空き家に居座る住人VS立ち退き交渉の男から、ステイ・ホームが強いられる今、「住」を思考する
とある田舎町の放置されていた古い空き家に、いつからか住み始めた5人と、立ち退きを迫りにきた役所職員の矢島のやりとりを通して、昨今話題を集めるシェアハウスを風刺したようにも、部外者の流入を好まない村社会の在り様を描いたようにも映る映画「stay」。
先に矢島を演じた主演の山科圭太のインタビューを届けたが、今回は手掛けた藤田直哉監督の話から、作品世界に迫る。
自主制作でもなんでもいいから、映画に志しのあるメンバーを集めて
映画を作りたい
第17回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 短編部門の優秀作品賞など国内映画祭で高い評価を受けた本作だが、実は藤田監督の大学時代のサークル仲間で作り上げた作品になる。
「脚本の金子(鈴幸)、プロデューサーの井前(裕士郎)、撮影の井前の兄、隆一朗は、もともと全員、明治大学の映画サークルの同期でお互いよく知っていました。
当時から、自主映画制作みたいことをしていました。どこかの映画祭のコンペティションに出すというよりは、仲間内で完結するような作品でしたけど、細々と作っていました。
大学卒業後は、金子は演劇ユニット『コンプソンズ』を旗揚げしたほか、舞台や映画などの脚本も書いて、『stay』にも出演していますけど、俳優としても活動していて。井前兄弟は東京藝大の映画専攻の方に進んで引き続き映画を学んでいました。僕も映像制作会社に入って映画とは関係のない映像を仕事にしながら、サラリーマンをしていました。
それから、卒業して2年ぐらいたったぐらいのときに、井前(弟)から、改めて集まって何かやろうみたいな話が出て、そのときは僕と井前で横浜を舞台に『ホンキートンク』という短編を撮ったんですね。
久々に一緒に仕事とは関係のないところで映像制作をしてみたら、やっぱり楽しくて。『今度はかつて一緒にやっていた金子も巻き込んでやりたいね』という話になってはじまったのが『stay』なんです。
あと、これは僕の個人的なことになるんですけど、映画監督としてはやっていけないだろうという自信のなさもあり、逃げの気持ちもちょっとあって、会社に就職したところがあったんです。
でも、井前と短編を作ったとき、やっぱり身を削りながらでもモノづくりをしたほうがいいことを実感できて、自主制作でもなんでもいいから、映画に志しのあるメンバーを集めて映画を作りたいと心から思いました。
そんな思いもあって、腐れ縁じゃないですけど、気ごころ知れた仲間で『stay』に取り組むことになりました」
実はあの家、知人が所有している古民家で何度か泊ったことがあるんです
まずはシナリオハンティングから始まったという。
「金子の脚本のアイディアのおもしろさは知っていたので、脚本は彼が書く前提でプロデューサーの井前とシナリオハンティングで、『stay』の舞台となるあの家に行ったんです。
実はあの家、知人が所有している古民家で何度か泊ったことがあるんですよ。
もともとある老夫婦が住んでいたそうなんですけど、その後、引き継ぐ人がいなくて。手放されたのを、友人が買い取って、改修しながら住んでいた。
つまり、本来、取り壊されてもおかしくない家が、所有者が現れたことで引き継がれた。それは家が生き延びたようにも考えられるし、改修されることはリボーンにも思えました。
それと、なんか家を引き継ぐことって、その住んできた人の歴史や過去も引き継ぐ感じがあるなと思ったんです。
その建物に前の住人の痕跡が残ってしまっている。
よくよく考えると家ってひとりが所有し続けることは不可能というか。人は必ず死を迎えますけど、家はきちんと修繕して改築していけば何百年と生き続ける。その場合、所有者が何人も変わっていく。
ただ、その家が生き延びるには機能し続けないといけない。人がいなくなると瞬く間に朽ちていく。だから、家にとって人は必要不可欠。
なにか古い家になればなるほど、そういう人の営みと、家の歴史が刻まれているような気がして。
そういうことを泊まるたびに、僕は感じていて、この家に抱くそれらの印象をそのままダイレクトに映像にできないかと思ったんです。
で、この家にシナハンにいって、金子と井前と3人でアイデアを出し合って。金子に脚本を託しました」
当初から脚本は金子鈴幸に任せる意向だったという。
「最初から、脚本は金子に、と思っていました。
彼は、ある意味、僕と真逆のタイプなんです。
僕は割と、人間を描くというよりかは、状況を撮るとか、その事象を撮るといった、いわゆる実験映画やアート映画の領域でやってきた。
一方、金子はいま劇作家としても活躍しているようにかなりのドラマの書き手なんですね。
そういう水と油のような畑違いの二人が一緒にやることでなにかおもしろいことができればと思いました。
あと、正直なことを打ち明けると、劇映画は、大学時代に監督したのが1本あるだけ。それは身内の人を使った作品ですから、きちんとした役者さんを起用して演出した作品は『stay』が初めてなんですよ。
自分自身、いわゆるドラマ的なストーリーのある作品にきちんと挑んでみたい気持ちもありました。
どうしても僕だけだと空間や状況といったところに固執してしまうところがある。そこに金子が作り上げたドラマ性が加わることでおもしろい作品ができるんじゃないか。
そういうコラボができればと思いましたね」
役者さんにはあの家に実際にたって、
感じたことをダイレクトに出してもらえれば
脚本は当初から大幅に変わったことを明かす。
「最終的に第10稿まで改稿を重ねた気がします。
最近、第一稿と最終稿を読み比べたんですけど、まるで違う作品になっていてびっくりしました(笑)。
最初は、山科さんが演じる矢島が、どこかから逃げてきて、この家に助けを求めたところ、すんなり受け入れられるみたいな話で。
しかもSFの要素が強い内容でした。
それが、実際にキャストに会って、みなさんから感じた印象とかに寄せて改稿していったら、いまの脚本にたどり着いて、家が中心にある物語になった。
だから、役者さんはほんとうに大変だったと思います。『当初と違うじゃん』とほとんどの人が思ったんじゃないかと(苦笑)。
ただ、言い訳になってしまうかもしれないんですけど、役者さんにも脚本に書かれていることにしばられてほしくないというか。
あの家に実際にたって、感じたことをダイレクトに出してもらえればと思ったんです。
なんとなく異世界と感じたら、それを出してくれればいいし、懐かしい印象を抱いたら、それをそのまま出してくれればいい。
そうすることで当初、僕が考えていたこの家の雰囲気をダイレクトに映像で表現することにつながるとともに、ひとつのドラマとしてもおもしろいものになると思ったんです」
人間は他人と一緒に生きている、という当たり前のことを感じてもらえたら
確かにそういわれると、この作品は「家」がいわゆる生命体のように感じられ、不動で存在しているように感じる。
そして主人公の矢島が最後にする選択というのもちょっと不気味なことに映ってくる。
「たとえばですけど、ちょっと古びた旅館とか、歴史建造物になっているような洋館とか、入るとなにか違う空気を感じるじゃないですか。
そういう感覚が伝わってくれたらなと。
なので、その状況に置かれた人を撮るというよりも、その状況を丸ごと撮る意識を強くもっていました。
家自体をみせたいところもあったので、人の配置や撮り方もけっこう練りました。
なので、勝手に古民家に住み始めた住人の立ち退きにきた矢島が彼らと出会うことでどんどん変化していく物語であることは確か。
ただ、視点を家に移すとまったく違う世界が見えてくるんじゃないかなと思っています。
あと、この家には5人の男女が住んでいるわけですけど、彼らはそれぞれの領域には決して踏みこまない。お互い干渉はしない。
でも、ここに来たいうことは、誰かとつながりたい気持ちがあったからだと思います。
人間は他人と一緒に生きている、という当たり前のことですが、『stay』を観て、その当たり前を改めて考えて、感じてもらえたらうれしいです」
「stay」
監督:藤田直哉
脚本:金子鈴幸
出演:山科圭太 石川瑠華 菟田高城 遠藤祐美
公式サイト:https://stay-film.com/
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場面写真はすべて(c)東京藝術大学大学院映像研究科