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「子どもは親を選んで生まれてくる」説を、子どもに押し付けないで

大塚玲子ライター
選んだかどうか他人にはわかりようがありません(写真:アフロ)

 「子どもは親を選んで生まれてくる」という言説があります。いつからこういった説が広まったのか、はっきりとはわかりませんが、2002年頃からこういったテーマの絵本が多数、出版されています。

 筆者は正直なところ、この説にはあまり賛同できません。というのは、筆者自身は何も選ばず生まれて来た、という記憶がうっすらとあるからです(運良くいい環境に生まれたと思っているのですが)。なかには「親を選んできた」(という記憶をもつ)子もいるのでしょうが、みんなが親を選んでいることはないはずです。

 それに世の中には、親から虐待を受けて命を落としていく子どもたちや、毒親に苦しめられる子どもたちも、大勢います。

 そういった子どもたちが、自分で親を選んだということはあり得ませんし、他人がそういう子どもに「あなたが親を選んだ」ということは、暴力ではないかと感じます。

*「子どもは親を選ばない」という絵本を作りたい

 先日、ある虐待事件のニュースを読んだとき、筆者が発作的にこんなツイートをしたところ、予想外に多くの反響がありました(1週間で4000RT)。

お空で生まれる待機してる子どもたちが、決して親を選んだりはせずに、ほんとにただ偶然、誰かんちに生まれる、という絵本をつくりたい。あんたが選んだんじゃない、親がそんな人であることについて、あなたには1ミリも責任がない、ということをものすごい迫力で説明する絵本をつくりたい

 寄せられたコメントを読むと、「子どもが親を選ぶ」という言説に苦しめられている人たちは意外と多いことに驚かされました。

 なかでも切実だったのは、自分の親から「あなたが私を選んだ」と決めつけられたという経験をもつ人の声です。

〇実母に『あなたは、お空でお母さんを選んで生まれてきたんだよー!』と言われ、このセリフを強要されて育ちました。早く絵本作って欲しいです

〇(絵本)是非お願いします! 私は親が毒親で『あんたが私を選んできたんや! あんたを産んであげたことに感謝しろ!』でした…

〇応援します。昔、親から『子は親を選んで生まれるんだよ』と言われ、凄まじい不快感でした

 なぜ、親から「あなたが私を選んだ」と決めつけられることは不快なのでしょうか。

 そもそも、子どもが親を選んだかどうか、親にわかるはずがありません。本人だってわからないことがほとんどなのに、それを「親が子どもに言う」ところから、間違っているように思います。対等な人間関係なら、発せられない言葉でしょう。

 ひとり親家庭の子どもたちの支援活動をするNPO法人ウィーズ副理事長・光本歩さん(29)は、このように話します。

 「親が『子どもが自分を選んだ』と思うことで子どもをいとおしく思えるなら、そう考えるのはいいと思います。ただ、その考えを子どもに押し付けてしまうと、子どもは辛いんじゃないでしょうか。

 虐待を受けた子どもや、DVを目にした子、親の離婚を経験した子など、家庭で辛い経験をした子に対して『あなたが親を選んだ』と言うのは、『そういう目に遭うのは自分のせいだ』という意味合いになってしまうからです」

 タレントの春名風花さん(元・はるかぜちゃん)(16)も、このようなメッセージを寄せてくれました。

 「ママを選んで生まれてきた、という絵本を幼少期に与えることは、子どもがその後の人生を無意識に親に捧げてしまう呪いになりかねない、と以前から危うく感じていました。そうじゃない絵本づくり、全力で応援したいです」

 このほか、不妊で苦しんだ人たちから、「子どもが親を選ぶ」という説を聞くと、選ばれない自分たちに問題があるように感じられて辛かった、といった声も寄せられました。

 子を授かる・授からない自分の人生を大人がどう捉えるのも自由です。ただし、子ども自身の人生について、親が決めつけたりすることのないよう気を付ける必要があることを、改めて感じました。絵本の制作、かならず実現したいと思います。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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