人材面でのロールモデルになっていきたいです。さきほども触れたとおり、社会の大きな流れを作っていくためには、小さく成功事例を作ってそれを広げていくしかないと思っています。
私たちフローレンスがその大きな流れの中心として、他の組織に真似をされる存在になっていきたいですね。なので、明智さんも気づいたことがあったらどんどん教えてください。常にそうした窓口は開いておきますので。
明智 はい、ありがとうございます(笑)
職場において私のようなLGBT当事者でもすんなり受け容れてもらえることはとても嬉しいです。しかし、そのことだけではなくLGBT当事者もみなさんと一緒に子育てに関わることができるのが私にとってはとても重要なことでした。なぜならLGBTが子どもに関わることで、その子どももLGBTになるという偏見が社会にはあるからです。私はこれからLGBT当事者が子育て人材として有用だということについてもしっかりと社会に示していきたいと思います。
今後のフローレンスの取り組みにも大きく期待しています。また2、3年後に是非お話を伺いたいですね。今日はありがとうございました。
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認定NPO法人フローレンス
病児保育や待機児童解消、障害児保育など「子育てと仕事の両立」を阻む社会課題が解決され、親子の笑顔が溢れる社会を目指しています。事業を通じて社会課題の解決方法を生み出していきます。