東京ブランドロゴは五輪エンブレムの二の舞にならないのか?
「"&TOKYO"に決定 東京ブランドロゴ 五輪に向け世界に発信」というニュースがありました。
だそうです。東京都による公式サイトもだいぶ前にできています。
ここで、また、ネット民により類似ロゴが発見され、パクリ疑惑が持ち上がっています(参考記事(痛いニュース))。
パクリ元と騒がれている中で代表的なのは以下のロゴです。フランスの眼鏡店のPlug and See社のものです。アンド・マーク(アンパサンド)をちょっと変えただけ(一部が欠けている)のデザインなので、似たような感じのロゴがあるのはしょうがないと言えます。
また、そもそもアンパサンドのフォントにはいろいろなバリエーションがあるので、一部が欠けたフォントも既にあります(参考サイトElegant Fonts For Great Ampersand Designs)
しかし、著作権的にはPlug and See社のケースも、上記のフォントのケースも問題ないと思います。特にシンプルなロゴマーク的なデザインの場合には、デッドコピー(そのまんまコピー)でもない限り、著作権法的には類似とはされません。さらにはフォントそのものはよほど特殊なものではない限り、著作物とはされないのが判例として確定しています。ちょっと似ていたくらいで著作権侵害を疑われる状態では誰であってもロゴデザインはできなくなってしまうのでこれは当然です。
では、商標法的にはどうでしょうか?&TOKYOは、既に全類を指定して商標登録出願されています(商願2015-71615)。これが登録されるかどうか考えてみます。
このように地名を含む商標の場合、地名部分には識別力がないということで、地名部分以外で識別力や先登録との類似を判断されることがあります(「松阪牛」など地域団体商標として出願された場合を除きます)。こういう考え方で、&TOKYOロゴを見ると、上記の&のロゴ部分だけで比較することになります。同様に一部が欠けたアンパサンド・マークの先登録商標がいくつかあります。たぶん類似とはされないと思いますがちょっと微妙です。
しかし、上記のように地名部分以外で類似を判断する手続きは確定したものではく地名部分を含めて全体で類似が判断されることもありますし、そもそも商標の審査では市場の取引の実情を加味してもよいことになっているので、先登録が周知商標でもない限り特許庁がわざわざ&TOKYOの商標登録出願を拒絶することはないのではと思います。
ということで、&TOKYOロゴについては著作権と商標権的には問題ないと思います(少なくとも今ある情報から判断する限り)。その点から言えば、佐野五輪エンブレムについても、それ単独では著作権と商標権的には問題がないと言えました(ベルギーの裁判も最終的にはIOC側が勝てる可能性が高いです)。しかし、同氏の他の作品に明らかに著作権上問題があるもの(典型的にはBEACHのトートバッグ)が次々と発見されたため、エンブレムについても採用はふさわしくないとされてしまったわけです(これはしょうがないと思います)。今回はそういう事情があるとは思えません(少なくとも今のところは)。
知財的な問題以外にも上記記事に書かれている制作費1億3,000万円が妥当なのか(CI的なコンサル仕事やWebサイト制作も含めてであれば別ですがロゴ単独の制作費だとすればどうなんでしょうか?)、一般公募すべきだったのではないか、そもそもロゴとしてありなのか等々の議論はあるかもしれませんが別論です。
【追記(2015/10/12 20:09)】
ニュージーランドの法律事務所のロゴ(中のアンパサンドのデザイン)に似ている説が持ち上がりました(参考サイト(痛いニュース))。これも偶然の一致(類似)のレベルなので著作権法上は問題にならないでしょう(商標権と異なり著作権は偶然の一致には及びません)。偶然の一致が生じないくらいのもっとひねったデザインにするべきではなかったかという議論もあるかもしれませんが、これまた別論です。
【追記(2015/10/13 22:10)】
新たな記事によれば、1億3,000万円の内訳は「(1)ロゴマーク自体に500万円、(2)商標調査に2540万円、ポスターや映像などPRツールのデザイン経費に7000万円」だそうです。まあ妥当と言えば妥当かもしれません。また、上記のフランスの眼鏡ショップは「日仏友好のため、ロゴを変更するつもりです。新しいロゴを支援するための資金をお願いします!」とWebサイト上で言っているそうです(これはうまいやり方)。
【追記(2015/10/13 22:15)】
関連蘊蓄なんですが、&TOKYOがモデルにしたI Love New Yorkロゴ(Love部分はハートマーク)はデザイナーの好意によりデザイン料無料だったそうです(参考Wikipediaエントリー)