Yahoo!ニュース

結婚について知っておきたい法知識 その12 夫婦間の財産関係~夫の物は夫のもの、妻の物は妻のもの?

竹内豊行政書士
夫婦の財産関係を知ることは円満な夫婦関係の継続につながります。(写真:アフロ)

結婚は共同生活です。したがって、夫婦のお互いの財産が共同で使用され、お互いの協力で財産が形成されます。そうした財産が法的にどのような関係にあるかは、結婚生活を継続するうえではもちろんのこと、婚姻が破綻したり、離婚して解消した場合や取引した第三者が介在する場合には、特に重要です。

以下、民法が定める夫婦間の財産の関係(夫婦財産制度)について見てみましょう。

民法の夫婦財産制度の枠組み

民法は夫婦の財産について、「夫婦は独立・対等な法主体だから、各自の責任で権利を得、義務を負うのが原則である。したがって、夫婦の財産関係についても、自分たちで自由に取り決めて解決すればよい」というスタンスに立っています。

そこで、民法は「夫婦財産契約」(民法755条~759条)を用意しています。

しかし、夫婦財産契約は、婚姻届出前に締結して、その旨登記しておかなければなりません(民法756条)。しかも、婚姻届出の後は原則として変更することができません(民法758条)。そのため、結婚してみて、「こうした方がよかった」と思っても、財産契約を結んだり、変更できないという制度上の欠点があります。そのため、夫婦財産契約を利用する夫婦はほとんどいません(夫婦財産契約の登記は、通常年間5件以下程度です)。

この契約を結ばなかったときに(つまり、ほとんどの夫婦に)、以下にご紹介する法定の夫婦財産制が規定されます。

法定財産制は「夫婦別産制」「婚姻費用分担義務」「日常家事債務の連帯債務」の3つが柱になっています。では、順に見てみましょう。

夫婦別産制~夫の物は夫の物、妻の物は妻の物

夫婦別産制とは、婚姻前から有する財産および婚姻中に自己の名で得た財産、たとえば、相続、贈与、自分の財産からの収益、自分で代価を払って購入した財産、自分で働いて得た賃金などは、その人の特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)としてその人に帰属する制度です。

また一方が他方の財産を管理する規定がないので、各自が自己の財産を管理することを前提とします。

この制度では、夫が稼いだものは夫のもの、妻の稼いだものは妻のものとなります。夫婦の財産の帰属は民法762条に規定されています。

民法762条(夫婦における財産の帰属)

1夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2夫婦のいずれかに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

婚姻費用分担義務~それぞれが各自の収入に合わせて生活費を支出する

夫婦には同居協力義務があります(民法752条)。この義務に対応して、婚姻共同生活から生じる費用は、夫婦各自がその資産・収入その他一切の事情を考慮して分担します(民760)。その費用は、家事労働という現物出資の形でもよいです。したがって、夫は生活費を担い妻は家事をするという役割分業も、婚姻費用分担の一つの方法になります。

民法760条(婚姻費用の分担)

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

日常家事債務の連帯責任~日常家庭生活の債務は夫婦共同の責任

民法は、夫婦平等の原則の下では、「日常の家事」は夫婦共同の仕事だから、それに伴う債務も共同の債務とすべきである。また、法律行為の相手方も、日常家事に関する取引については、夫か妻ではなく夫婦双方を相手と考えるのが普通である。したがって、第三者保護のために、日常の家事は夫婦の共同責任(連帯債務)とするとしました。

ここにいう「日常の家事」とは、夫婦の共同生活に通常必要とされる一切の事項をいいます。たとえば、子の養育・教育や家族の食料・衣類等の買入れ、光熱費の支出、保険の加入、家具・調度品の購入などが含まれます。ただし、その具体的な内容・範囲・程度は、それぞれの夫婦の社会的地位や職業、資産、収入等によって、また、その夫婦が生活する地域の習慣によっても異なると解されています。

民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

以上のとおり、民法は、夫婦の財産の帰属について、夫・妻それぞれ自分の財産は自分に帰属し、自分で管理する夫婦別産制をとり(夫婦別産制)、各自が自己の収入から生活費を支出し(婚姻費用分担義務)、家庭生活に必要な債務をお互いの連帯債務としています(日常家事の連帯債務)。

夫婦生活を円満に続けるためには、お互いを思いやる愛情はもちろん大切です。しかし、愛情だけでは継続しがたいのも事実です。今日ご紹介した民法が定める夫婦財産制を夫婦がお互いに理解することが、結婚生活を円満に継続する一つのポイントになると思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事