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公明党が獲得する東京での第2の小選挙区は“次の次”の“その次”か 合意文書に見る「修復できない亀裂」

安積明子政治ジャーナリスト
問題はまだ残るが、来年9月に代表退任?(写真:つのだよしお/アフロ)

ひとまず「手打ち」

 自民党と公明党は9月4日、「今後の衆議院議員総選挙における与党選挙協力に関する合意」を交した。内容は、①東京29区で自民党は公明党の岡本三成衆議院議員を推薦すること、②その他の小選挙区において、“個々の事情も踏まえつつ”、自民党候補への推薦の調整を進めること、③次々回の衆議院選挙での東京小選挙区において、公明党の2議席目の確保に努めること、の3点だ。

 これで今年5月に東京28区を巡って生じた両党の決裂は、一応修復されたように見える。だがその合意内容には問題を含んでいるのだ。

 まずは②の「東京29区以外の小選挙区での選挙協力」についてだが、“個々の事情を踏まえつつ”と、「全面的な協力ではない」ことを示唆している。これは筆者が夕刊フジ(8月30日号)のリレーコラム「ニュース裏表」で引用した「実際には〝絶縁状態〟から〝毛が生えた程度〟の回復になるだろう」といった“ある公明党関係者”の話と一致する。いったん白紙になった状態からの現状回復は、感情的に難しいからだ。加えて支持層の高齢化など、公明党の力の減退も考慮しなければならない。それでも以前の勢力を維持しようという公明党は、自民党候補への応援にはさらなる“代償”を求めてくるはずだ。

 その一例が③の「次々回の衆議院選での2議席目の確保」だろう。では公明党はどこの選挙区を狙うのか。次回の衆議院選で獲りそこなった東京新28区なのか。それとも他の選挙区なのか……。

本命は“次の次”の“その次”か?

 しかしすでに自民党の候補を立てている選挙区に、たとえ与党とはいえ、公明党がそう簡単に進出できるはずがない。それでも公明党が「次の次」に期待を寄せて見せるのは、東京での選挙区の増加が見込まれる「その次」の衆議院選ではないだろうか。

 2016年に成立した衆院選挙改革関連法では、10年毎の大規模国勢調査によって都道府県ごとの小選挙区数を見直す「アダムズ方式」を導入。これにより2020年の国勢調査に基づいて、5つのブロックでの定数調整と小選挙区の「10増10減」が決定され、2022年12月以降の衆議院選から実施されることになった。しかし「次の次」の衆議院選では、2025年の国勢調査によって区画調整が行われる可能性があるものの、都道府県内での選挙区数には変化はない。

 ここで鍵となるのが、9月1日の会見で、同党の石井啓一幹事長が「(東京での)全員当選は極めて至難なことだ」と発言したことだ。

 実際、2021年の衆議院選では、自民党は25ある東京都内の選挙区で、3区、5区、6区、7区、8区、9区、18区、19区の8選挙区を落としている。そして7区、8区、9区、16区では、復活当選すらできなかった。

 このうち公明党が狙った新28区は、「10増10減」によって9区から分かれた選挙区で、公明党の勢力が強いと言われていた。しかし今年4月に新28区にその一部が含まれる練馬区議選が行われ、公明党が従前通りに11名を擁立して完勝を狙っていたのに、4名が敗退。しかも当落線上に7名が並び、最下位当選した候補と最少得票数の候補の差がわずか69票で、ある公明党関係者は「全体的に選挙の力が落ちてきていることは確かだが、明らかな戦略ミス」と嘆いた。

 この敗退が公明党をして最終的に新28区を諦めさせた原因となったのは明らかだが、それでも「次の次」を狙う公明党にとっては、旨味のある選挙区に違いない。というのも、自民党が擁立する安藤高夫候補が落選した場合、“奪還”できる可能性は十分あるからだ。

 新28区には東京都の小池百合子知事の住居があり、いわば小池氏の“ホーム”だ。そして来年7月に予定される東京都知事選で3選を狙う小池知事は、すでに公明党から支持を得ることを約束したと見られている。

小池知事とは「盟友」関係
小池知事とは「盟友」関係写真:長田洋平/アフロスポーツ

 さらに上記の公明党関係者は、“練馬区のリベンジ”を口にする。その上で「“次の次の衆議院選”となると、2027年の統一地方選の後に行われる可能性が高い。その時に練馬区議選で公明党が議席を回復できるかどうかにかかっている」と力説した。

 それでも新28区を必ず公明党が得られる保証はない。その場合に望みをつなぐのは、2030年の国勢調査に基づいて新設される選挙区だという。都市部への人口の集中と地方の過疎化がますます進むため、東京などの小選挙区の数が増やされる可能性があるからだ。もっともそうした場合も、新29区で岡本氏が荒川区の自民党勢力から拒否されたような事態が生じる可能性もある。だが支持母体の高齢化などによる党勢の減退を防ぐためには、小選挙区での独自候補擁立は欠かせない。

 5月の「東京都での自公の亀裂」の原因のひとつに、公明党内で自民党との選挙協力の不平等に対する鬱屈感がまん延していることが挙げられる。なぜ小選挙区が25から30に増えたのに、自分たちの選挙区は1のままなのかー。

国民との連立論と国交大臣ポスト

 自民党の一部で国民民主党との連携の声が上がるのは、こうした公明党を牽制する意味もある。だからこそ早期の関係修復が図られたのだが、根本的な問題は残したまま。9月4日に両党で交わされた“合意文”を見ても、「努力目標」しか書かれていない。自公の間には国交大臣のポストを巡る争いも報じられ、20年以上続いてきた自公関係は、綻びを見せつつあるのかもしれない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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