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マスターズ開幕前。T・ウッズ会見の変化に見る確実な時代の変化 #ゴルフ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

マスターズ開幕前の4月9日(火曜日)、タイガー・ウッズが会見に臨んだ。

マスターズ5勝を含めメジャー通算15勝の王者ウッズと世界のメディアとのやり取りには、時代が変わりつつあることを如実に物語る一幕があった。

【勝利を目指すウッズは不変】

スタンフォード大学のアマチュアゴルファーとして、ウッズがマスターズに初出場したのは1995年大会だった。翌年の夏、プロ転向を宣言したウッズは、プロとして初めて挑んだ1997年マスターズで2位に12打差を付けて圧勝。あの勝利が、ウッズ時代の幕開けとなった。

「僕の家族と僕自身にとって、マスターズが意味するものは、とても大きい。あの(1997年の)マスターズで初優勝して、父とハグをして喜んだ。そして2019年に優勝したときは、僕は息子とハグをして喜んだ。(歴史が)一周したんだ」

「一周」という言葉には、「区切り」のようなものを感じさせられる。ぐるりと回って元の位置に戻ったという感もあり、心機一転、新たな回転を始めるという意思表示のようにも感じられる。

4度目の腰の手術後、長いリハビリ期間を経て戦線復帰し、2019年マスターズを制した奇跡の優勝は世界を感動させた。

しかし、2021年2月の交通事故で右足に重傷を負い、そこから再び戦線復帰できたことは、またしても奇跡のカムバックだったが、勝者となって輝くところまで戻ってこられたとは言えない状態にある。

昨年末には「2024年は1か月に1試合のペースで出場する」と意欲的に語った。だが、蓋を開けてみれば、今年の出場は2月のジェネシス招待のみ。それさえも2日目途上で棄権。今年は、ただの一度も4日間72ホールを戦い通すことができないまま、マスターズを迎えている。

右足は「治った。痛みはない」。ジェネシス招待を途中棄権した理由は、当初は「インフルエンザ」、後に「腰痛」とされた。

3月に出場を予定していたプレーヤーズ選手権もフロリダシリーズの他の大会も、すべて欠場したワケは「心身もゴルフも、戦う準備ができていなかったからだ」とウッズは言った。

ウッズのこの言葉を言い換えると、「勝つために試合に出るという姿勢は今も変わっていない。しかし、勝てると思えるための準備ができていなかったから試合には出なかった」ということになる。

試合に臨む際のウッズの考え方や姿勢は、昔も今も変わってはいないのだ。

【現実は厳しい】

ウッズは4月上旬に1度、オーガスタ・ナショナルを訪れ、ジャスティン・トーマスやフレッド・リドレー会長らと練習ラウンドを行なった。

だが、このマスターズ・ウィークに入ってからは、日曜日にクラブを3本だけ持ち、フロントナインだけを回り、月曜日にはウィル・ザラトリスらとバックナインだけをラウンドし、火曜日はトーマスやフレッド・カプルスとフロントナインのみをプレーした。

1日に18ホールを回らないのは、エネルギーをセーブし、疲労を避けるためだろう。そうしたところに、ウッズのギリギリ感が感じ取れる。

ウッズがマスターズの練習日にカプルスと一緒にラウンドするケースはこれまでも何度もあり、カプルスはさまざまな節目でウッズのマスターズの準備を目にしてきた。そのカプルスいわく、「9ホールはあくまでも9ホールにすぎないけど、その中ではタイガーのミスヒットは1つもなかった。タイガーが予選通過できるかどうか?そんな話は笑っちゃうよ。タイガーは勝つためにここにいるんだからね」

今大会では解説者としてオーガスタ入りしている元全米オープン覇者のジェフ・オギルビーは「タイガーはタイガーだ。常人とは違う。でも、長い間、試合で戦っていないことを考えると、2日、3日、4日と持ちこたえられるかどうか」。

どちらもウッズにリスペクトを払いつつも、ウッズにとって厳しい戦いになることを予想していることが伝わってくる。

【驚きのやり取り】

マスターズ開幕前のウッズの会見で、初日の1番ティで行なわれる始球式の話題になった。

「木曜日の朝、オナラリー・スターターを務めることを考えたことはありますか?」

ウッズが「ノー、ノー」と2度繰り返すと、質問者は「そんなに遠い話ではないのでは?」と続けた。

するとウッズは「ノー。ここでスターターを務めることは考えたことがない」と否定。

「まだやれると思う。オナラリー・スターターを務める日が、いつ来るのかはわからない。いつかは来ると思うけど、今はまだやれると思う。もうやれないと感じるところまでは、僕はまだ来てはいないと思うんだ」

ウッズがそんな心境を言葉にしたことは驚きだった。そして、マスターズ開幕前のウッズに、そんな質問が投げかけられたことは、それ以上に大きな驚きだった。

眩しく輝いていたころのウッズに対して、引退はもちろんのこと、オナラリー・スターターという名誉職の話が持ち出されたことは決してなかった。たとえ膝や腰の手術後であっても、そんな話題を持ち出したらウッズが激怒するだろうと思われて、そんなことを尋ねるメディアは誰一人として、いなかった。

時代は確実に、変わりつつある――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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