だんだんジャズ~Fの巻~なぜジャズは聴く者を虜にするのか
毎回3曲ずつジャズの曲を聴き比べながら、なんとな~く、だんだんジャズがわかってきたような気になる(かもしれない)というシリーズ企画『だんだんジャズ』の6回目は、Fの巻です。
●Fの巻のポイント
拙著『頑張らないジャズの聴き方』「StepF」の章タイトルは「売春街で咲いたのが最初のジャズの“花”――ニューオーリンズがジャズの“ふるさと”と呼ばれる理由――」。
ここでは、ジャズのルーツの1つであるアメリカ南部の大都市ニューオーリンズを取り上げて、19世紀末にはどんな状況だったのかに注目しながら、ジャズが生まれた“背景”を考えてみました。
ジャズを形成する要素を多く含んでいるはずのニューオーリンズ・スタイルのジャズを知ることは、「ジャズとはどんな音楽なのか」を知ることでもあります。
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♪Maple Leaf Rag 8歳のラグタイムピアノ 奥田弦
奥田弦クンは、2011年に9歳でアルバム・デビューを果たした小学生ジャズ・ピアニスト。彼が8歳のときのこの映像で弾いている曲は、スコット・ジョップリンが作曲した「メイプル・リーフ・ラグ」。ピアノのジャズ曲のルーツ的なものです。彼が弾いているようすは、まるでアクロバットのようですが、そうしたパフォーマンスを含めてジャズが受け入れられていったということも見逃せないポイントです。
♪Wynton Marsalis "In The Court Of King Oliver"
コルネット奏者のキング・オリバーは1885年生まれで、青年時代をニューオーリンズで過ごしたという“ジャズの生みの親”の1人です。その名前をタイトルにした曲を作ったのは、1961年生まれのトランペット奏者、ウィントン・マルサリス。ウィントンは1980年に弱冠18歳でアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの一員としてデビューし、新世代のリーダーとして注目を浴びました。その後も「ジャズとはなにか?」と意識的に問うような活動を続け、ジャズ・アット・リンカーン・センターの芸術監督を務めるなど、ジャズにとどまらずアフリカン・アメリカンの文化に関するキー・パーソンとして次々と問題作を発表しています。
♪The Dirty Dozen Brass Band ー Dirty Old Man
一般にルーツ・ミュージックを伝承する楽団のサウンドは、プリミティヴなだけに現代感覚とは合わないことも多いのですが、DDBBは現代の流行を上手に取り込みながら、ニューオーリンズ・スタイルのサウンドがいまも十分に魅力的であることを伝えてくれます。
ジャズにはもともと祝祭の熱狂を表現する要素が備わっていることを知ることも、その魅力を掘り下げていくときに役に立つと思います。
●まとめ
「オトナな」「夜の」「まったりした」などなど、現代のジャズに対するイメージは多岐にわたるものの、その大半が抑制のきいたサウンドに対する評価であることは否めません。しかし、ジャズはその発祥においてはお祭り状態の場所で演奏されるのがふさわしい、ガチャガチャした、ホットな=高揚感を与える音楽であることを忘れてはいけません。
つまり、どんなにクール=抑制のきいた音楽に仕立て直そうとしても、その核心部には聴く者を興奮させてしまう“ホットな魅力”が潜んでいるということを意味しています。
ここに挙げた3曲は、2012年に上梓した拙著『頑張らないジャズの聴き方』の「ステップ編」で欄外に掲載していたものを参考にしながら、新たにYouTubeを探し直して選んだものです。