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宮崎駿「風立ちぬ」アメリカでの評判は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

「風立ちぬ」が、金曜日にニューヨークとロサンゼルスで公開になった。本格的な公開は来年2月だが、アカデミー賞の候補になるためには、年内に最低1週間劇場公開されていることが必要。候補入りのために、1週間の二都市限定公開が行われたわけだ。吹き替え作業は間に合わず、アニメだというのに字幕だけの公開。ピクサーやドリームワークスの3Dアニメを見慣れた一般のアメリカ人には、2Dのセル画アニメというだけで興味を失う人も多いものだが、宮崎駿はアメリカでも知識人や業界人に崇拝されている人物。批評はきわめて好意的で、L.A.タイムスは「すばらしい最後の飛行」という見だしで文化面のトップで取り上げ、この作品を「とても美しく、とても特異である」と評価している。宮崎の引退宣言はハリウッドでもすでに知られており、「巨匠ならではの卓越した作品であるだけに、これが最後であるというのがあまりにも残念」とも語った。

「USA Today」紙も絶賛。「これまでの宮崎作品よりもリアリティに基づいているので、ファンタジーの要素を求めるファンはがっかりするかもしれない」としながらも、「ジローは戦争に使われた飛行機を作った人だが、戦士ではなく、ロマンチストであり、エンジニア。この映画は、そんな人物をビジュアルな形で描くポエトリーだ」と書いている。

「Entertainment Weekly」誌の評価も、A-。一方「New York Daily News」紙は5つが最高のうちの3つ星にとどまり、「『風立ちぬ』は『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』や『崖の上のポニョ』には及ばないかもしれないが、大人向けの映画であるという点で大きな意義がある」とコメントした。

だからといって、オスカーにつながるとは必ずしも言えない。2014年のアカデミー賞アニメ部門には、「モンスターズ・ユニバーシティ」「怪盗グルーのミニオン危機一髪」など大ヒット作品を含む19作品が提出されている。「千と千尋〜」は見事オスカーに輝いたが、あの年のライバルはせいぜい「アイスエイジ」や「リロ&スティッチ」で、いわば幸運な年だった。とはいえ、次のオスカーのアニメ部門には、圧倒的なフロントランナーも今のところいない状態。これからの3ヶ月、まだまだ何があるかわからない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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