狩猟採集の時代、ヒトが野生動物との戦いに勝てたのは「水筒」のおかげだった
ヒトはどんな動物より大量に汗をかく
今日8月1日は法律で定められた「水の日」。連日猛暑が続いてこまめな水分補給が欠かせません。つねに水筒を持ち歩いている人も多いと思いますが、この水筒が、人類の歴史において大きな役割を果たしたなんて、普段は考えることもないでしょう。
私たちの祖先は、野生動物を狩ったり果物や木の実を集めたりして生きていました。人類600万年の時間のほとんどは狩猟採集の時代です。ですがキリンやシカ、シマウマなどに比べてスピードもパワーも劣るヒトが、どのように野生動物と戦ったのでしょうか。
ジョセフ・ヘンリックは『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化―遺伝子革命〉』(白揚社)のなかで次のように記しています。
「世界中の伝統社会のハンターたちが、私たちヒトにはレイヨウ、キリン、シカ、スタインボック、シマウマ、ヌー(ウィルドビースト)などを追い詰める能力があることを証明している。3時間以上にわたってこうした追跡を続けていると、追われている獲物は熱疲労などを起こしてへばってしまう」
ヘンリックは、狩猟採集時代においても、ヒトが野生動物との戦いで暑さを味方につけて持久戦を展開したと指摘してます。では、なぜ多くの野生動物が暑さでヘトヘトになるなか、ヒトは長時間走り続けることができたのでしょうか。
ヘンリックは、「何よりすぐれていたのは、長距離走に有利な体温調整機能ではないだろうか。ヒトはどんな動物よりも大量に汗をかく」と指摘しています。
汗には体温を調節する働きがあります。気温が上がった時、運動した時、発熱などで体温が高くなった時に汗をかくわけですが、汗の水分が皮膚から蒸発する時に熱を奪っていきます(気化熱)。これによって私たちは体温を36.5度前後に保つことができるのです。
汗をかくとは皮膚の表面で打ち水をしているようなものです。地面に水をまくと水が蒸発する時に地面の熱を奪い、温度が下がって涼しく感じます。あれと同じことが私たちの体でも起きているのです。もし汗をかかないと熱は身体にこもってしまい、身体の機能は正常に働きません。
汗の原料である水をどうやって調達したか
ただしヒトは体の中に大量の水を蓄えておくことはできません。ヘンリックは「長距離走でヒトと張り合えるウマは、体内に大量の水を貯えることができる」し、「ロバは3分間に20リットルの水を飲める」が、「ヒトは10分かけても2リットルが限界」と指摘しています。つまり汗の原料がすぐに枯渇してしまうのです。
それを支えたのが「水の容器」と「水場探しのノウハウ」でした。
ヘンリックは「それぞれの環境のもとで水容器を作ったり、水場を探し当てたりするノウハウが文化進化によって生まれないかぎり、発汗による優れた体温調節システムの遺伝的進化など起こりえない」と記しています。
ダチョウの卵の殻も水筒だった
「水の容器」とはわかりやすく言えば水筒です。ヒトは水筒を携帯して水分を補給しながら、得意の持久戦で野生動物を仕留めていました。
現在の水筒の素材は、ステンレス、ガラス、プラスチックですが、昔は、竹、ヒョウタン、ヤシなどの植物由来の水筒、羊や山羊の皮を縫い合わせたり、キリン、牛、羊の胃袋を使った水筒もありました。アフリカではダチョウの卵の殻も水筒として使われていました。
現在の水筒の一般的な大きさは350〜500ミリリットルですが、暑い日に水を飲む機会が増えるとすぐ空っぽになってしまいます。そういう場合は、コンビニや自動販売機で水を買う人が多いでしょう。
ただ、現代の新しい水場として、無料で水筒に水を補給できる、給水スポットがあります。給水スポットを探すアプリもあり、たとえば、Refill Japanの「給水/リフィル スポットマップ」で、東京駅周辺を表示させたのが以下の地図です。
「公共の給水インフラ」(給水機など)は青いしずくのマーク、「協力店舗の給水サービス」は茶色のマイボトルマークで表示されています。これが現代版の「水場探しのノウハウ」といえます。
水の重要性は昔もいまも変わりません。狩猟時代も現代も、私たちは水分を補給し身体の機能を保っています。そのために水筒という水の器が大切な働きをしていることが、とても興味深いです。