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生活と産業を支えるライフラインと社会インフラ、その地震対策は万全?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

ライフライン・インフラに頼る現代社会

普段は有って当たり前だと思って使っているライフラインやインフラですが、大規模地震では、これらが大きな被害を受けることが予想され、命の問題や社会の破綻に直結してしまいます。通信は既に自由化され、電力やガスの自由化が目前に迫っています。経済性と安全性は背反しがちなものです。上下水道の老朽化は深刻です。また、橋梁などの社会インフラの老朽化が叫ばれるものの、膨大な債務の中、補修が滞り維持すら困難になりつつあります。日本社会が縮小する中、無くてはならないライフラインやインフラについて考えてみたいと思います。

社会の生命線・ライフライン

かつての日本社会は、灯明、かまど、井戸やわき水、くみ取り便所、での生活で、それぞれの家の自律性の高い社会でした。しかし、現代の家には、様々な電化製品が溢れ、電気やガス、上下水道が途絶したら、命を守ることすらできなくなります。また、インターネットや種々のオンラインシステムに頼る経済も破綻するでしょう。製造業も工業用水や燃料の供給が途絶すると生産停止となってしまいます。

インフラに頼る社会

かつての日本では、全国に人口が分散し、地産地消で自律性の高い社会を形成していました。また、自然に対する抵抗力が弱かったため、災害危険度の低い場所を利用していました。しかし、産業構造の変化と共に、都市に人口を集中させ、社会の効率化を進めてきました。道路や鉄道などの高速・大量の交通網がこれを支えました。さらに、堤防やダムなどの建設技術を得て、災害危険度の高いところも利用可能となり、土地利用の自由度が広がりました。しかし、道路・鉄道・橋梁・堤防・ダムなどに頼った社会になりました。

無くてはならない水、電気と燃料

生きるために何より必要となるのは水です。そして、電気と燃料です。水には水道水、工業用水、農業用水があります。これらがなければ、生きること、工業製品を作ること、農作物を作ることができなくなります。電気が無ければ、電化製品が使えず、ガス、水道、通信なども途絶します。燃料が無ければ、車両や機械は動かず、非常用の電気も供給できません。

水力から火力そして原子力

例として電気を取り上げてみると、かつては、水が流れれば発電できる水力発電所が中心で、全国に多数の発電所がありました。水力発電所は多くの場合、岩盤の上に立地しており地震災害の危険度は小さいと考えられます。その後、火力発電所が中心になりました。大量の燃料と冷却水が必要なため、沿岸の埋立地に大規模発電所が建設されました。当初は、石炭、その後、石油、LNGと主要燃料が変化してきました。立地場所の災害危険度が高いこと、発電施設は通常の建築物としてしか設計されていないこと、燃料・冷却水・工業用水などが途絶すれば発電ができないことなど、災害対策上気がかりな点があります。その後、原子力発電所が建設されるようになりましたが、福島原発事故以降、多くの発電所が停止しています。原子力発電所は、岩盤立地で耐震安全性も高いレベルで設計されていますが、震度5程度の揺れで自動停止しますので、地震時には発電は停止します。このように、地震後には、大規模な停電が発生することが予想されます。

電力自由化でどうなる?

2016年4月に、家庭などに向けた電力小売りが全面自由化されます。電気料金が低価格になるメリットはありますが、一方で、地震時の安全性確保のための投資が減じられるのではと、懸念されます。社会にとって無くてはならないものについて、コストと安全とのバランスをどうとるか、今一度考えてみることが必要かもしれません。

ZEHは災害にも強い

最近、ゼロエネルギー住宅(ZEH)という言葉をよく聞きます。断熱、省エネ、創エネでエネルギーゼロの住宅を実現しようとするものです。創エネには、太陽光発電などが利用され、低価格化に伴って普及が進んでいます。また、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の普及によって、家庭での蓄電も現実的になってきました。これらを利用すると、大規模停電時にも各家庭で電気を確保でき、災害対応力の向上につながります。我が家も、年末に、太陽電池、蓄電池、燃料電池を導入し、ZEHを実現しました。環境と安全の二つを叶えられる新しい技術であることを実感しています。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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