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空き家に勝手に住み始めた素性の知れない人たち。立ち退き交渉に出向く役場職員を演じ考えたことは?

水上賢治映画ライター
「stay」 主演の山科圭太 筆者撮影

 とある田舎町の放置されていた古い空き家に、いつからか素性の知れない若者たちが住み着き始める。

 対応を迫られた役所から担当を命じられた矢島は退去勧告の通達へ。しかしなんやかんやと居座られ、立ち退きの説得は難航する。

 つながりが強いと思いきや、実はお互いに干渉はしない住人たちの奇妙な共同生活の場に身を置いた矢島。周囲に流されるまま一晩泊まることになった彼の身に何が起こるのか?

 こんな風変わりな物語が展開する映画「stay」。ここで描かれるのは、昨今話題を集めるシェアハウスを風刺したようにも、部外者の流入を好まない村社会の在り様を描いたようにも、はたまた、現代の希薄な人間関係を鋭く斬っているようにも映る

 奇妙な共同生活を送る住人たちのフィールドに恐る恐る足を踏み入れることになる主人公の矢島を演じた山科圭太は、脚本の第一印象をこう語る。

「第一印象としては無駄がない。セリフにしても状況にしても、ギリギリまでそぎ落として必要なものだけが残された脚本だと感じました。

 セリフも少なければ、ト書きもほとんどないので、矢島にどうアプローチして、どう演じればいいのか、つかみかねたところはありましたね」

「stay」より
「stay」より

この作品における主人公は、誰でもない、あの家にほかならない

 その中、矢島を演じる上でポイントになったのは舞台となる「家」だったという。

「監督の藤田(直哉)君との意見交換やリハーサルを繰り返す中で、矢島をつかんでいきました。

 そこで気づいたんです。この作品における主人公は、ある意味、誰でもない、あの家にほかならない。その家には、よくわからないつながりで住んでいる住人がいる。そこへ矢島は入っていく。矢島はいわば部外者であり、紛れ込む侵入者。なので、矢島のキャラクターを紐解くよりも、その場に立って感じたことを素直に出すリアクションが大切かなと。

 実際にその場所に行って、見える風景や家の中に入って感じること、共演者の方々が演じるそれぞれのキャラクターに素直に反応できることが大切ではないかと思いました。

 実際に撮影をした家にいったときは、強烈な印象を受けたんですよね。すごい山奥にあって、まだ雪もちょっと残っている季節で、よけい肌に感じたのかもしれないんですけど、その家のたどってきた歴史の重みであり、人の暮らした跡のようなものが伝わってきた。

 この家のいいようのない空気に身を委ねて、あとは初めて出会う得体の知れない(笑)住人たちときちんと向き合えば大丈夫だと思いました」

古民家に居座るクセのある住人たちとは?

 そう言われると確かに矢島は、劇中で家に足を踏み入れる唯一の人物。そこで彼は立ち退くよう住みついた5人の説得にあたる。だが、ミイラ取りがミイラになるごとく、住人たちに言いくるめられる。

 登場する住人はかなりの曲者だ。菟田高城(うだ・たかき)が演じた鈴山は家を取り仕切っているリーダー格の男。大柄でどこか高圧的なところもある人物だ。

「ちょっと近寄りがたいところはありますよね。矢島も最初はおっかなびっくり対応しているところがある(苦笑)。

 この家のまとめ役ではあるんですけど、ほかの住人からちょっとうざがられているところもある。それを本人も少し自覚しているので、ぶっきらぼうだけど矢島を完全に突き放すわけではない。

 だから、矢島としては家の立ち退きという自分のミッションの最大の壁ではあるんですけど、どこか憎めない印象も抱いたんじゃないかなと思います」

「stay」より
「stay」より

 次なる住人、石川瑠華が演じるマキはつかみどころのない人物。初対面の矢島に対しても愛嬌をふりまき、親し気に接してくるが、本心がどこにあるのかまったくつかめない。

「ほんとうにマキは謎ですよね。

 そもそも考えると、あんな若くてあまり社会にもなじめない性格には感じられない、明るくて屈託のない女の子がなぜあの家にいるのかわからない。

 結末につながるので、詳しくは触れられないんですけど、彼女は本作におけるキーパーソンであることは間違いない。

 矢島は知らず知らずのうちに彼女の術中にはまって、振り回されます(笑)」

「stay」より
「stay」より

 そしてもうひとりの重要人物が遠藤祐美が演じたサエコ。家の食事を用意するなど、彼女は母親のような役割をこの家で担っている。いわばこの家に必要不可欠な存在といっていいかもしれない。

「この家にいる人の中で、サエコさんは一番の常識人というか。きちんと正面から対話ができる人。矢島としても一番向き合いやすい。

 だから、ある意味、マキ以上になんでこの家にいるのかつかみかねる。

 その大きな存在がいるかいないかもまたこの物語のキーポイントとなっている。ここも物語上、ちょっと明かせないんですけどね」

「stay」より
「stay」より

矢島の細かい変化がなにかを物語っている

 こうした人物を前に説得を試みようとしていた矢島の心は揺れる。というか完全に取り込まれていってしまう。

「矢島はどんどん流されていくわけですけど、その末にあるところへとたどり着く。その矢島の変化がひとつこの作品のポイントになっていると思います。

 その変化は視覚としても表現されている。はじめはいかにも役所から来たと思われるスーツ姿で、この家には不似合いな革靴を脱いで家に上がる。

 それがいろいろとあってラフな部屋着を借りて、気づけば家の作業を手伝っている。

 それでこれは完成した映画には映っていないんですけど、最後に靴のかかとを踏んじゃっているんですよね。監督と相談して『こうしましょうか』と意見が一致したんです。

 そういった細かいところで矢島の変化を表現している。そこを見てもらえると、さらにおもしろい作品に感じてもらえるかなと思います」

「stay」 山科圭太   筆者撮影
「stay」 山科圭太   筆者撮影

いわゆる人間の暮らしにおいて重要となってくる衣食住の『住』の問題に

フォーカスしていく物語ではないか

 いま都会になじめない人たちが地方への移住したり、地方で若者たちが古民家でシェアハウスをしたりといったニュースがたびたび報じられるようになっている。その世の中の風潮も盛り込んでいるようにも映るが?

「僕はこういうシェアハウスであったり、田舎暮らしであったりに、憧れはあるんですけど、実際は難しいですかね。ある友人から常にだれかいてさみしくないといったことを聞きましたけど、僕にとっては1人になる時間がむちゃくちゃ大事だったりするので無理かなと。

 知人と短期の旅行にいっても、どこかで1回は衝突するタイプだから、難しい。

 ただ、こういう共同体に惹かれる気持ちはわかります。1人でいるとどうしても考え方とか凝り固まってくる。でも、いろいろな人と出会うと、刺激を受けるし、『こういった考えた方があるんだ』と気づかされることもいっぱいある。だから、こういうコミュニティが存在することについては理解できますね」

 その上で、本作の魅力をこう語る。

いわゆる人間の暮らしにおいて重要となってくる衣食住の『住』の問題にフォーカスしていく。人と人とのほどよい距離、人と人が一緒に暮らすことという、人間の根源的なところについて改めて考えるきっかけになるんじゃないかと思います」

「stay」ポスタービジュアル
「stay」ポスタービジュアル

「stay」

監督:藤田直哉

脚本:金子鈴幸

出演:山科圭太 石川瑠華 菟田高城 遠藤祐美

公式サイト:https://stay-film.com/

アップリンク渋谷ほかにて公開中

場面写真はすべて(c)東京藝術大学大学院映像研究科

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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