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<朝ドラ「エール」と史実>劇中では「おめでたい男だよ」と批判されたが…古関裕而と実在の弟の関係は?

辻田真佐憲評論家・近現代史研究者
(写真:アフロ)

「おめでたい男だよ。兄さんさ、自分がどれだけ恵まれてっか分がってんの?」弟の浩二に批判される裕一。弟との確執は、朝ドラ「エール」で何度も描かれる主要なエピソードのひとつです。

モデルとなった古関裕而にも、弘之(ひろし)という弟がいました。では、このふたりのあいだにも確執があったのでしょうか。

弟・弘之は図案家でクリエイター

資料を見るかぎり、兄弟間でそのような問題はなかったようです。物語を盛り上げるために、ここは完全に創作したのではないかと思われます。

その傍証もあります。古関家の資料によれば、弘之は「図案家」になったようです。つまり、兄弟そろってクリエイターだったわけで、「兄だけ勝手にやって」という不満も生じにくかったのではないでしょうか。

また実家の呉服店も、第一次世界大戦後の不況期に閉店しています。その後、場所を移してささやかな商店をやっていましたが、それもまもなく閉店。ですから、跡継ぎ問題も深刻ではなかったはずです。ここでも、兄弟が対立する理由は見当たらないわけです。

たしかに、古関は弟についてほとんど語っていません。ただ、その内容は、けっして否定的なものではありませんでした。たとえば古関は、太平洋戦争の末期、福島にあった弟の家にこどもたちを避難させたといいます。

かねて準備し、私の帰宅を待っていたので、すぐ子供たちを福島市の実弟の家に疎開させた。子供のない弟嫁に托し、妻は東京に残った。私は放送などの仕事で忙しかった。

出典:『鐘よ鳴り響け』

もしこのエピソードがドラマでも採用されるならば、戦時下に、弟がまた出てくるはずです。その答え合わせは、本放送の再開後にやることにしましょう。

評論家・近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『「戦前」の正体』(講談社現代新書)、『古関裕而の昭和史』(文春新書)、『大本営発表』『日本の軍歌』(幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)などがある。

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