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満島ひかりのふざけ方

てれびのスキマライター。テレビっ子
第73回ヴェネチア国際映画祭(2016)での満島ひかり(写真:Splash/アフロ)

現在公開中の『サンダーバード55/GoGo』でペネロープの吹き替えを行った満島ひかり。

彼女は黒柳徹子との縁が深い。ペネロープもかつては黒柳徹子が演じた役だ。

2011年の朝ドラ『おひさま』(NHK)で満島が演じた育子の老年期を黒柳が演じたのが最初の縁。これは満島が黒柳に直談判して実現したものだ。さらに2016年に放送された『トットてれび』(NHK)で満島は、黒柳徹子を演じ大きな話題となった。

たとえば『トットてれび』には、こんなシーンがあった。黒柳徹子は本番を前にした笠置シヅ子を覗き込んで言う。

「生きてらっしゃる」

これは実は満島のアドリブ。それを見た黒柳はいかにも自分が言いそうと絶賛したという。

早口なのに聞き取りやすい声、好奇心旺盛で落ち着きのない態度、思ったことは口に出さずに入られないイノセンスな存在。まさに満島ひかりは、憑依しているかのように黒柳徹子そのものだった。けれど決して単なる“モノマネ”ではないところが満島の凄さ。彼女は黒柳徹子になりきり、彼女が体験したことを追体験しているように演じた。

彼女はこのドラマ化のオファーに最初爆笑したという。なにしろ生ける伝説のような人物だ。ただの再現ドラマになってしまうんじゃないかと、2度断ったという。けれど「テレビドラマでいまできる遊びをしてみたい」「テレビがおもちゃだったころ、まだみんなが空をつかむようにテレビをやってた時代みたいに、遊ぶことがしたい」という監督の言葉に心を動かされて出演を了承し、まさに「遊ぶ」ように黒柳徹子を演じたのだ。

それは、『サンダーバード55/GoGo』でもそうだろう。

彼女はこの作品のプロモーションのため、1月7日の『徹子の部屋』(テレビ朝日)、『A-Studio+』(TBS)、翌8日の『マツコ会議』に立て続けに出演した。そこで語られる事柄は重なっている部分も少なくなかったが、それぞれ少し違う角度から語っていたので、彼女が言っていることが立体的にわかってとても興味深かった。

魂をスカスカにせずにいられる方法

マツコ・デラックスとは、実は17年来の仲だという満島ひかり。

マツコは「満島ひかりほど気骨な女はいませんよ」と評す。

『5時に夢中!』の前の番組『ゼベック・オンライン』に満島は2003年~2005年に出演。その頃、司会の徳光正行、その従兄弟のミッツ・マングローブ、その友人のマツコというつながりで知り合った。

マツコが週に1回ママをやっていた地下のバーに一度行き「あんたマズいわよ。私とそっくり」と言われたという。

マツコ: そう。マズいわと思ったから言ったのよ。話してると似てるなって思うことが多くて。これから世にどんどん出ていくときにね、あたしと似てるのはマズいなと思ってね。もうちょっと世の中とちゃんとした距離感をとって生きる人じゃないと、うまくいかないわよっていう意味でね、言ったけど。この人はそれを貫き通してもうまくいったね。

満島: いやー、ギリギリですね。

マツコ: あたしですら、結構ケンカ売って生きてるほうだけど、それでも世の中とうまくやっていこうってやるじゃない? もちろん、ひかりちゃんもやってるだろうけど、そんなもんじゃ足りないぐらい、何かが欠落している人だったのより。だから、世渡りは下手だろうなと思って。

満島: 上手になりました(笑)。

マツコ: 上手になったけど、その中でも完全に全部は売り飛ばしてないじゃない、あなたって。

満島: っていうか、まったく売り飛ばさずに、動物のまま生きてるってことを「動物でーす」ってみんなに言って回るみたいな感じで、自分を守ってきました

マツコ: おかしいものとして見てくださいよっていうのを、最初にもうアナウンスしちゃうわけね。

満島: はい。 

マツコ: なるほど。それはだから上手になったってことよね。 

満島: 自分の守り方っていうか。身を削ることはあるけど、魂をスカスカにせずにいられる方法を。

(『マツコ会議』)

「喜劇女優」への挑戦

「お互いこんなになるなんて思ってもいませんでしたよね」というマツコと満島は同時期にブレイク。それをお互い横目で見守っていたという。

出会った頃を「底辺」だったと形容するマツコに「苦労話はしたくない」という満島。自分も苦労ではなくあの頃のほうが楽しかったというマツコに満島は「今も楽しい」と笑う。

「若いときに歌って踊ってのグループ(Folder)やってて大変で、女優さんになってよかったですね、みたいな話されるのが、変な苦労話みたいになっちゃって、ネガティブなのも嫌だなって。

その時々に会った面白い人たちもいて、その時々一生懸命だったので、私は成功とか失敗とかどっちでも良くて自分のいま持ってるエネルギーが一番いいように循環するのがいいと思ってるので」

(『マツコ会議』)

そんな風に振り返り、「30~40代は失敗していい」「落ち着いちゃうのは面白くない」と思っているとまっすぐに言う満島に「クソッ」と嫉妬するマツコ。

こうした中で満島ひかりが行ったのが、ローカル番組をパロディにした長崎県南島原市のPR動画だ。

これを見たマツコは「いい仕事の選び方してる」と絶賛する。

『シリーズ江戸川乱歩短編集』(NHK)で一緒にやった監督の1人が長崎の方で、その監督から「満島さん、観光PR動画ってどうですか?」と直接電話がかかってきて一般公募で応募して決まった仕事だと経緯を説明するとマツコは驚愕していた。

この『シリーズ江戸川乱歩短編集』チームを取材していたのは『A-Studio+』だ。プロデューサーの淵邉恵美、監督の佐藤佐吉、渋江修平の3人。長崎のPR動画を手掛けたのは渋江だ。

若い頃「何の役やりたい?」と聞かれ「明智小五郎」と答えたのを実現してくれたチームだという。「ホントに迷惑をかけ合っています」と満島は笑う。

「監督たちもみんな変わったことをがんばってやってくるんですけど、それをさらに私が変わったことしてかわしていく現場でふざけあって

(『A-Studio+』)

もともとこのようなことをやろうと思ったのは黒柳徹子の言葉が頭にあったからだと語ったのは『徹子の部屋』だ。

あなたが泣いてるとテレビの前の皆さんも泣いちゃうようなパワーを持っているんだから人を笑わせるようなことしてみたら?

「喜劇の女優は日本には少ないからやってみたらどう?」

「悪いことは考えなければ起こらない」

そんな黒柳徹子の言葉から喜劇をやってみようと思ったという。

「周りはすごいびっくりしてましてたし、自分自身が開き直るとは違いますけど、どーんと人に笑われるというのをやってみて、ちょっと自分に勇気が出て。前に『トットてれび』をやったときにお話ししたときに、徹子さんが『私、やりたいことがたっくさんあるの。まだまだたくさんあってまだやりきれてない!』って言ってて、え、まだまだたくさんあるんだ!と思って。今まだ36歳くらいで落ち着かないでまだまだいっぱい冒険してみようという気持ちになってチャレンジしてみました」

(『徹子の部屋』)

ふざけた大人たち

「普通の俳優さんはできないよ。こんな仕事の仕方。MXテレビから始まる長い旅でつかんだんですよ、これは」とマツコは言う。俳優自身がやりたいと思っても「面白いけど、これはね…」などと事務所にストップされてしまうだろうと。

満島は2018年に事務所を独立しフリーに。親友とともに事務所を設立した。

『A-Studio+』では中学生の同級生たちを取材。その写真を見て「この人たちを失うと考えただけで三日三晩泣きますってくらい大好き」と語る満島。彼女とともに事務所をつくったのはそのうちの1人の女性だ。

「音楽で歌って踊ってってやってるときからずっと見てもらってるのですごく楽」

お金全部持ってかれたり、家のもの全部盗られても笑える人と会社やろうと」

(『A-Studio+』)

マネージャーも11歳の頃から一緒にやっている人で自由に言い合いアイデアを出し合う。そんな満島のチームに「想像の範疇のことをシステムに則ってやってる方がほとんどだから全員がそんなことを言い合える現場なんてなかなかない」「この人だからそれが作られてる」とマツコは評す。

そもそも満島が俳優の道に惹かれたのは、12歳の時に『モスラ2』に出演したことがきっかけだった。

「大人たちが、この人たち遊んでるのかな?と思って。遊ぶ仕事ってあるんだって。遊ぶ仕事やりたいかも、みたいな」

(『A-Studio+』)

俳優デビューが『モスラ2』で、Folder活動休止後、俳優として最初に注目されたのも『ウルトラマンマックス』(その後、映画『愛のむきだし』でブレイク)、そして現在は『サンダーバード55/GoGo』で吹き替え、と特撮系作品にも縁がある満島。『サンダーバード55/GoGo』の現場も「みんなが少しずつ本気でふざけてる感じ」(『A-Studio+』)だったと彼女は言う。

「人生で一番大事にしてることなんですか? ワクワクですか? とか聞かれても、私はやっぱ、ふざけてることが一番。この(脇腹)へんが笑ってるみたいな、どこかふざけた仕事でいたいなと思って。ふざけた大人が多いから、この仕事めざしたから。それでいいなと思ってるんですけど」

「お芝居とかって、私は準備してきたことを発表するっていうことよりも、目の前にいる人とセッションするっていうほうが楽しい。大好きなので。相手がツワモノであればあるほど楽しい

(『A-Studio+』)

真剣にふざけ遊ぶこと。それが満島ひかりの楽しみ方だ。

もちろん「型にはめられるのが一番苦手」(『マツコ会議』)というように、それは彼女の一側面にすぎないのだけれど。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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