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『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の遠隔操作システム「ガンビット」がすごい。パーツの加速力は895G⁉

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の第1クールが終了した。

モーレツにオモシロかった!

企業が宇宙で事業を展開する時代、その一社が運営する学園が舞台。

主人公は、水星で育った少女スレッタ。

そういう設定だったので、明るく楽しい青春ドラマかなあと見始めたのだが、そんな側面もあったものの、第1クールの終盤に来て、物語は一気に暗転した!

まさかの展開が続いたうえ、最後の最後になって、スレッタがあまりに意外な一面を見せたのだ。

えっ、ここで第1クール終了⁉ 続きは4月⁉

そんなあまりに殺生な……。

などと騒いでもどうにもならんので、本稿では第1クールでヒジョ~に興味深かった空想科学的な現象を考えてみよう。

それはもちろん「ガンビット」である。

◆驚異の遠隔操作システム

『水星の魔女』の主人公スレッタ・マーキュリーは、水星生まれ。

彼女の乗るモビルスーツは、ガンダム・エアリアルで、PROLOGUE編によれば、4歳のときに初めて搭乗し、以来ずっと乗り続けてきた。

スレッタは、エアリアルを「いっしょに育った家族」と言い切るほど大切にしている。

本編は、そんな彼女が、エアリアルを伴って、アスティカシア高等専門学園に編入するところから始まる。

この学園には、生徒のあいだに対立が発生すると「モビルスーツによる決闘」で解決する、というルールがあった。

剣やビームなどが交錯する実戦そのままの戦いで、相手の「ブレードアンテナ」を折ったほうが勝ちだ。

編入して間もなく、スレッタはジェターク社の御曹司・グエルと決闘することになる。

グエルは必要以上の自信家だったが、モビルスーツのパイロットとしての腕は一流である。

だが、決闘が始まるや、スレッタが操るエアリアルは、驚くべき能力を見せた。

機体のあちこちが赤く発色すると、装甲の一部が本体から離脱、11のパーツとなってエアリアルの周囲を飛翔!

そこに、グエルのモビルスーツがビームを放った。

すると、パーツは合体し、盾となってエアリアルを守る!

そして再びパーツに分かれると、それぞれが高速で飛び回ってビームを発射!

グエルのモビルスーツは動きを封じられ、なすすべもなく破壊され、ビームサーベルでとどめを刺されたのだった。

これこそが、ガンダム・エアリアルが装備している遠隔操作システム「ガンビット」であった。

モビルスーツの装甲の一部が本体から離れ、多数のパーツに分離して、それぞれがビーム砲で敵を攻撃する。

パーツは複数が合体して、防御用の盾になったり、ライフルになったり、モビルスーツ本体に装着されて、機能を増強したりもできる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

なぜそんなコトが可能かというと、パーメットという元素(作品内の架空の元素)が使われているから。

この元素は、一つ一つが情報を共有できるうえに、人体にも流入可能だという。

それによって人体と機械をリンクさせれば、身体機能も拡張されるため、本来は医療技術として、義手義足の円滑な利用や、身体能力の増強のために開発されたものだった。

それをモビルスーツ用の軍事システムに転用したのがガンビットだ。

ただし、巨大なモビルスーツとリンクすることは、人体への負担が大きく、生命の危険もあるため、物語の背景として、ガンダムの製造や使用は禁じられていた。

そんな時代に、水星からやってきた少女が、ガンビットを装着したガンダムで相手を粉砕したわけである。

なんとワクワクする話でしょうか!

◆パーツの加速力がすごい!

コーフンしていないで、このシステムについて考えてみよう。

各パーツにはスラスターがついており、互いを認識して自らの速度や向きを調節しながら飛行したり、合体したりするのだろう。

前述のように、劇中ではパーメット元素がこれを可能にしていたが、原理それ自体は現実的にもあり得るもので、車の自動運転などにも応用されている。

しかし『水星の魔女』のような「空中で」「高速で」となると、スラスターの性能も、情報の処理速度も、ただごとではないはずだ。

たとえば、強化人士4号との決闘では、パーツのスラスターは恐るべき威力を発揮した。

決闘の舞台は、宇宙空間。相手のモビルスーツは機動力に優れている。

一方、エアリアルは宇宙空間用のスラスターを装備しておらず、急ごしらえのフライトユニットを背負って戦いに臨むが、スピードで勝負にならない。

これに、どう対処したか?

スレッタが「お願い、みんな、力を貸して!」と言うと、ガンビットの各パーツがエアリアルと合体してスラスターを噴射して加速したのである。

速すぎてよくわからなかったが、筆者には1秒で100mくらいカッ飛んだように見えた。

この目測が正しければ、加速力は自由落下の20倍、すなわち20Gだ。

エアリアルをこんな勢いで加速させられるなら、パーツが単独で飛んでいたときは、もっとスゴかったはず。

エアリアルの重量は43.9t。仮にガンビットの重量が合計1tなら、単独で飛んだときの加速力は895Gだ。

1秒後の速度はマッハ26という凄まじい加速である。

また、このときパーツが発したビームの威力も驚異的だった。

相手のブレードアンテナを、一瞬で焼き切ったのだ!

現実の世界でも、レーザーによる金属の切断は行われていて、たとえば出力500Wの赤外線レーザー(直径1.5mm)で、厚さ6mmの鉄板を分速30mで切っていける。

しかし、エアリアルのビームはそんなに悠長ではない。一瞬で切断した!

劇中の描写から、ブレードアンテナの直径を20cm、焼き切った幅は5cmとし、0.1秒で焼き切ったと仮定しよう。

アンテナの熱への耐性は鉄と同じだった場合、ビームの出力は40万kWだ。

パーツ11個だと、合計440万kW。

大型原子炉の出力が150万kWだから、ほぼその3基分である!

これほどの威力を持つパーツが、加速力895Gで飛び回り、それと連動して戦うエアリアル!

ムチャクチャ強いのも納得だが、人体への負荷が大きすぎるというモビルスーツ開発評議会の主張もわかるような気も……。

4月から始まる第2クールでは、スレッタの戦いは、学園内の決闘から、本格的な宇宙戦闘になっていくのだろう。

恐るべきガンビットは、そのなかでどのように活かされていくのか?

まことに楽しみであると同時に、第1クール最後のシーンを思い出すと、スレッタが心配でたまりません!

どうか、あんまり悲惨な話になりませんように~。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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