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「韓国で接種後、北朝鮮に新型コロナワクチン支援を」74%…最新の南北関係世論調査を読む

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
18年4月、板門店で首脳会談を行った際の文大統領と金委員長。共同取材団。

2021年の第一四半期が終わろうとしているが、低空飛行はおろか、離陸の兆しすら見えない南北関係。今、韓国の市民たちはこれをどう捉えているのか。最新の調査からは北朝鮮への譲歩から突破口を見出そうとする動きが読み取れた。

●「凪」の朝鮮半島、韓国が動かせるか

今月8日から18日にかけて行われた米韓合同軍事演習のさなかの16日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は『3年前の春の日が再び戻ってくるのは難しい』との談話を発表し、「南朝鮮(韓国)当局は『レッドライン』を超えた」と強烈に韓国政府を脅した。

この発言は朝鮮半島の安全保障問題において、韓国が米国を「足止め」することを要求する北朝鮮の常套手段と受け止められるが、昨年6月には同じ脈絡で開城(ケソン)市にある南北共同連絡事務所を爆破した「実績」があるため、無視してやり過ごすこともできない。

結果として、18日に行われた米韓の外交・国防長官による「米韓2+2会議」の共同声明から「北朝鮮の非核化」や「北朝鮮の人権問題」といった言及が外れることになった。だが、南北関係が好転する見通しは未だ「ゼロ」と言っても過言ではない。

南北関係の悪化という流れは、既に2年あまりに及ぶ。19年2月末にベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂に終わって以降、金正恩氏はその怒りを韓国にぶつけ続けている。

「韓国が米国を説得できれば、説得できずとも今より一歩踏み出して北朝鮮に対する制裁に風穴を開けてくれたら」、その間の北朝鮮政府の言動からはそんな思いが透けて見える。

そして、このロジックは韓国でも政権を支持する層を中心に、充分に理解されている。朝鮮戦争の「停戦」状態を「平和」へと転換することの難しさを身にしみて分かっているためか、「韓国がリスクを負うべき」という論理だ。

こんな前提の下、今回の世論調査を読むとより理解が深まるだろう。

回答者の約4割は「北朝鮮の制裁緩和」こそが、今後の対話の突破口になると見ている一方で、5割以上が新型コロナウイルス感染症の拡散を前にした「防疫での協力」を肯定的に捉えている。新型コロナのワクチン支援に関しては「韓国が先」という前提はあるものの、7割以上が支援に同意する旨を明かした。

また、南北統一に関する視点では、「統一は必要ではあるが、その実現は非常に厳しい」という、ここ数年の韓国社会のトレンドに変わりがないことが分かった。

今回の世論調査は、統一に向けた世論を啓蒙する国家機関「民主平和統一諮問会議」が調査機関「韓国社会世論研究所」に依頼して実施されたものだ。調査は3月12〜13日にかけて、1000人を対象に行われた。

調査は南北関係の懸案を尋ねる5つの項目、推移を分析するための8つの項目の計13の質問からなる。同調査は四半期ごとに行われている。以下、全項目の内容を紹介する。

【参考記事】

日韓を駆け抜けた米国外交、「韓国は弱腰・孤立」と読んではいけない訳

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20210319-00228255/

●南北関係の懸案5問

(1)文在寅大統領は「3.1節」の記念辞で、米国、中国、ロシア、モンゴルと共に東北アジア防疫・保健協力体を発足させると明かした。あなたは北朝鮮が東北アジア防疫・保健協力体に参加する場合、南北関係の進展にどんな影響を及ぼすと思いますか。

・とても役に立つ:13.8%

・ある程度役に立つ:41.1%

・別に役に立たない:27.6%

・まったく役に立たない:11.6%

・分からない/無回答:5.9%

(※筆者注)南北間には従来、アフリカ豚コレラやマラリヤの共同防疫の問題も存在していた。北朝鮮は新型コロナにより国境を閉ざしているが、協力を進めることが関係好転につながるという見方だ。

(2)あなたは『4.27板門店宣言』、『平壌共同宣言』において、南北首脳間で合意された事項を安定的に履行するために、最も優先的にすべきことはどれだと思いますか。

・国会の批准同意による法的な根拠作り:11.6%

・南北間の軍事問題協議:30.7%

・対北朝鮮制裁緩和のために米国など国際社会を説得:43.6%

・分からない/無回答:14.1%

※18年4月の『板門店宣言』も『平壌共同宣言』も国会で批准されておらず、正式な予算がつかない状況が続いている。また、18年9月の『南北軍事合意書』では軍事問題を協議するための「南北軍事共同委員会」の設置を定めているが、これも実現していない。

(3)あなたは『韓半島平和プロセス』に対する国民的な共感拡散のために、優先的に推進すべきことは何であると考えますか。

・平和統一市民教育の拡大:14.1%

・与野党合意を導き出す:18.9%

・進歩、保守を網羅する社会的な対話の推進:55.5%

・分からない/無回答:11.5%

※朝鮮半島における冷戦体制を終結させるという『韓半島平和プロセス』は、北朝鮮を長期的な協力対象としており、強い圧迫を掲げる保守政党とは相性が悪い。こうした問題意識が回答に表れている。

(4)国際ワクチン購買・分配プロジェクトであるCOVAXが5月までに北朝鮮に新型コロナワクチン170万回分を提供することになりました。あなたは韓国の国民がワクチンを充分に接種した後、北朝鮮に新型コロナワクチンを支援することをどう思いますか。

・とても賛成する:30.2%

・だいたい賛成する:43.9%

・だいたい反対する:12.2%

・とても反対する:12.2%

・分からない/無回答:1.5%

※「余った分を提供する」分には、韓国市民は寛容であることが分かる。昨年12月、李仁栄(イ・イニョン)統一部長官が同様の発言を行った際には、保守メディアの袋だたきにあった。

(5)あなたは米朝対話再開のために、バイデン政権が重点を置くべき事柄は何だと思いますか。

・米朝シンガポール合意の継承:6.8%

・食糧支援など人道的な協力:11.4%

・新型コロナ防疫など保健・医療協力:14.8%

・北朝鮮の態度変化に相応する北朝鮮制裁の一部緩和:43.9%

・制裁強化などを通じた北朝鮮の圧迫:16.0%

・分からない/無回答:7.1%

※韓国では今も、北朝鮮への協力を通じて対話の糸口を探ろうとする戦略が肯定的に受け止められていることが分かる。また、いわゆるビッグディール(一括妥結)ではなく、北朝鮮が主張するような非核化措置と制裁緩和を交互にやり取りする段階的な非核化プロセスを望んでいることが分かる。

●推移を分析するための8問

以下は解説せずに、数値だけを整理する。

(6)あなたは統一が必要だと思いますか。

・とても必要だ:33.3%

・ある程度必要だ:36.0%

・別に必要ではない:19.4%

・まったく必要ではない:9.4%

・分からない/無回答:1.9%

※過去の四半期ごとの「とても必要だ」と「ある程度必要だ」を合計した結果。

69.2%(20年第一四半期)→65.5%(同第二四半期)→69.6%(同第三四半期)→72.0%(同第四四半期)

(7)あなたは南北韓の統一がいつ実現すると思いますか。

・5年以内:3.9%

・10年以内:15.5%

・20年以内:16.0%

・30年以内:9.3%

・30年以上:19.6%

・不可能だ:27.9%

・分からない/無回答:7.8%

(8)あなたは「韓国が統一する場合、今よりもはるかに発展し、良い暮らしを送れるようになる」という見解に対しどの程度共感しますか。

・とても共感する:26.4%

・だいたい共感する:35.0%

・別に共感しない:24.0%

・まったく共感しない:11.8%

・分からない/無回答:2.8%

(9)あなたは今後の南北関係をどう展望しますか。

・とても良くなる:4.9%

・多少良くなる:31.8%

・変わらない:46.7%

・多少悪くなる:9.2%

・とても悪くなる:3.3%

・分からない/無回答:4.1%

(10)あなたは北朝鮮が私たちにとってどんな対象だと思いますか?

・協力もしくは支援対象だ:39.7%

・警戒もしくは敵対の対象だ:37.6%

・別に関係ない対象だ:18.5%

・分からない/無回答:4.2%

(11)あなたは今後、北朝鮮体制の改革・開放可能性についてどう思いますか。

・とても高い:8.2%

・若干高い:36.8%

・若干低い:25.6%

・とても低い:25.9%

・分からない/無回答:3.5%

(12)あなたは米国、中国、日本、ロシアの中で、韓国の統一に最も大きな影響力を及ぼす国はどこだと思いますか。

・米国:56.1%

・中国:33.9%

・日本:2.0%

・ロシア:1.7%

・その他:0.6%

・分からない/無回答:5.7%

(13)あなたは韓国の安全保障状況についてどう思いますか。

・とても安定的だ:7.5%

・安定的な方だ:30.8%

・普通だ:27.9%

・不安定な方だ:23.9%

・とても不安定だ:8.7%

・分からない/無回答:1.2%

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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