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「私のために生きて」〜3年間拘束が続く弁護士への愛の手紙

宮崎紀秀ジャーナリスト
拘束された夫、王全璋弁護士の写真を掲げる李文足さん(写真:ロイター/アフロ)

 中国で人権派弁護士らが、当局に一斉に身柄拘束された事件から、きょうで3年となる。その中で、王全璋弁護士は、今も身柄拘束状態が続き、家族との面会は許されていない。事実上、安否さえ分かっていないと言える。2015年7月9日からちょうど3年。王弁護士の妻、李文足さん(33歳)がインターネットなどを通じて、夫へ宛てた手紙を公開した。

名前を呼びかける手紙

 手紙は「全璋」と夫の名前を呼びかけて始まる。

「あなたにいいニュースがあります。息子の泉泉は、男らしくなり、あなたとそっくりになりました。泉泉は幼稚園に上がって2か月となり、これまでのところ、警察に壊されてもいません。彼もとても喜んでいます」

 去年夏、李さんから話を聞いた際には、息子を幼稚園に入れようとしたところ、幼稚園側から拒否された、と嘆いていた。中国当局が「問題人物」の家族に圧力をかけるのは常套手段である。

 李さんも「地元の幼稚園や教育機関が、息子を受け入れないように指示を受けていたことが分かったのです」と悔しさを隠せない様子だった。息子は今年5歳になる。

ある日、人権派弁護士らが一斉に拘束された

 2015年7月9日前後に中国各地で人権派の弁護士や活動家らが、当局に一斉に身柄拘束された。香港の人権団体によれば、これまでに14人が裁判で国家政権転覆扇動罪などの罪を問われた。逮捕や出国禁止などの措置を受けた人は300人以上に上るという。

 王全璋弁護士もその1人。2015年7月10日午前、突然、音信不通となった。家族からすれば「行方不明」となった。その後、正式な逮捕などが伝えられるが、裁判は開かれていない。

「あなたはいつも慌ただしく、感情もあまり表さなかったです。さよならや、抱擁さえ、おろそかにしていました。私もそうだったし、私にも気兼ねがあって自分から内心の感情を表すことができませんでした」

 

 手紙は、夫と最後に別れた日を毎日思い出して、3年間ずっと後悔している、などと切ない心情を綴っている。

「もし、あの日午前、慌ただしい別れの後、再会が遥か先になると分かっていたなら、私は絶対にその気兼ねを捨てて、あなたを熱く抱擁したでしょう。(中略)そうしていれば、千日以上待ち続けている間、その抱擁のおかげで、私の苦しみは、少しだけ軽くなったことでしょう」

「パパは死んじゃったの?」

 王弁護士には、当局側が指定した弁護士のみが面会したと、されている。しかし、家族や家族が指定した弁護士は面会できていない。

 

 李さんは、この3年間、夫との面会や情報公開を求め、奔走してきた。しかし、今日に至るまで、健康状態についてさえ確たる情報を得られず、事実上、生死さえ不明と言える。

 

 李さんは息子に父親の安否を聞かれても「答えようがない」と表情を曇らせて話していた。手紙にも次のようにしたためている。

 

「最近(息子に)、『パパは死んじゃったの?』とよく聞かれます。私はいつもこう言っています。『あなたのパパは、怪獣退治に行ったの。怪獣をやっつけたら、家に帰ってくるよ!』。泉泉は、友達を家に呼んで一緒に怪獣と戦っています。ソファーやテーブルを怪獣に見立てて、枕で叩いたり、パンチを必死で繰り出したり。泉泉は友達に言っています。僕たちが一緒にパパを助けて、怪獣を倒したら、パパは戻って来るんだ、と」

「私のために何とか生きて」

 中国では、取り調べで頻繁に拷問が用いられる。同時期に拘束された弁護士らは、取り調べ中に拷問を受けたり、何らかの薬品を服用させられたりした体験を証言している。そうした取り調べの結果、保釈後、精神的に不安定になった人もいる。

 李さんの一番の心配は、夫の命だ。手紙は次のように結んでいる。

「全璋、あなたのために、私はどんな困難も恐れません。あなたも私のために、なんとか生き続けて下さい」

 圧力を受けているのは、王弁護士だけではない。一連の事件に絡み、すでに保釈された弁護士や、関係者の弁護を請け負った弁護士が、弁護士資格を剥奪されたり、登録を抹消されたりしている。こうした中国の状況に対し、国際社会が関心を払い続けることを、李さんは期待している。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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